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3 トラブルばかり

「おいおい、高校生なんだからもっと早く帰って来いよ。補導されたら面倒なことになるだろ?」


部屋に戻ると部屋の主のようにベッドの上で寝転がっているシエロ。


少しムカつきはしたがシエロの言うことは正しい。


高校生が深夜二時に徘徊していれば、巡回中の警察官に見つかった場合、当然声をかけられるからな。


まるで寝起きみたいな細い目で俺を見る。


そして不機嫌そうにシエロが言った。


「で、どうするんだ?」


シエロの言葉に生唾をゴクリ飲む。帰ったら聞かれることは予想できていた。


俺は正座をすると、頭を床につけて土下座した。


「ごめん…。やっぱり怖いよ…。戦いなんて…できないよ…」


そう。これが考えた上で出した結論だ。


バカな頭をフル回転して考えた上で、だ。


俺が…勝てるはずがない、と。


だったら、俺なんかより勝てそうなヤツに代わってもらった方がいいのでは?と。


当然俺は消されるだろう。


でも…消されてしまえば、この世のことなんか気にならない。


いっそのこと異世界にでも転生させて欲しい。そこでチート能力を身につけて楽しく暮らしていたい。


きっとこんな俺を誰が見ても情けないと言うだろう。


もし、そう言われたなら俺はこう言うだろう。


じゃあ、俺と代わってくれ!と。


きっと誰もが手を挙げず、俺の批判をして終わりだろう。自分ではやらないくせに、だ。


現に世の中はそうじゃないか。


そんな無責任な連中に俺の気持ちが分かるわけがない!


まあ、この事実が世間に公表されることはないだろうから、不特定多数に非難されることはないだろうが。


いや、批判される俺の存在が消えるわけだから…どうでもいいか。


「そうか。だが、これも何かの縁だ。お前を鍛えてやろう」


思わぬシエロの言葉に顔を上げ「何言ってんだ、コイツ?」と言わんばかりの怪訝な顔をしてしまった。


「どうせ消されるんだろ?なら付き合えよ。俺も人に教えるのが初めてなんだ。次のヤツのこともあるから、俺の練習台になれ」


人が必死に考えて諦めたと言えばこれか。諦めた俺でも利用する…実に感心するよ。


まあいいか。どうせ最後にすることはない…いや、ある!


そうだ、俺には最後にやり残したことがある!


「なあ、シエロ。お前、オーチェと連絡とれるのか?」


俺の勢いに気圧されたのかシエロは数歩下がった。


「あ…あぁ。まあ…できなくはない…と思うが…」


「じゃあお前の実験台になるからさ、人生最後の願いだ!オーチェと…オーチェと…一回…いや、デートでいい!させてくれ!」


俺の言葉にシエロは固まった。


バカにされてもいい。どうせ最後なんだ!女の子と…デートを…欲を言えば卒業式まで行いたい!


「ダメか!?いいじゃないか!消えゆく哀れな少年の願いくらい聞いてくれても!」


俺は大真面目に言ったのだが、シエロは「はぁ?」と言わんばかりに口を半開きにし、目を細めた。


「も、元はと言えばオーチェが…あんな頼み方するから…その…あれだよ、理性が効かなくなったと言うか…何と言うか…」


俺の言い訳にすらならない言い訳を聞いたシエロからは返答ではなく、ため息が漏れた。しかし気にせず俺は自分の想いをシエロにぶつける。


「いいか、俺は真面目にオーチェと卒業式を…」


「お兄ちゃん、うるさい!何時だと思ってんのよ!」


ドアを破壊しそうな勢いで開けて来た間子から枕が飛んできた。


俺はその枕を顔面に…喰らわなかった。


思わず避けたのだ。


避け…た?いや、避けることを意図的にできた。


「鈍臭いお兄ちゃんにしてはやるじゃ…あー!」


間子は俺に何か言いかけてたが、俺を押し退けるとシエロに向かって一直線に駆け寄り、シエロを抱き上げた。


「可愛い!どうしたの!?拾って来たの!?お兄ちゃん、猫派だったっけ?それにしても可愛い〜」


抱えられた挙げ句、至る所を撫で回されてシエロは困惑していたが、最後は諦めて間子のおもちゃと化していた。


大きなため息をつくシエロ。


間子にどう聞こえてるか分からないが、シエロに頬擦りしながら「そんな嫌がらないでよ〜」と嬉しそうである。


「お兄ちゃん、名前はあるの?」


にっこにこの満面の笑みを浮かべて問う間子。


お前のそんな顔、俺、最近見てないけどな…。


「シエロって言うんだ。あまりシエロの嫌がることしてやるなよ」


一応注意をしてみたが、間子は「しないって」と言いながらしっかり抱きしめている。シエロは決して喜んだ顔はしていないのだが…。


「今日、シエロと一緒に寝ていいよね!」


間子は俺の返答を聞く前にシエロを連れ去ってしまった。


まあ、間子に見つかればこうなるのは予測できたのに、すっかり忘れていた。


昔、間子は猫を飼いたくて両親にお願いした。


だが、間子が幼かったので両親は「もう少し大きくなってからね」という誤魔化しのような決まり文句でその場を終わらせた。


以来、今でも間子の部屋は猫グッズが多くあり、手に入らないものは余計欲しくなるという人間のわかりやすい心理によって完全な猫派となったのであった。


「この子、お兄ちゃんみたいだね。お兄ちゃん、黒いロンTよく着てるからさ。…もしかして、お兄ちゃんの隠し子?」


猫でテンションの上がった間子は変なことを口走った。


もしそうなら、俺は猫相手に卒業式を行ったことに…いや、そもそも猫とは子供作れないだろ…。


だが、言われてみればそうだ。


俺は黒い服が好きで、家で着ているのは確かに黒のロンTである。


黒が好きな理由は、何だか強そうだから、である。


悪役にしろ、クールなヒーローにしろ強いヤツは黒を身に付けている。だから、少しでもあやかろうと思い、黒をよく着ている。


全く効果がないことは御愛嬌だ。


「んじゃ今日は私と寝よ、シエロ♪」


売られていく仔牛のように悲しそうな目を俺に向けるシエロ。しかし、間子に配慮してか暴れたりはしない。


「大丈夫よ、シエロ♪私、寝相はいいから潰したりしないよ」


そう言い残すとシエロが間子にさらわれてしまった。


まあ、階段挟んで隣の部屋なので焦ることはないが、間子の部屋に夜入ることは俺にはできない。


以前、間子の持っているマンガの中で読みたいものがあったので、間子の部屋にノック無しで声だけかけて入った時であった。


俺は女の子の生態について詳しくないから妹が普通かどうかは分からないが、ドアを開けて俺が見たものは妹のあられもない姿。


姿見の前で…可愛い肉球の模様がある下着の試着をしながらモデルのようなポーズを決めていたのだ。


俺は見てはいけないものを見てしまったのだろう。


その後、俺はどうなったかよく覚えてない。


確か無数の拳を叩きつけられてボロ雑巾となり、気が付けば俺の部屋…という恐怖の記憶が微かにある気がする。


それ以来、間子の部屋に入るときは


1.ノックして許可を得て入る


2.21時以降は部屋に行かない


3.本人がいないときは入ってはいけない


という鉄の掟が誕生したのだ。


まあ、猫好きの間子の場合、シエロは可愛がられるだろうから問題はない。


ただ…トイレやエサがシエロに必要なのか謎だけど。


いや、それよりもさっきの出来事だ。


俺は、飛んでくる枕を避けた。


間子の投げた枕は鍛えられた腕力によって決して遅くはない。むしろ同世代平均女子の投げる枕より威力と殺意がある分早いのだ。


今まで枕、雑誌、靴、ゴミ箱など投げつけられたが、100%当たっていた。投げると分かっていたとしても当たっていた。


だが、さっきは違った。


間子の枕を投げるモーションを見て、来る軌道が何となく分かり避けたのだ。


「もしかして…スピリットスキルが覚醒した…からか?」


ここまで身体能力が向上するなんて…思わず自分の掌を見つめてしまっていた。


「ということはもしかして…」


気になったので今度は自分の机の上にある数学の参考書を手にした。ぱらぱらとページをめくり読んでみる。


「何だろう…読んですぐ理解…は出来ないけど…意味が少し分かる…」


今まで数学に限らず、教科書や参考書は異世界語の古代の魔術書だと思えるくらい意味が分からなかった。


そう、以前はそうだった。


だが今は…書いていることの意味が少しだが分かるのだ。


普通の人から言わせれば全く理解できないと思われるかもしれないが、俺にはとんでもない変化であった。


例えるなら同じに見えるジグソーパズルのピースが一つ一つ形が違うことに気が付けた、みたいな感覚である。


「どういうことだ?俺はどうなっちゃったんだ?」


不思議に思い別の教科の教科書も流し読みをしてみる。


まるで脳改造されたかのように今まで見ていたものとは違う感覚。自分で自分が信じられない。


「そうだ!」


俺はスマホで光について検索をした。今なら調べてもいくらかは理解できるはずだ。


検索していると、ふと光加熱という言葉が目に入ってきた。


「光って加熱できるの…か?知らなかった…」


更に光の特性を学んでいく。


光は屈折する、反射する、散乱する、分散する…そして速い!


面白くなってきたのでもっと何かないかと調べる。


すると、光の反射や吸収で俺たちにも物体が見えているって…光にこんな役割あったのか。


光って身近にあっても、案外理解できてないものだと気付かされる。


光の特性は俺の想像を遥かに超えていた。てっきり明るいだけかと思っていた…。


「つまり、光が当たって熱を作るイメージで…あ、あれがいいかな」


俺は部屋の中の学習机の上にある帰りに自販機で買ってきたペットボトルのお茶を見つけた。


それに向けて意識を集中させる。


光が…いや、光の線がペットボトルに当たり、熱により穴をあけて貫通する…かな。


人差し指をペットボトル向けて指先から放つイメージを思い描く。


その瞬間事件が起きた!


俺の指先から放たれた光は一瞬にしてペットボトルを貫通して…家の壁を貫通して…光は消えた。


そこに残ったのは穴が開き、お茶が流れ出ているペットボトル。


そして、そのペットボトルの後ろの家の壁の焦げ跡のある外が見える穴…あ、あ、あ、あ、穴!?


「はい?」


起きたことの把握に俺は数分を要した。


後で調べた結果…光には直進性というものがあるらしい…。


だからペットボトルを貫通した光は当然直進し、家の壁をも貫通して直進したわけか。


普通の光ならこんなことにはならない。だが、光に熱のイメージが重なった俺の放った光は別物のようだ。


問題はその熱がどのくらいかをちゃんとイメージしていなかったことだろう。漠然とアニメのレーザーをイメージしたのが悪かった。


アニメに出てくるレーザーは強力なものしかない。ゆえに、ペットボトルを貫通して終わるわけがない。


そこまで想像できなかったのは俺の予測の甘さと言えるだろう。


一つ救いなのが家の壁に穴は開いたものの、その先には何もなく、家の外で何かを破壊したということはなかったようだ。


俺の部屋が二階でよかった。もし一階ならたまたま歩いていた人に…。


思わず血の気が引く。


これって実はとんでもない能力なんじゃないか!?


これが当たれば致命傷間違いないだろ、これ。


つまり、これで遠くから攻撃をすれば…勝てる可能性はある!


いや、光より早く遠くから攻撃できるものは想像できない。


もしかして余裕なんじゃないだろうか?


光…最強じゃん!


まるでインターネットの広告文言みたいな言葉が浮かぶ。


俺は浮かれた気分でベッドの中に入る。


そうだよ、こんな能力を得た俺が負けるわけないに決まっているじゃないか!


負けるわけ…ない…よな?


何度も何度も自分に言い聞かせ俺は無理やり眠るのであった。





朝が来た。


最強になったはずの俺がまどろんでいると俺の尻にゲシゲシ蹴りを入れてくるヤツがいる。


「お兄ちゃん!シエロのこと、お母さん知らないって言ってるよ!お母さん、怒ってるよ!」


寝ぼけ眼をこすりスマホで時間を確認する。いつも起きるよ三十分も早い。間子は一体何時に起きているのだろうか?


「それにシエロ、昨日ご飯あげてないでしょ!元気ないし、あまり動かないし…ご飯買ってきてないの!」


それはすっかり忘れていた。


何よりオーチェの使徒なら普通の猫じゃないし…エサ、必要なのか?


「さっさと起きてお母さんに説明してきなさいよ!」


ベッドから引きずり落とされた俺は間子に力任せに引っ張られて下へと連れていかれる。


「私はコンビニでエサ買って来るから、その間に説明しときなさいよ!」


台所の入口に罪人を突き出すかのように俺を押し入れて間子は玄関へ向かって出ていった。





約三十分後。


固まった母の姿を見た間子は驚き、猫のエサの袋を落として母に駆け寄っていた。


「お兄ちゃん、お母さんに何したの!?お母さん、なんか変だよ!」


間子が買い物に行った間、説明が全く思いつかなかった俺は正気の沙汰とも思えない方法を試して見た。


それは咄嗟に思いついた「俺、シエロを愛してしまったんだよ!もう離れられないんだ!もうシエロ無しでは生きていけないんだよ!」と心にもないことを迫真の演技で言ってみたのだ。


それを間子に説明するのが面倒になったので「俺の猫愛を熱く語り過ぎた」と答えておいた。


すると、何を想像したのか、間子の俺を見る目が軽蔑の目へと変わっていった。


「まさか…日頃色んなことが上手く行かないからって…憂さ晴らしするために飼ったの!?」


「違う!断じて違う!」


妹よ…兄は、お前からそう見えているのか!?そうだとしたら俺は悲しい…。


「そうよね。お兄ちゃんなら猫で憂さ晴らしするより猫に憂さ晴らしされる側になるよね」


変なとこを妹は信じてくれた。まあ、確かに…シエロ相手なら負けそうだが。


そんなこんなしていると、登校する時間が迫ってきていた。


俺は皿に猫のエサと水を用意し、二階の間子部屋にいたシエロの近くに置いた。するとシエロは「は?」と方眉を上げたような顔になり、ため息をついた。


「猫の姿だが…俺は…そうだな、分かりやすく言えば神話上の生き物と同じだと思えばいい。俺にエサは要らないし、トイレもしないし、何も食わなくてもいい」


そう言えばオーチェも神の使いだったっけ。そのオーチェが俺の元に送って来たなら当然と言えば当然だよな。


「母親の事は俺に任せてさっさと学校に行け」


まるであしらうかのように俺に尻尾を何度か振ると、そのまま間子のベッドで丸くなった。


本当に大丈夫なのか?


不安だ…。


本当にシエロに任せていいかどうかを考える時間は無い。遅刻するかしないかの瀬戸際だ。


神様仏様シエロ様、何卒よろしくお願いいたします!


祈りの結果は今日の帰宅時に分かる。頼むからこれ以上トラブルを増やさないでほしいと更なる祈りを重ねつつ、学校へダッシュを開始したのであった。


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