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14 絶望的な無能

翌日起きると俺は今まで体験したことない筋肉痛に見舞われた。


昨日、学校から帰ってずっとシエロにしごかれ…もとい、いじめられた結果だろう。


最後には倒れた俺の頭の上に座り「どうせ中身がないのなら、せめて椅子としてくらいに役立つなら救いがあるんだがな」という暴言を吐くほど過酷にいじめられた。


学校の中でそんないじめが起きたなら、それこそ新聞やSNSで炎上ものである。


今日は土曜ということもあり、昼間までしか授業がないのが救いであった。


ゾンビにでもなったかのような重い体を動かして学校へと向かう。


そのすぐ横でシエロはベッドで気持ち良さそうに寝ているのがムカついたが、攻撃する気力も無く俺は着替えをして出てきたのだった。


登校中、後ろから首に衝撃を受けた。


敵ではない。


この攻撃は…もとい挨拶の仕方は香織である。


今まで何度も受け止めてきたこの衝撃は間違いないと俺の首がそう判断した。


「元気ないじゃない。朝からどうしてそんなにテンション低いのよ」


声の主を確認する。


素晴らしき俺の首の感覚。


満面の笑みを浮かべる香織様のお顔が俺の視界に入る。


「ちょっと…疲れてるだけだよ」


一瞬、筋肉痛と言おうとしたが、思い止まった。


もし、そんなこと言おうものなら原因追及されるのは分かっている。


下手な理由だと尋問が始まるかもしれないのだ。


「高校男子たる者がそんなのでどうするのよ?空はもっと体鍛えて体力つけた方がいいんじゃない?」


はい、俺もそう思います。まあ、手遅れだけどさ。


女王香織様はその逞しい腕から俺の首を解放しつつも登校中、俺を引き連れてほぼ一方的なトークを続ける。


それにしてもよく喋るよなぁ。


「そう言えばさ、空って最近お姉ちゃんと会ったりした?」


昨日は聞いてこなかったから油断していた。俺は思わず「あ…」と声に出してしまったのだった。


「会ったの、お姉ちゃんと?いつ?どこで?」


学校までもう少し距離がある。逃げきれそうにない。どうしたものか…。


「あ…うん。一昨日の夜、コンビニ行こうとして出会ってさ」


「その時、お姉ちゃん一人だった?」


「あ、うん、一人だよ」


嘘はついてない。ここまでは、だが。


後は何を聞いてくるんだろうか?何だか嫌な予感がする。


香織は「そっか」と言うと、しばらく話が途切れた。


どうやらこの話題は回避したようだ。


「最近さぁ、お姉ちゃん、夜になると出かけるんだよね。まあ、コンビニでお酒とお菓子買ってくるんだけどさ。私はお姉ちゃん、好きな人できたんじゃないかなぁって思うのよ」


とんでもない方向に話が進んでいく。


そこで、思い出したかのように香織は常盤さんが実家に帰ってきていることを説明し、再び姉の彼氏できた疑惑について熱く語りだした。


「おかしいと思わない?コンビニ行って三時間帰ってこないんだよ?家からコンビニまで歩いて十五分だよ?コンビニにそんなに長い時間いるわけないよね?」


なぜか同意を求められる。俺は香織の気迫に負けて頷く。


「それに、一昨日なんか、帰ってきたら何か汚れてて…」


ヤバい、ヤバいヤバいヤバいヤバい!


犯人が俺って分かったら、服を汚した罪で殺されてしまう!


「その…汚れ方が…ちょっと…ねぇ」


急に歯切れの悪くなる香織。どうしたのだろうか?


「べ、別に彼氏と何しててもいいんじゃないの?香織の服を汚したとしても洗濯したらいいだけだろ?」


とりあえず話題を変更しようと常盤さんの本当にいるかいないかわからない彼氏の話に戻す。


だが、俺は失言をしていた。


「あのさ、何で私の服が汚れたって知ってるの?お姉ちゃんが私の服着てコンビニ行ったって言ってないけど?もしかして…何か知ってんじゃないの!?」


地雷を踏んだ。いや、踏み抜いて全身が吹っ飛んだ気分である。


香織の見てるだけで気絶しそうな視線が俺に突き刺さる。


「何を知ってるのかな?教えてくれないかな、空?」


これほど怒気が混ざった声を俺は聞いたことがない。


これは何か答えないと殺される。


本当のことを言えば殺される。


誤魔化しても俺の語彙力と発想力ではバレて殺される。


三択バッドエンドパターンだろ、これ。


ゲームなら即やり直しすべき状況である。


だが、現実はどれかを選ばなくてはならない。


選択肢を選択する前に再び俺の首に鍛えられた逞しい香織様の腕が毒蛇のように巻き付いてきた。


背中に当たる柔らかな胸の感触が霞んで消えるほどに俺の体に恐怖が駆け巡る。


「そ、それは常盤さんに直接聞いてみたらいいんじゃない?」


「聞いたらはぐらかされたのよ!」


あ、俺の事をちゃんと黙っていてくれたんだ。本当に優しいなぁ、常盤さん。


「まさかとは思うけど…あんたがお姉ちゃんの彼氏…とかないわよね!?」


「いや、それは無いだろ。俺なんかが常盤さんの隣になんて立てないよ…」


自虐とは言え自分でへこんでくる。


とは言え、常盤さんの彼氏は相当ハイスペックでないと務まらないと思うけどな。


「いや、無いとは言い切れないわ」


おっと!香織がとんでもないことを言い出したぞ!どうしてそうなったんだ!?


「お姉ちゃんってダメな男の世話をする傾向あるのよ。優しいってのもあるんだけどさ。お姉ちゃんならどんなダメ男でもフォローできるスペックあるでしょ?だからどんなダメ男でも彼氏になる可能性あるのよ」


凄い理論である。


ただ、この場合のダメ男は俺ってことになるわけか。


常盤さんの彼氏になれたら…それは間違いなく幸せな未来しか見えないよなぁ。


「ぐえっ!」


首が絞まった。これは俺の生命が終わる可能性がある締め方だ!


「今、何想像したの!変な間があったんだけど!」


素晴らしき観察眼である。女王様の前では余計な想像は死罪のようだ。


「さあ、吐きなさい!今なら死刑で許してあげる!」


「それは許されてないのでは…」


神様、お願いだからリセットさせて…。今朝からやり直しさせて…。


天に召される覚悟を決めたその時であった。香織のスマホから可愛らしい着信音が鳴り響く。


俺の首から巻き付いていた蛇…もとい香織の腕がすぐに外され、慌てて着信を受ける香織。誰からなのだろうか?


「ど、どうしたの、お姉ちゃん!?」


まさに救いの女神様、常盤さん!


あなたのお陰で俺の命はとりあえず死の淵から現世へ舞い戻って来れました!


それにしても登校中に電話とか…緊急の要件だろうか?


香織は俺から少し距離を取ると常盤さんと話を始めた。


時に声を張り上げ、時に慌て、時に顔を赤くしており、香織は俺に一人喜劇を繰り広げていた。


だが、絶対に笑ってはいけない。


笑えば某バラエティー番組のようにお尻を叩かれたり、ムエタイキックなんて生ぬるい攻撃ではないだろう。


一撃必殺が飛んで昇天だ。


俺の心を読んだのか、電話を終えた香織が急に俺に向き直る。


それにしても不思議なのはなぜか赤面しているとこだ。


話していた内容は分からないが、香織が赤面している?


これは…怒り心頭ってことか!?


「こ、今回は許してあげるわ!」


思わぬ言葉に俺は「はい?」と声に出してしまった。


「だから、今回のお姉ちゃんの話については許してあげるって言ったのよ!」


どうしてそうなったのか分からないが…許されたらしい。


まあ、機会があれば常盤さんに内容を聞いてみるか。


憤りをどう処理して良いか分からない香織は早足で学校へと向かう。


俺もとりあえず、急に八つ当たりされないように距離を取りながら慎重に学校へと向かうことにした。





午前の授業を終えて、俺は重い足取りで家へと向かう。


また、あのクソ猫に罵られながら修行かと思うと真っ直ぐ帰れそうにない。


俺はあの素晴らしい体験をした、近所の公園のベンチに腰を下ろす。


昼間だけあって、幼い子供たちが三人、ジャングルジムで遊んでいた。


男の子二人に女の子一人。まるで幼い日の自分たちを…焦馬と香織と遊んでいた頃を見ているように思えた。


「まるでリストラされたサラリーマンの背中だよ、それ?」


掛けられた声に俺の心臓が強い鼓動を打った。


「と、常盤さん!?」


「あ、そうか、今日は土曜日だからお昼で学校終わりか。どうですか、学校終わりに一杯」


そう言うと常盤さんはスポーツドリンクのペットボトルを俺に差し出した。


どうやらまた、コンビニ帰りのようである。


俺は「ありがとうございます」とお礼を言い、ペットボトルを受け取るとキャップを開けてグイッと飲みだした。


「お、お兄さん、いい飲みっぷりだね」


酔っ払いオヤジが言ったなら俺は流しただろうが、常盤さんの可愛らしい声に俺はつい「ぷはぁ」と大袈裟にリアクションをしてペットボトルから口を離した。


「空くん、相変わらず面白いね♪」


相変わらずの「よっこいしょ」の掛け声と共に俺の隣に座る常盤さん。


今日はTシャツとデニムというシンプルな服装だが、改めて昼間に見て思ったのは、常盤さん、足長い、である。


見てる分には胸もあるし、お尻もキュッと上がっていて素晴らしいスタイルなので良いのだが、隣に立つと絶対俺の足の短さが強調されそうなので遠慮したい。


「あ、そう言えば常盤さん、香織と朝、何話してたんですか?」


早速聞く機会を得たわけだし、聞いてみよう。


「え!?空くん、近くにいたの!?」


驚くと同時に妙に納得したような顔をする常盤さん。どういうことなのだろうか?


「あー、そのー、うん。姉妹の秘密の会話ってとこかな」


誤魔化された。


しかも棒読みで、白々しい。


この人、きっと俺と会った夜に香織に何か聞かれてこんな感じに誤魔化したがゆえに、香織から余計な疑いを向けられたのだろう。


ただ…この誤魔化し方は…実に可愛い。


何もかも完璧かと思っていた常盤さんのこういう天然部分は実に可愛らしい。


いや、可愛らしいを通り越して卑怯である。


こんな「私、今一生懸命誤魔化してますよ~」みたいなことされては、つい、いじわるをして「何か隠してるでしょ?」と聞いてしまいそうになる。


それって彼氏でもない俺がやって良い事なのだろうか?


そういうのは彼氏とイチャイチャするときにしかしてはダメなのではなかろうか?


「あ、猫がいるよ」


話題を無理やり変えたかったのか、常盤さんは急に公園のフェンスを指さす。


猫なんて珍しくも…。


俺は絶句する。


全身黒い体。しかし、四本の足先は白い。そしてふてぶてしい面構え。


見覚えしかない。


「あ…うん。いる…ね」


動かず俺を見る…もとい睨んでいるシエロ。


間違いなく俺を迎えに来たに違いない。


シエロはゆっくりとフェンスから地面に飛び降りると俺に向かって悠然と歩み寄ってくる。


「ねえ、猫、こっちに来るよ?残念だけど、猫にあげられるもの、今持ってないなぁ」


常盤さん、コイツにエサを与える必要はありません。


「常盤さん、お、俺用事思い出したんで帰ります!スポーツドリンク、ありがとうございました!」


刺さるようなシエロの目線に屈した俺は常盤さんに頭を下げ、逃げるように家へと帰る。


常盤さんの誤魔化し方について俺は何も言えないな。反省である。





「そんなにお姉さんによしよしされたかったのか?」


先に帰ったつもりなのに、なぜか部屋にシエロがいた。コイツ、時空を飛び越えることができるのか?それとも…コイツ、双子とか?


まあ、猫って多胎だから…いや、そもそもコイツは猫じゃねえよな。


「さて、時間は無いぞ。昼間はあんな廃工場でも目立つから部屋で光をコントロールの練習だ。より早く、よりイメージ通りに、より精密に生成できるように練習だ」


鬼教官シエロ様の熱血指導が始まった。


シエロの言うお題に俺がそれを光で作り出す。


棒、球、円錐、立方体などの単純図形から、犬、猫、熊など複雑なものの形成。


本来光で物を形作るにはその形の光を反射する物質が必要なのだが、俺にはそれは必要ない。


光のコントロールができるので、何もない所でも、その形に光を反射させればそこにあるように見せることができる。


と、簡単に説明はできるものの…全く生成できない。


単純な図形は何とかできるが、複雑なものは全く成功しなかった。


せいぜい何かの塊くらいにしか見えない謎物質を生成するくらいだ。


「なあ、透明になって接近して攻撃したら勝てると思うんだけど?それじゃダメなのか?」


そう、俺には焦馬を欺いたフラージュオプティがある。


あれさえあれば敵に見つかることなく近付け、至近距離で攻撃も可能だ。


「それで勝てると思っているのか?相手もスピリットスキルを持っているんだ。こちらが予測できない攻撃も防御もする。仮に透明になったお前ですら感知できたり、本体に近付けないバリアを張られたりしたらどうするんだ?」


返す言葉もない。


そういう単純思考だからゲームは好きとは言え、オンライン対戦で勝てない。それは自覚がある。


「それにな、命懸けってのは、相手が何をしてくるか分からないものだ。窮鼠猫を噛むって言葉があるが、その一噛みで命を落としたらどうするんだ?」


命懸け。


その実感があまりない。


焦馬の時から間がないのに…あれだけ死にかけて、辛い思いをしたのに…命懸けという感覚が薄くなっている気がする。


「余計なことを考えるな。反射的に光をコントロールできるようになるまでやるぞ。次の相手は一度勝利を得た者だ。つまり、何らかの勝つ手段を持っていると考えるべきだからな」


シエロに言われて改めて思う。


八人の参加者が今は四人になった。


それってつまり、四人も存在を消されたということになるのだが…。


俺の周りにその消された人がいても、俺には気が付くことができないってことだよな。


それでも俺の日常は何にも変わっていないように見える。


俺の周りの人間ではない誰かが消えたのかもしれないし、俺の周りで誰かが消えたのかもしれない。


だが、それを確認する術はない。


俺の周りが焦馬の事をすっかり忘れ去っているように、俺も同じように誰かを忘れている可能性はある。


「おい、雑になっているぞ!余計なことは考えるな!」


ホント、シエロ教官はよく見ておられますな。胃が痛くなるよ…。


「日が暮れるまで休みは無しだからな!」


…何でお前、猫の姿でここにいるんだ?お前は鬼の姿で俺の前に現れたらよかったんじゃなかろうかと思うよ…。





日が落ちてからは昨日の続きである。


鬼…もといシエロの罵声を浴びながら、俺は頭に何度も血を上らせながらシエロを攻撃し続けた。


「その程度か?ゾウリムシ以下だな」


とうとう俺はゾウリムシ以下呼ばわりである。


それにしても少しおかしい。


俺は慣れたのか、案外罵倒を受け流せるようになってきているが、シエロの罵倒に余裕を感じない。


さっきのゾウリムシ以下呼ばわりがまさにそれである。


今までは皮肉や嫌味混じりの罵倒だったのに対して、時間が経つと共に、シエロの罵倒は安直な…ただの子供の悪口レベルになっていったのだ。


「なあ、シエロ。どうかしたのか?」


俺は攻撃の手を止めて立ち止まり話しかける。だが、そんな俺に対しての返事は…石の雨であった。


「無駄口叩くなら殺すぞ!」


石の雨をスピリットスキルを使わずにバックステップで避けていく。


それにしても驚かされる。


シエロが確かスピリットスキルが解放されると身体の他の能力も解放されるとは言っていたが…体育で底辺運動神経だった俺がこんなことできるようになるとは…ね。


少しテンションが上がってきた俺に対してシエロは明らかに何かを焦っている。


やはり俺のスピリットスキルのコントロールが未熟なのが許せないのだろうか?


「お前、何でもっと怒りに我を忘れるような感覚にならないんだよ!」


思いもよらないシエロの一言で俺は思わず「はい?」と上ずった声を間抜け面で漏らしてしまった。


「現在深夜一時…体力の回復の時間を考慮したらコイツの体力が完全になる睡眠時間は九時間。帰って寝る準備をして二時就寝。起きて遅めの朝食、その一時間後にグラディオス二回戦…。もう一時間粘るべきか?いや、本来ならもうスピリットスキルのレベルは上がってもいいはず…どうしてなんだ!?」


独り言を聞こえるようにつぶやくシエロ。


もしかして、あの口の悪さって俺をワザと怒らせようとしてたのか?


「終わったよ…。明日、勝てないぞ…。こんな初歩レベルのスピリットスキルで勝てるわけがない…」


両前足で頭を抱え込み震えているシエロの姿は、五分前のあの強気で生意気な空気は消え失せ、か弱い小動物へと成り下がっている。


「シエロ、落ち着けよ。俺も死ぬ気で頑張るから」


「頑張って何とかなる問題じゃねぇんだよ!」


言葉はきつめだが、シエロの声が震えていた。コイツ…やっぱり何か知ってるよな?この怯え方…何かおかしい。


「おい、説明しろよ。まるで戦う前から負け確定みたいに言うけどさ、焦馬相手にも何とか」


「命懸けの戦いしてんのに女に癒し求めてるお前がおかしいんだよ!お前がくだらない癒しを求めてる間にもアイツも必死で…グエッ」


急に苦しみだし倒れるシエロ。痙攣だろうか!?体をピクピクさせて白目を向いている!


「シエロ!」


今まで経験したことない事態に直面した俺は何をすべきか分からない。


こういう時はどうすればいいんだ!?心臓マッサージか?人工呼吸か?えっと…えっと…。


「大丈夫だ。それは私がシエロを救うためにやったことだ」


おろおろしていた俺の耳に聞こえた声。それは…俺にとってとても喜ばしい声であり、まさかこんな所で聴けるとは思わなかった声である。


「オーチェ!」


思わずシエロを放置してモデルさながらの立ち姿のオーチェに駆け寄りそうになるが、足が止まる。


オーチェは今、とんでもないことを言ったぞ!?


「はい?シエロにこんなことしたのって…オーチェ…なの?」


「そう、私がやったことだ」


ちらりとシエロを見る。まだ、意識が戻っていないのか、痙攣は続いている。


「オーチェ、これはやりすぎなんじゃあ…」


「シエロがもし、言ってはならない内容を口にすればセロに消される可能性がある。それは避けなくてはならない。強引な手段だが、シエロを止めさせてもらった」


オーチェって目的のために手段を選ばず、どんな手段も実行できるタイプなのね…。


「シエロが死ぬことはない。手加減はしてあるので安心していい」


手加減してこれ!?やはり美人でも天からの使いだけあるよな…。


もしかして…変なとこ触ったら消されたり…するの…かな?


冷や汗が頬を伝う。


生まれて初めて体験したが、できたら知らずに生きていたいと思った。


「だが、シエロの焦りは分かる。私もここまでスキルのレベルが上がらないのは想定外でもあるし、このままだと99%勝てない」


感情の無い声が淡々と語る。


オーチェ、始めて会った時、そこまで冷たい感じしなかったんだけど…やはり俺の能力が低いせいなのだろうか?オーチェを失望させたのだろうか?


「で、でも!俺はやるだけやって」


「素人が素手で銃を持つ軍人に勝てると思うか?レベルの差はそれほど大きいと思ってくれ」


言い返せない。


やはり俺はスピリットスキルという同じ能力を持つ者が集まった時、その中で低能の部類であり、焦馬に勝てたのは奇跡だったということ…か。


「そのレベルなら次の戦いで確実に対戦相手に敗北してお前は消されるだろう。分かりきった結果になるとしても…逃げだしたところでセロはお前がどこに逃げても捕まえて戦いに参加させる」


今俺は、死刑宣告を受けていると思っていいのだろうか?


オーチェの無感情な声が俺の恐怖を煽る。


「もし、やり残していることがあるのなら、明日のグラディオスまでにしておくことだ。今宵がお前にとって最後の夜になるだろうからな」


最後の…夜。


オーチェも…シエロも…俺が勝てないと言っている。


俺…必死にやったんだ。


必死に…。


でも…最後の夜…か。


俺は…決意する。どうせ最後の夜なら…。


「オーチェ!」


俺はオーチェの両肩に手を置く。俺の行動にまるで動じないオーチェに少し疑問は残るが、それでも構わない。


それにしても…何だ、これは!?とても柔らかくて…もっちりしていて…ずっと触っていたい♪


そうじゃないそうじゃない!


大きな深呼吸を一つ。


どうせ最後なら思い切ってやってやる!


「オーチェ!俺…オーチェのことが気になっていて…その…最後に…あの…いや…無理なら無理で断ってくれてもいいんだ」


変に弱気になる俺。


いや、退くな、俺!これを逃せば…チャンスはない!


「俺を漢にして下さい!」


言えた。


もうこの時点で俺はどんな歴戦の英雄よりも勇敢だと自分を褒め称えたい。


「オトコ?お前の性別は男…ではなかったのか?」


違う!オーチェさん、そんなボケ入れないで!もしくは天然なの!?


「つまり…その…は、初体験を…」


赤面、手汗、速い鼓動。緊張は頂点に達している。


だが、負けない!


「俺に初体験をさせて下さい!」


必死の訴えにオーチェの表情は「何を言っているのか?」みたいにキョトンとしている。


もっとストレートに言わなきゃならないのか!?これ以上言えば俺、明日を迎える前に恥ずかしさで死んでしまうんですけど!


「その…だから…お互い…裸になって…」


何だよ、この拷問は!?お願いオーチェ、察して!


「…あぁ、交尾をしたい、ということか?」


察してくれたけど言葉が本能行動みたい…だけど、いや、とりあえず通じた!


「それならば」


さすがに怒られる…か?


いくら明日消えるとは言えやり過ぎたか?


そんな俺の思考はオーチェのとった行動で蒸発させられてしまった。


…焦馬、そっちに土産話を持っていけるぞ!期待して待っててくれ!

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