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10 現実

俺は今、猫の…いや、神の使いの猫のような生き物の首を締めそうになるのを必死に堪えて詰め寄っていた。


聞きたかった。


俺の相手は焦馬ではない、と。


僅かな可能性に賭けたかった。例え無駄と言われたとしても…。


シエロに問いただす。俺の相手の事、何か知らないか?と。


「火野焦馬のことか?」


俺はまだ、何も言ってない。


シエロに焦馬の話はしたことはない。


いや、何だかんだ言ってもオーチェの使いなんだから、もしかしたら神の力みたいなもので知ってる可能性もあるが…いや、そうであってくれたらいい。


「焦馬のこと…知ってるのか?」


祈る。


ただ、ただ祈る。


シエロは俺の相手が焦馬だったと後で知ったのであって欲しいと。


もし、最初から知っていたのなら…。


「お前の言いたい事はわかる。俺はお前の相手が火野焦馬だと最初から知っていた。だが、そういう事を話そうとすれば、当然話せなくなる。それがルールだ」


そうだ。そうだった。


シエロは知ってても言えないんだ。


仮に知ったとしたらどうなったんだろうか?


俺は…わざと負けるのか?


いや、この勝負、どちらに転んでも良い方向には行かない。


もし、俺の存在が消されたら…その後俺が対戦相手だと知ったら…焦馬もこの行き場のない気持ちを抱えたに違いない。


だからこそ聞きたい。


「なあ、どうして…焦馬なんだ?他にも…他にもいっぱい人間はいるのに…どうしてだよ!?」


こんな気持ちを抱えているのに、目の前の猫は当たり前のように、無慈悲に俺に聞いてきた。


「じゃあ、知らないヤツなら良かったのか?」


その質問に対して俺は…生まれて初めて動物を殴るという行為を取った。


軽い猫の体は無抵抗に壁に激突してそのまま下へと落ちた。


「何で…何で今、この状況で…お前はそんな事聞けるんだ!」


怒り。


それだけだった。


殺意さえ芽生えている。


だが、シエロを殴ろうが、殺そうが何も変わらない。


焦馬は…消えたのだ。


どういう理由であれ、俺が倒し、その結果消されたのだ。


「気が済んだか?」


いつもの声色で聞いてくるシエロ。


何考えているんだ、コイツは。


この猫に誰かを思いやる心は無いっていうのか!


俺の波打つ感情と真逆の平静な声でシエロは話し出す。


「さて、次の試合に向けて訓練しとけよ。次は三日後だ。次は相手も一回戦でスピリットスキルを使い慣れているだろう。今度は今回みたいに運だけでは」


この流れでこんな話するのかよ…。


「もう嫌だ!相手が知っているとか知らないとかじゃない!もう誰も消したくない!」


まるで殴られた事は何事でもないように話すシエロを見ていると、また殴りたい衝動が生まれそうである。


吐き捨てるようにシエロに言葉をぶつけて、俺は外へと走って行った。


まるで…現実から逃げるように…。





気が付くと近所の公園にいた。


懐かしい公園。


焦馬と香織と三人で日が暮れるまで遊んで…。


そうか、この記憶も香織にはもう無いんだよな…。


俺にしか無い火野焦馬という男の記憶。


皮肉にも忘れられないことは焦馬の存在を唯一この世界に繋ぎ止めるとこでもあり…俺の消せない罪となった。


まだ日が落ちきってない公園には誰もいなかった。


俺が幼い頃はまだ遊んでいた…太陽が半分沈みかけた時間。


最近の子供は公園でこんな時間に遊ばないのだろうか?


誘われるように砂場横のベンチの腰を落とす。


決して大きな公園ではない。


ブランコ、滑り台、ジャングルジム、砂場とその砂場の横に俺の座ったベンチ。


子供が走り回るにはちょうど良い大きさだが、高校生となった俺には実に小さく見える。


手入れは近所のお年寄りが暇つぶしにだろうか?草刈りをしているのを日曜日に見るくらいで、遊具も所々に錆が見えている。


俺が焦馬や香織と遊んでいた頃は遊具は日の光で輝くほどキレイだった。


その頃、この辺りは新興住宅地として家が日に日に増えていったのを覚えている。


ただ、焦馬の家は母方の祖父の家だったので、俺より先に住んでいた。


焦馬と会ったのもこの公園だった。


アイツは本当に昔からいいヤツだった。


俺がこの地に来たのは幼い頃だ。


三輪車で未開の地を探検していて初めてこの公園に来た時、ジャングルジムで遊んでいた焦馬を見つけて、じっと見ていた。


すると、焦馬は俺を見つけると迷いもなく、俺の所にタタッと駆け寄ってきて「あそぼ!」と声をかけてきた。


屈託のない笑顔に俺も「うん!」と答え、その日以来、焦馬との付き合いが始まった。


そして、今日、終わった…。


俺が…終わらせた。


終わらせてしまった…。


焦馬はどんな気持ちで戦っていたのだろうか?


俺のように必死だったのだろうか?


「落ち込んでいるのか?」


聞き覚えのない渋い男性の声が聞こえた気がした。


見回すが辺りには誰もいない。


とうとう幻聴が聞こえるようにまでなったのか…。


「お前は全力を出して戦い、勝った。それだけだ」


再び声の主を慌てて探した。シエロではない。誰だ?


「ここだ」


後ろにいた。


見覚えのある柴犬がそこにいた。焦馬と一緒にいた柴犬だ。


「何だ?俺を殺しに来たのか?」


その方が嬉しい。もう…嫌だ。オーチェのためにと思ってはいたが…これは…辛すぎる。


「いいや。役割が終わったんでな、散歩をしていた。その途中でお前を見かけたから声をかけたんだ」


散歩?自分のサポートしていた相手が消えたのに…何を考えているんだ?


…まあ、どうでもいいか。


「落ち込んでるようだが、次の戦いに備えなくていいのか?」


コイツも俺をまだ戦わせようというのか…。


このサポーターたちは…普通の神経じゃない。狂っているんだな。


「まあいいさ。丁度良い機会だ。お前に火野焦馬からの伝言を伝えておくとしようか」


「伝…言?」


予想しない言葉に思わず柴犬の顔を凝視してしまった。


「火野焦馬から…もし負けたらお前に伝えて欲しいことがあると言われてな」


焦馬…どんな言葉を俺に残したんだよ…。


「お前が相手と知らないのに…面白いものだな。火野焦馬には『お前が負けたらお前のことは記憶から消えるんだぞ』と説明はしたんだが『それでもいい。自己満足でもいいんだ』と言ってたよ。本当にバカと言うか…変と言うか」


ため息をつく柴犬。何かその辺はシエロにそっくりだ。


「約束は約束だ。ただ、お前が敵で…火野焦馬を覚えていられる存在であることは…唯一良かったことだと思う」


俺は黙って柴犬の言葉を聞く。


…俺は焦馬を消した。


でも焦馬を知る俺が相手だったから…。


焦馬は完全に消えることはなかった。


「では伝えるぞ」


どんな伝言を残したんだ、焦馬は?


柴犬の言葉を真剣な面持ちで待った。


「その…何だ。火野焦馬の言葉、そのままだからな。俺がふざけて言っているわけじゃないからな」


なぜか前置きをされた。


焦馬、何を言ったんだ?


「あー、では言うぞ。『俺は未経験で終わったが、お前はちゃんと卒業して(おとこ)になれよ』だ」


その場に何とも言えない微妙な空気が流れた。それは俺は何を言われてるのか理解するのに時間を要したからだろう。


しかし、理解が追いつくと…固まってしまった。


「アイツ、最後の最後でそんなバカげた言葉残したのか!?」


さっきの柴犬の前置きの意味が今は理解できた。


そりゃこんな状況で言われたら小馬鹿にしてるのか、もしくは空気の読めないバカにも思われても仕方ない。


でも、俺には違って聞こえた。


このふざけたような言葉を聞いて、実に焦馬らしい言葉だと思えたのだ。


「ありがとう。それ聞けて少し気持ちが和らいだよ」


いつも通りに戻ったとは言わないが、さっきまでの鬱屈とした気分は少し晴れた。


「自分をそう責めるな。火野焦馬もお前だとは知らずに戦いを挑んでいたんだ。それにな」


ゆっくりと柴犬が俺の前に来て綺麗なお座りをして、笑顔を見せてきた。


「誰でもない。お前が火野焦馬を覚えていたらそれでいい」


不細工な柴犬の笑顔、俺はその笑顔をまともに見れなくなっていた。


おかしいだろ…。


さっきまで笑わせておいて…。


高校生になって…。


人前で…いや、犬前なのかな。


鼻水出るくらい泣いてしまうなんて…。


「じゃあな。まだ夜になると冷えるから早く帰れよ」


そう言い残すと、丸みのある可愛らしいお尻を左右に振りながら柴犬はスタスタと去って行った。





あれから俺は公園でベンチに座って俯いていた。


理由は…久々泣き過ぎて目が腫れて…このまま帰ると間違いなく間子に騒がれると思ったので、目の腫れが落ち着くまでここにいることにした。


せめて、財布とスマホ持ってくれば良かった。


勢いよく飛び出して何も持っていない。


特にスマホを持ってないのは失敗だった。


制服のポケットにでも入れてないかと探すが無かった。


こういう時に限って帰った時にちゃんと俺の部屋の学習机の上に置いていた記憶がある。


どうせ後三十分もすれば落ち着くだろう。


ちょっと冷えるけど風邪は引かない…と思う。


「空…くん?」


今日は話しかけられる日である。さっきは柴犬だから、今度は三毛猫か?


声の主を確認するために顔を上げる。


「水野…雫?」


三毛猫では無かったが、全く想定外の人物の登場に声が少し上擦ってしまっていた。


「こ、ここでなにしてるの?」


質問を投げかけると水野はこちらに向かって歩いてきた。


その質問は当然だよな。


日が落ちて暗い公園のベンチで、知り合いの高校生が俯いて座っているとなれば、まずは事情を聞くのは嫌いな相手でない限り普通のことだろう。


間違いなくあまりよくないことがあり、ここに俯いて座っていることくらい、少し賢い小学生レベルなら予測できる。


それにしても水野でよかった。


この公園は街灯が一つあるものの、俺のいるベンチに光はあまり届いていない。


俺を見つけたのが俺を知っている者なら分かるかもしれないが、知らない相手だと警戒してしまうだろう。


ただ、俺は素朴な疑問が浮かんできた。


「水野こそ…ここで何してるんだ?」


水野はこの辺に住んでいないのは知っている。香織が少し話していたのを何となく覚えていた。確か隣町だったはずだ。


しかも、この公園とは逆方向。


もしかしたら香織の家にでも行っていたのだろうか?


あの二人、俺と焦馬みたいな仲に見えるからなぁ。


「あ、その、たまたま…ここを通ったのよ」


無理がある。


どうやって家と逆方向にたまたま来るんだ?何を隠してるんだ、水野は?


まあ深くは聞くまい。


もし俺が深く聞けば俺のここにいる理由も聞かれるわけだしな。とりあえず誤魔化すか。


「ちょっと妹とケンカしてね。時間置いて話をしようかと思って時間潰してた」


今回はウソなのだが、実は過去にあったことだ。


間子は一度頭に血が上ると狂った肉食獣のように手がつけられなくなる。


だから、俺が物理的に距離を置き、少し冷静になったくらいに帰宅して事なきを得たのだった。


その時もこの公園で時間を潰していた。


ただ、その時はスマホのアプリゲームを電池がピンチになるまでやっていたから、時間はすぐに過ぎたのだが。


「あ、妹さん…間子ちゃんって香織のことを『師匠』って呼んでるんでしょ?香織から聞いたことあるよ」


そう、間子は香織を師匠と呼んでいるのだ。


だからと言って香織から空手を習っているわけではない。


実に不快ではあるが間子が香織を師匠と呼ぶ理由は「お兄ちゃんを言葉だけで従わせることができるから」だそうだ。


香織は「別に服従を強要とかしてないよ」と否定はしているのは知っている。


しかし、学校が同じで、更に近所に住んでいるとなると、嫌でも従えてる姿を…兄の情けない姿を晒すわけなので、それを見た間子は香織の言葉を謙遜としてとらえているようだ。


「ところで、何の師匠なの?やっぱり空手?」


内情を知らないとそう思うのは普通である。


でも、それ以上その話題を掘り下げないで欲しい。俺の情けなさを説明…いや、情けないってのは香織から聞いていそうだけどな。


「間子は…空手は…その…香織から…習ってないんだ」


ん?


いや?なんだ?


どうした、俺?


何となく変な緊張感ある…よな?


何でだ?


状況の整理をしよう。


もう日の落ちた公園で水野と…二人…か。


女の子と…二人…か。


学校以外の場所で…二人…か。


しまった…。状況を冷静に見たら…俺の過去に経験ないことが今起きている!


香織ですら下校中に二人になることはあるにせよ、アイツとは小さい頃からの慣れもあるので気にならない。


でも…水野ってこうして女の子として見ると…思ったより可愛かったりするわけで。


「そ、そうなの?じゃ、じゃあ何の師匠…なの?」


そこは掘り下げないで、水野!


そうだ、話題を変えよう!


何を聞けばいいんだ?


えっと…えっと…えっと…。


す、スリーサイズ。


絶対ダメだろ!


着けてる下着の色。


待て!思考が変態になっているぞ、俺!そんなこと聞いて香織に通報されたら俺はきっと死刑より厳しい刑を喰らう!


「さ、さあ?何なのかは、お、俺も知らなくてさ」


とりあえず話題の掘り下げは回避した。


だが、水野は「そ、そうなんだ」と言った後、言葉を発しなくなった。


何?俺、何か失敗したの!?滅茶苦茶気まずいんですけど!?


頼む!誰か話題をください!この緊張感は耐え難い!


「と、隣、す、座ってもいい?」


はい?


水野、どうしてそんな俺を追い詰めるような行動に出る!?


俺が動揺してることも知らず、水野は俺の拳二つ分くらいの距離を開けてベンチに座った。


この距離、俺にはキツイ!


変に鼓動が早くなってきた。


学校で体験したことある席の距離より近いぞ!その気になれば俺の手が…変なとこに届くんだぞ!自分のやっている事、分かってるのか、水野!?


「い、妹さんと仲、いいんだね」


水野も隣に座ったはいいが、こちらを向かずに話を続ける。


何なの、これ!?恋愛シミュレーションゲームや漫画、アニメなら両想いなのにじれったい!と見てる者に思わせるシチュエーションだぞ!


何よりお前、焦馬のことが…いや、水野から焦馬の記憶って…無いんだよな?でも…まさかとは思うけど…確認してみるか。


「なあ、水野。火野焦馬って知ってる?」


もし、記憶があれば表情に出るはずだ。焦馬の親友である俺が聞くことがない質問だからだ。


「ひの…しょうま?うちの学校の人?」


水野の言葉に思わず自分のやったことを再認識させられた。


本当ならこの公園で明日、焦馬に告白するはずだったのに…今や焦馬のことすら記憶にない。改めて自分のやったことの重さを痛感する。


「いや、いいんだ。知らないならそれでいいよ」


さっきまでの高揚感はウソのように消えた。


再び俺の心を暗いものが覆う。


「あ、ごめんなさい。本当に心当たりが無くて…」


困った顔になる水野。慌てて俺は首を振る。


「あ、いや、いいんだ。俺も詳しく知らない人でさ。隣町に住んでいるって聞いたから水野なら知ってるかと思って。あ、隣町じゃなかったかな?」


無理やりとぼけて水野の気分を晴らそうとする俺。ホント、演技、下手だよなぁ。


「あのね」


急に真面目な顔で俺を見つめてきた水野。もしかしてさっきの言葉、あまりにもわざとらしかったか!?


だが、そうではなさそうである。


この距離だからか、公園が静かだったからか、俺の耳に水野の生唾を飲む音が聞こえた。


え?どういうこと?


「あのね、本当は今日は明日の下見にここに来たの」


下見?何の?焦馬の事は覚えてないんじゃなかったか?


俺の疑問を置き去りにして水野は続ける。


「でもね、今日ここに見に来てよかったと思ったの!」


…話の筋が全く分からない。もしかして、俺に告白してくれるのか?


自分でそう思うとなんか虚しくなる。焦馬と俺じゃあ全く違う。


俺は勉強も運動も見た目も決して女の子から好かれる要素は無い。


十七年も俺は俺をやってきているんだ。それくらいは分かる。


「空くん、あなたが…あなたが好きです!付き合ってください!」


言葉で時間って止まることがあるのを俺は今日、初めて知った。


時光空、たった今、十七年生きてきた人生で初めて告白されるという体験をしてしまった…。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


第一章はどうだったでしょうか?


いきなり親友を消してしまった空はこの後どうなるのか?


次の相手は誰なのか?楽しみにしていただければ私も嬉しです。


もしよろしければ評価や感想お願いします♪


ちょっとしたことで簡単にテンション上がっちゃいますのでw


では、最後まで書き上げるつもりなのでよろしくお願いします!

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