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最期の日

作者: 死黒白亜

 知らないふりをしていたんだ。

 世界最後の日なんて、街中、いや世界中の人々が騒ぎ立てている。それでも、そんなくだらない予言は、いつも通りの日常だけを淡々と消費する私にとって、実際にはどうでも良かったのだ。

 予言の日まであと2日。テレビをつければどの局も地球が滅ぶだの、かの預言者は実は宇宙人だの、ソースも何もあったもんじゃない。彼らは無味無臭の飽き飽きするようなメニューを、この1週間誰に向けるでもなく延々と繰り返し提供し続けてくれている。

 かといって街へ繰り出せばさらに酷い惨状だけが広がっている。既に世論は2日後の予言が真実だと信じて止まない。何事もなく稼働しているのは公的な施設だけであり、他の施設といえば営業していないか、荒らされているかのほぼ2択しか存在しない。そんな街並みを眺めながらとりあえず今日も変わらず会社へと向かう。

 ふと辺りに注意を向けると余りにも閑散とした駅前。それはそうだろう。2日後に全てが終わるのだから、仕事なんてする意味はない。しかし、特に趣味など持たない私にとっては仕事以外に1日時間を潰せるものなどない。駅構内へ入るが、人の気配など微塵も感じ無かった。昨日と変わらず、電車どころか改札すら機能していない。私は溜息を吐きたいのを我慢しながら、また同じ道を戻り始めた。家で1人、何をするでもなく世界最後までの24時間をまた、無駄にした。


 最後の1日を告げる朝日が昇る。最早私も諦めて家でだらりと過ごそうか、等と頭では考えているのだが、身体は仕事の支度を始めている。

 家に居たところで何かやるべき事がある訳でもない。行く当てもなく気の向くまま、荒廃した街へと足を運ぶ。少し前までは賑わっていた商店街も、車の途切れることのなかった国道も、今ではすっかり空っぽになっていた。まるでひと足先に滅亡した世界で私だけが存在しているかのようで、少し笑いが込み上げる。見知った道をぶらぶらと彷徨い、最後の夜を迎えて眠りについた。


 朝6時、いつもの時間に目が覚める。予言の詳しい時間は何時だったか、興味がない私はそれすら把握していなかった。テレビをつけてみれば流石プロであるというべきか、カウントダウンだけが流れていた。どうやら世界が終わるのは12時丁度であるらしかった。あと6時間弱。普通の人はきっと家族や恋人との最後の別れをしているのだろう。そんな中私といえば、無意識に仕事の支度を進めている。

 朝8時、カウントダウンがあと4時間を切った頃。いつもの時間に家を出て、ふらりふらりと駅へ向かう。予言まであと1週間といった辺りから外に出る人はだんだんと減っていた。それでも全く人影をみないという日はなかった。しかし今、外に居るのは私だけだ。


 ひとりぼっちで残りの時間を浪費していると、何処からともなくカウントダウンが聞こえてくる。確かに気がつくと既に太陽は頭上まで登っている。

 

 1……0……


 それでも世界は何も変わらなかった。私だけではない。きっと過半数を超える人達は、こんなふざけた予言なんて信じてはいなかった。でも心の何処かでみんなが世界の終わりを望んでいたんだろう。でなければ世界はここまで狂うことはなかった。この人生に、この世界に、突然の終わりなんて来ない。そんなこと、本当は知っていた。

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