第四回
僕が初めて葵花神功のことを知ったのは、中国の掲示板を見ていた時だった。武侠の世界で最強の武功だと言われているけど、どれだけ強いかは全然わからなかった。説明がないからね。でも、コメントしている人たちはみんなこの武功がどんなものか知っていて、みんな口を揃えて「最強だ」って言うんだ。だけど、中には「どんなに強くても絶対に習得しない」と言う人もいた……。
なんでだろう?せっかく最強になれるのに、どうして習わないんだろう?もしかして、その「最強」っていうのはただの大げさな表現なのかな?それとも作品限定のものなのかな?
その後、僕はもう少し葵花神功について知ることができた。そして、なぜそれが最強の武功と呼ばれているのかも、少しわかった。理由は「速さ」だ。それも、ものすごく速い。「目の前に光が走ったと思ったら、もう『お前はすでに死んでいる』」っていうくらいの速さなんだ。
武侠の世界には内力と穴道がある。穴道っていうのは、人間の弱点のことだよね。そこに内力を使えば、相手に内傷を与えられる。だから、たとえ刺繍針みたいな小さな武器でも、人を殺せるんだ。
武侠の世界にはこういう言葉があるんだ。「天下武功、唯快不破《てんかぶこう、ゆいかいふは》」ってね。つまり、速ければ強い。誰も反応できないほど速くなれば、最強になれるってこと。葵花神功はまさにその通りの武功なんだ。
でも、僕がその本を開いて最初のページを見たとき、なぜ多くの人がそれを習いたくないのか、すぐにわかった。なぜなら、最初のページにこう書いてあったんだ:
「欲練神功、拔劍自宮《しんこうをならいたければ、けんをぬいてじきゅうせよ》」
えっ?意味がわからない?僕も全然わからなかったよ。だって、漢字は全部知っているのに、意味が通じないんだ。それで、ゲーム内の翻訳機能を使ってみたら、こんな訳が出てきたんだ:
「最強の武功を習得するには、去勢する《つまり、自分のアレを切り落とす》必要がある」
自宮っていうのは、昔の中国で宦官になるために行われた去勢のことなんだ……つまり、自分の男の部分を切り落とすってことだよ。
なんて恐ろしいことなんだ……それなのに、このゲームがそれを再現しているなんて!そんな大事な部分を切り落とすくらいなら、どんなに強くなったって意味がないじゃないか!
僕はその本を捨てようと思ったけど、ふと考え直したんだ。これはただのゲームだよね?現実じゃないんだから、本当に切り落とすわけじゃないよね……。その考えが、まるで悪魔の誘惑みたいに頭にこびりついて離れなくなったんだ。そして、その声はどんどん大きくなっていった。
「お前、本当にまた殺されてもいいのか?」
それは確かに悪魔のささやきだったんだ。結局、僕はその本を使ってしまった。そして、武功リストに新しい項目が追加された。【葵花神功】の修得が可能になって、しかもたった1ポイントの霊感で修得できたんだ。
武功:葵花神功
階層:★5
属性:無
レベル:1/10
威力:攻撃力×10、速度×10、器用さ×20《内力は無属性以外だと威力が10分の1になる》、【自宮】状態が永久に発動
【自宮】っていうのは、消すことができないデバフ《デメリット効果》で、永遠に生命力が10%減少し、速度が10%増加する、女装ができるようになる。
特に大きなデメリットはなさそうに見えるよね?だって、これはゲームなんだし、現実じゃないし、全然問題ないよね……。
「ああああああああ!」
痛い!僕はすぐに下半身を押さえて、地面に転がり回った!だって、本当に痛いんだ!僕、いつの間に習得ボタンを押してしまったんだろう!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
ゲーム内の痛みは現実の20%しか感じないはずなのに、こんなに痛いなんて、どういうことだよ!
痛みで涙と鼻水が止まらなくて、視界がぼやけてしまった。足の小指を机の角にぶつけた時の痛みの10倍くらい痛かったんだ!
5分(現実の時間)くらい経って、ようやく痛みが引いて、僕もやっと立ち上がることができた。
もう一度説明を確認したら、僕は確かに葵花神功を習得していた。でも、無属性の内力が必要だって?
どうやって無属性の内力を得るんだろう?説明書には、それはすごく特殊な状態だと書いてあった。同じ階層の内力をすべて装備しないといけないらしい。武功の階層は★1から★5まであって、星が多いほど強力なんだ。でも、その分、習得するのも難しくて、必要な霊感も増える。下位スキルから上位スキルに進化するようなものだと思ってくれればいい。
葵花神功は★5の武功だから、威力はすごく大きい。でも、レベルを上げるにはかなりの経験値が必要だ。今は大したことないけど、レベルを上げれば恐ろしいくらい強くなるはずだ。
試しに、僕はまた城外に出てみた。採集中にまた魔狼に遭遇したけど、今回は戦わずに葵花神功で得た速度を使って逃げることにした。ゲーム序盤で、みんなのレベルがまだ低いうちは、この2倍の速度はすごく役に立つ。さらに【自宮】で得た10%の速度増加もあって、誰も追いつけないんだ。
城に戻ろうとしたところで、城門にPKプレイヤーの待ち伏せが!なんてことだ。来た!でも、やっぱり2倍の器用さはすごい!自分でも見えないくらいの速さで避けられた。ついでに、馬車から降りたばかりの金髪プレイヤーをつかんで、一緒に城内に突入して、PKされるのを回避したんだ。
「何してんのよ!」
『パチン』という音とともに、左頬に火がつくような痛みが走った。それは僕が助けたその女プレイヤーからの「お礼」だった。