第十八回
「か、可愛い~~~~~~っ!」
オレンジ色の短髪の少女が僕を見るなり、叫び声を上げた。両手で頬を押さえ、まるで少女漫画みたいなポーズを取っている。
その隣では、いつの間にか現れていた紫色の巻き髪の少女が、いきなり僕をぎゅっと抱きしめてきた。
「あ~~~~! 丹泉っ!!!」
オレンジ髪の少女はすぐさま丹泉を指差し、興奮しすぎて手が震えている。
「早い者勝ち。」
丹泉は淡々と答えた。けれど、その無表情な声とは裏腹に、彼女の腕はぎゅっと強くなり――
その、やわらかい感触が、僕の体に……っ、ち、近い……あ、あったかい……いい匂い……。
僕が気を失いかけた、そのとき。
「何をしてるの、二人とも。紫くんは、私のものよ。」
「「違うっ!」」
……なぜか僕も一緒に叫んでいた。
オレンジ髪の少女と丹泉が目を合わせ――次の瞬間、二人同時に僕へ飛びかかってきた。
「ほんっとに可愛い! 可愛い、可愛い、可愛いっ! 何食べたらこんな可愛くなるの!?」
「……ん~……」
ちょっ……! や、やめてっ……あぁ、くすぐったい……っ! 僕は猫じゃないよ! 吸うな、引っぱるな、触らないでぇ!!
「だ、ダメっ! 彼は私のだからっ!」
またしても班長が救いの手を伸ばしてくれた。
ああ……助かった……と思ったのも束の間、次の瞬間――
「ほんとに……いい匂いで、柔らかくて……っ! だ、ダメ、死んじゃうっ!」
うぅ……や、やめて……そんな強く抱かないでぇ……息が……できない……!
「おい、翡翠、そのままじゃ死ぬって。」
「あっ……!」
班長はようやく気づき、慌てて僕を放した。
「初めまして、私は琥珀。木工の職人よ。」オレンジ髪の少女――琥珀が、後頭部をぽりぽりかきながら笑う。
「丹泉。……料理担当。」
二人はまさに名前通りの印象だった。
琥珀はオレンジ色のショートヘアに、こんがりとした小麦色の肌。背も高くて、見上げるような人。優しくて頼れるお姉さんって感じ。
一方、丹泉は腰まで届く紫のウェーブヘア。雪のように白い肌と整った顔立ち――まさに氷の美人、という言葉がぴったりだった。
「さっきはごめんねぇ!」
「私も……まさか自分があんなに取り乱すなんて……」
班長は顔を覆って、僕たちに背を向けて座り込んでいた。
「い、いや、僕は別に気にしてないけど……」
班長をちらりと見て、なんだか恥ずかしくなって視線をそらす。「でも、班長があんな風になるなんて、ちょっと意外で……」
「あなたが可愛すぎるのが悪いの。あんなの、我慢できるわけないじゃない。」
「そうそう。可愛いは正義。異論は認めないわ。」
ふ、二人にそんなこと言われたら……顔が、熱くなる……!
「さ、早く。着替えて。」
もうすっかり冷静になった班長が、手に女僕喫茶版丫環服を持ってきて、にっこり笑う。
「班……翡翠、」
僕は手を伸ばしながら、無意識に声が震えた。「お、覚えてるよね……?」
「もちろんよ。」班長は軽く頷き、服を僕に押しつけるように差し出した。「ほら、急いで。もうすぐ開店だから。」
受け取った服を見下ろす。
――可愛い。とんでもなく。
上は改良型のチャイナドレス風で、花刺繍と盤扣付き。下は女僕喫茶みたいなミニスカートで、丈は……お尻ギリギリ!?
髪飾りは玉簪と流蘇、エプロンには「玉竹」の刺繍入り。時代劇とメイド文化が融合したような中華風の可憐なデザイン。
これが、丫環茶莊――花語軒の制服。
……でも、本当に、こんなの僕に似合うの?
半信半疑ながらも、あの“小跳び動画”を守るためには、もうやるしかない!
僕は更衣室に入り、着替えボタンを押した。実際に脱いだり着たりするわけじゃないけど……それでも、人前での着替えは、やっぱり恥ずかしい。ましてや、相手が女子だなんて……。
「おぉ……」
「わぁっ!」
出てきた途端、翡翠と琥珀が同時に息をのんだ。
彼女たち三人も同じ制服を着ていた。だからこそ、気持ちはわかる。わかるけど……!
「ご、ごめん……やっぱり僕、似合ってないかも……」
「「「鏡、見てみなさい!」」」
三人のツッコミが、見事にハモった。




