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第十四回

  白い閃光が一瞬、視界を横切った。


  「呼延槍法こえんきゃんほう!」


  雪乃しゅえないさんの突きが土蜘蛛の動きを割って入り、僕を救い出した。巨大な蜘蛛の脚が僕の目の前にドスンと落ち、心臓が止まりそうになる。もし今、僕が身動きできたら間違いなく飛び上がって悲鳴を上げていたに違いない。


  一般的に横薙ぎや突き下ろしが多い南宮槍法なんきゅうきゃんほうと違い、突き特化の呼延槍法こえんきゃんほうは溜めが必要で扱いにくい。でも威力は凄まじく、ボス級の土蜘蛛の脚すら切り落とせる。


  脚を失った土蜘蛛はさっきまでのような機敏さを失い、紅葉ほんいぇが一気に畳みかける。雪乃しゅえないさんは巧みに間合いを取りつつ【金創藥】で自己回復し、糸を吐く前には軽やかに飛び退いてかわす。二人の動きはまるで息がぴったり。


  ……ああ、なんで僕、あんな無茶したんだろう。葵花神功きかしんこうがいくら強くても万能じゃないのに。しかも僕のは未完成形なんだ。もっと慎重に、あの二人みたいに確実に攻めていれば、時間はかかっても勝てたのに。


  土蜘蛛のHPが20%を切った頃、突然くるりと背を向けて逃げ出した。紅葉ほんいぇが慌てて崑崙刀法こんろんとうほうで追いすがるが、奴は一切構わず撤退を続ける。


  なんで暴走じゃなくて撤退? それに、これって任務失敗になるのかな……。いや、それよりも、これ、完全に僕のせいじゃない?


  無力化が解けた僕は立ち上がり、葵花神功きかしんこう繡花功しゅうかこうを同時発動。殘した厄介ごとを自分で片付けなきゃ。一閃、土蜘蛛を抜き去り、壁にぶつかる寸前で蹴り返し、振り向きざまに針を顔面に叩き込む。蜘蛛がピタリと止まったその瞬間——


  雪乃しゅえないさんが宙を舞い、


  「呼延槍法こえんきゃんほう!」


  白光が土蜘蛛の胴を貫き、反対側へ突き抜ける。断末魔の痙攣のあと、巨体は地に沈んだ。


  戦利品を回収して杭州こうしゅうの【武林聯盟】へ報告に向かう途中、紅葉ほんいぇ雪乃しゅえないさんが僕の動きに食いつくように話しかけてきた。


  「紫色の光がシュッて走ったと思ったら、蜘蛛のHPが半分以上吹っ飛んでて、超すごかった!」

  「い、いや……そんな……」


  褒められても、全然胸を張れない。だって、あれは僕の失敗の尻拭いだし……。


  「超スピード? それとも同時多段ヒット?」

  「でも針って威力低いよね? 何発当てたらあのダメージになるの?」

  「もしかして攻撃力アップの効果が乗ってる?」


  二人の視線が一斉に僕に突き刺さるが、やがて同時にそらされる。


  「ま、他人のスキル探るのはマナー違反だしね」

  「なんで?」


  僕が首を傾げると、


  「スキル構成や能力はプレイヤーのアドバンテージだ。みんな唯一無二の戦い方を持ってる」

  「それに、このゲームはPVPがある」

  「なるほど……」


  つまり、対人戦があるから各自の戦法は切り札扱いってことか。ふむ……。


  そんなことを考えていたら、ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐり、左腕がやわらかい感触に包まれた。


  「ありがとね。さっき、君がいなかったら、私たち負けてた」


  耳元でそっと囁かれた声と香りが脳まで入り込み、頭が一気に沸騰する。亞美のときとは全く違う感触に、顔が爆発しそうなほど熱くなる。


  その張本人はすぐに僕から離れ、数歩先まで駆けてから振り返り、大きく手を振った。


  「帰ろっか」


  雪乃しゅえないさんの淡い微笑みに見送られ、僕はまるでロボットのように足を運んだ。


  胸の奥の重苦しさは、少しだけ軽くなっていた。


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