第十三回
パーティーを組んだあと、僕たちは【武林聯盟】で簡単なクエストを受けた。僕の採集はもうレベル8で、これが一番成長が早いスキルなんだ。本当はレベル10まで上げてスキルポイントをもらおうと思ってたけど……今はちょっと置いとこうかな。
ゲームでは最大6人まで組めて、クエストには最低人数の条件がある。それに、4パーティー合同で挑む超大型クエストなんかもあったりする。
クエスト自体には最低レベル制限はないけど、星の数で難易度が分かれてて、武功と同じく1つ星が最も簡単で、5つ星が最難関。初心者は1つ星推奨で、スキルが3つ以上レベル10になったら2つ星にも挑戦できる……っていうのはあくまで目安で、強制じゃない。
今回のクエストは1つ星。さっき僕が採集した洞窟に戻って、奥にいる土蜘蛛を倒すだけの簡単なお仕事。普段洞窟に入ると普通のコウモリしかいないけど、クエスト受注後に入るとインスタンスダンジョンに変わって、敵が蜘蛛に変わる。勝つか諦めるまで外には出られない仕様だ。
「よーっし! ウチらが先に倒すか、清照たちが先か、勝負やで!」
紅葉は拳を高く掲げ、そのまま勢いよく洞窟に突っ込んでいった……のに、二歩で止まった。
「ひぃぃぃっ! 目ぇいっぱいおるーーーーーーっ!」
……マジか。
雪乃さんはすぐさま前へ躍り出て、長槍を構える。
「南宮槍法!」
その一振りで前方の小蜘蛛たちをまとめて薙ぎ払う。倒しはしなかったけど、ヘイトを一気に引きつけることに成功した。
拳サイズの小蜘蛛たちに見られなくなった紅葉は、少し落ち着いたのか、雪乃さんを囲む小蜘蛛へと切りかかる。
「崑崙刀法!」
「飛針法!」
僕が葵花神功を使わないのは、内力消費が激しくて乱発できないからだ。ボス戦まで温存しなきゃ。
重装備で防御力の高い雪乃さんは、HPの五分の一も減らさずに小蜘蛛たちを撃破。僕は金創薬を一本渡して回復してもらった。
金創薬は武侠ものではお馴染みの回復薬で、ゲームでも最低ランクの回復アイテムだ。止血草と甘草を採集し、煉薬で合成すれば作れる。完成品は瓶付きだから、別で用意する必要はない。
使い方も簡単で、薬を相手に塗りつけるだけ。まず自分の手に垂らしてからでも、直接相手に垂らしてからでもOK。傷口じゃなくてもいい、とにかく「塗る動作」をすれば発動する。
回復系武功はもっと楽らしくて、手を広げて前に差し出して武功を使えばいいらしい。本当かな……?
このゲームも一般的なMMORPGと同じで、タンク・回復・アタッカーに役割が分かれている。タンク向きの武功を持つ門派は3つあって、正道の少林、中立の南宮世家、そして魔門の血刀教。特に少林は、金鐘罩や鉄布衫といった超高防御の心法・武功を持ち、防御力は全門派中トップだ。
南宮世家は代々官僚を輩出する大貴族で、門下生は多く、文武両道。杭州での勢力も大きい。彼らの武功は儒学由来の武芸と軍の実戦技を融合したもので、重装備による防御力アップが可能。その代わり鈍重になるが、槍術で補っている。
もちろん、少林に入ってもタンク武功を学ばない選択肢があるように、南宮世家にも軽快な武功があり、ハイブリッド型のプレイヤーにも向いている。
洞窟は広くないが分岐が多く、その半分ほどに宝物がある……のはいいんだけど、雪乃さんがマッピング強迫症で、全ルート踏破しないと気が済まない性格だから、地図完成に15分、さらに宝分配に5分かかってしまった。ボス部屋の前を3回も通ったのに……。
土蜘蛛は素早く、「カサカサカサッ」と僕らの目の前に現れる。雪乃さんの槍突きは残像しか捉えられず、軽やかに横へ回避。紅葉が刀を構え、僕も飛針法を放つ。
けど、土蜘蛛はライオン並みの巨体でありながら、軽々とジャンプし攻撃を避け、僕らの頭上を越えて背後に着地した。
そして脚をカサカサ動かして体を反転……だけど、そこは妙に遅くて、1秒もかかった。なのに僕と紅葉は、さっきの素早さにビビって反応が遅れ、ちょうど反転が終わったタイミングでしか攻撃できなかった。
攻撃を受けた土蜘蛛は一瞬すくみ、次の瞬間蜘蛛糸を吐き出し、僕と紅葉をぐるぐる巻きに! 地面でゴロゴロしながらもがく僕らに、巨大な脚が振り下ろされ――
「南宮槍法!」
雪乃さんが間一髪で脚を弾き飛ばし、紅葉を救出。僕らも必死のもがきで拘束を破った。
土蜘蛛が再び襲いかかる瞬間、僕は飛び出した。
「葵花神功! 繡花功!」
紫色の雷光が走り、危険を察知した土蜘蛛は紅葉たちを飛び越えて逃走。僕の一撃は半分しか当たらなかった。それでも止まらず、追いかける。後ろで紅葉と雪乃さんが目を丸くしていた。
逃げる土蜘蛛と追う僕――洞窟の壁沿いを駆け回る。ようやく土蜘蛛が地面に降りたときには、HPは半分以下で、無数の細かい傷から血が滲んでいた。
再び葵花神功を使おうとした瞬間、足から力が抜け、僕は前のめりに倒れた。
「紫くん、大丈夫か?」
……体が、力入らない……? あ、そうだ、内力切れで発生する無力状態だ!
巨大な影が僕を覆う。
あ――やばい……死ぬ……?
真っ赤な双眼が怒りに燃えていて……もう一度、死ぬのかな……。
土蜘蛛が脚を振り上げた――。
 




