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第十二回

「紫苑!」

「は、はいっ! い、今行く!」


 放課のチャイムが鳴った瞬間、裕貴と亞美はもう我慢できないって感じで教室の出口へ向かっていた。僕はまだカバンをまとめていたのに……。慌てて追いかけていくと――


「ま、待ってっ……わっ、止まれないっ!」


 ドンッ!と誰かに思いきりぶつかられ、そのまま床に倒れ込む。衝撃の主は僕の上にのしかかってきて――。


「ちょっ……」


 もがくその腕が僕の頬や肩にガンガン当たり、必死に押しのけようとしたその時――。


 ふわっ……え、やわらか……?


「あ”っ――――!」


 次の瞬間、左の頬にパシィンと鮮やかな平手打ち。熱い……っ、これ、一週間以内で二回目だぞ!? しかも力加減も角度も……まさか、同じ人……?


 そう思った瞬間、スマホにメッセージが届く。


じえくん、まだ成都せいとにいる?』

『いや、もう杭州こうしゅうまで走ったけど』

『ちょうどいい、私たちも杭州こうしゅうにいるの。宿屋で会おう』


 宿屋? 僕はいま、洞窟でコウモリを倒しつつ採集中だった。町まで戻るのに五分はかかる……。まあ、先に遅れるって伝えておこう。


 急いで杭州こうしゅうの宿屋に着くと、テーブル席で肉まんを食べている四人の少女が目に入った。紅葉ほんいぇが顔を上げ――


「@!%&~!」


 肉まんを口いっぱいに頬張ったまま、手をぶんぶん振ってくる。……同席している長髪の子が、ちょっと恥ずかしそうに紅葉の袖を引っ張った。


 僕も席につくと、店員さんが湯飲みを置いてお茶を注いでくれる。粗茶だけど、汗だくで喉が渇いてた僕には最高のごちそうだ。


「……ん?」


 視線を感じて顔を上げると、四人全員がまるで珍しい動物でも見るように僕をじっと見ていた。


「噂には聞いてたけど……本当にすごいわね,」長髪の少女が、感嘆というより困惑したような声を出す。


 ?


「でしょ?」紅葉ほんいぇが胸を張って頷く。


 ???


 え、何の話?


「念のため確認するけど……君、本当に男?」すらっとした高身長の少女が冷たい瞳で聞いてくる。

「……はい。一応、生物学的には」

「うわ、負けた気しかしない!」オレンジ色のショートヘアの少女が机を軽く叩く。

「ちょ、ちょっと!? 何が起きてるの!?」


 混乱してる僕を、その高身長の少女が急に抱きしめ――


「大丈夫よ……ママが守ってあげるから」


「いやいやいや! 何それぇ!?」


 ようやく抜け出すまで、けっこう時間がかかった……。


 この三人は紅葉ほんいぇがゲーム内で知り合った仲間らしい。偶然パーティを組んだら武功の相性が良かったとか。高身長の少女は雪乃しゅえない。全身鎧に長槍を構える姿はまるで女将軍で、門派は南宮世家なんきゅうせいか。……正直、鎧着ててくれて助かった。さっき抱きつかれた時、もし直接だったら……命の危険があったかもしれない。


 オレンジ髪は向陽しゃんよう、黒い長衣に剣を帯びる華山かざんの剣士。そして長髪の清照ちんじゃおは青い長衣に長い笛――いや、しょうを差す衡山こうざんの門派だ。二人は同級生で、【武俠仙蹤】を最初からやりたくて買った数少ないプレイヤーらしい。


 理由は……僕には聞けなかった。


「それ、蕭だよね? 音系武功?」

「……そう」


 清照ちんじゃおが少しだけ目を見開く。


「ね、ほら! この子詳しいでしょ? わからないことあったら聞きなよ!」


 なぜか紅葉ほんいぇが得意げ。


「いや、なんで君が誇ってるの……?」

「音系武功って何?」向陽が顔を近づけすぎじゃないかな!?

「えっと……音系武功は、内力を使って演奏や演奏音で攻撃する武功。小説だと、相手の内力を乱したり内傷を負わせたりできる」

「かっこいい~」と、向陽しゃんようは目をきらきらさせて言った。「どこへ行けば習えるの?」

「衡山には元々あるみたいだよ」僕は清照ちんじゃおの方を見た。彼女がうなずく。「それから……あっ! そうだ、前に僕、音系武功が習えるクエストをやったことがあるんだ」

「あ、そうだ。僕、この前音系武功を覚えられるクエストをやったよ」

「本当!?」


 クエスト情報をシェアすると、向陽しゃんよう清照ちんじゃおの腕を掴んで立ち上がる。


「行こ行こ! 青楼だって! 面白そう!」


 あっという間に二人は駆け出していった。


 残された僕たち三人は顔を見合わせ――


「……一緒に行く?」


 雪乃しゅえないが涼しい顔でそう言った。


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