第十一回
本作では、ちょっと方法を変えてみようと思います。一つの小さな物語を書き上げてから、一度に公開する形にします。今回は五章で、一日一章ずつ公開します。
それから、読者の方から、用語や解説を整理したほうがいいというご意見をいただきました。こちらはもう少し時間がかかりますので、ご了承ください。
「どうしたの、紫苑お嬢さま。」
ガツン、と肩を亜美に叩かれて、僕は二歩ほどよろめいた。叩かれた場所を揉みながら、恨めしそうに亜美を見る。……なのに、なぜか亜美は僕の表情がツボに入ったのか、ケラケラ笑い出した。え、なんで?何がそんなに面白いの?
僕が裕貴の方を見ると、彼は苦笑いを浮かべながら亜美の頭をぽんと叩いた。
「もうやめとけって」
「はーい」
亜美は唇を尖らせる。
「オレたち、もうレベル5になったし、パーティも組んでクエストクリアしたんだぞ」
裕貴はスマホを取り出し、DCで録画しておいたゲーム映像を僕に共有してくる。
タンク役の裕貴がハーフシールドでミノタウロスのボスの攻撃を受け止め、三人の仲間が一気に畳みかける。剣使いと槍使いが正面からスキルで攻め、短剣使いは背後に回って「バックスタブ」を叩き込む。
ボスが短剣使いに反撃しようと振り返った瞬間、亜美の巨大な火球が完成。火炎に包まれたボスが悲鳴を上げる。火が収まった時には、ボスの全身が赤く変色しており、まるで焼かれたようだった……が、裕貴たちは知っていた。――それがボスの「狂暴化モード」だということを。
裕貴は慌てて盾を構えるが、巨斧の一撃で吹き飛ばされる。近接担当の仲間が慌てて攻撃して足止めを試みるも、ボスは平然と前進。そして亜美の目の前まで迫り、斬りかかろうとしたその瞬間――回復を終えた裕貴が戦線に復帰し、その攻撃を防いだ。最後は追撃に来た近接仲間によってボスは倒された。
「このミノタウロスボス、ギミックは単純だな。3〜4人で狂暴化させずに倒せば、入門クラスのボスだ」
裕貴と亜美が並んで解説してくれるけど……僕には半分も理解できなかった。ていうか、僕がやってるのは武侠系MMORPGなんだけど?全然違うジャンルじゃん……。
「で?お前は?ダンジョン行ったのか?」
裕貴の声に引き戻され、僕は映月とのあのクエストを思い出す。そして映像を二人に送ろうとした瞬間……送信ボタンを押した後で「しまった!」と気付く。止めようとしても、もう遅かった。
二人は無言で視聴を続け……やがて、亜美が僕の肩をぽんと叩き、裕貴は同情するような笑みを浮かべる。
「学園祭でメイドカフェやったら、お前絶対1位取れるな」
そう言いながらスマホの画面を僕に向ける。そこに映っていたのは――妓女の姿で掌櫃に指名される僕の姿……。
あああああああああああーーーっ!やっぱり!なんで先に気付かなかったんだ僕!!息が詰まり、反論しようとしたその時――背後から優しい女声が。
「メイドカフェ……結構いいみたいですね。」
振り返ると――クラス委員長の青山さんが立っていた!短めの髪に穏やかな笑み……そして、亜美と並ぶクラスの二大美人の一人。
僕はあまり話したことがないけど、いつも優しくて感じが良い。そりゃあ、クラスだけじゃなく学年全体で人気が高いのも当然だ。
青山さんは亜美のスマホ画面から視線を外し、僕に向かってひらひらと手を振り、にこっと微笑んだ。――いつもの柔らかい笑顔なのに、なぜだろう……背筋がゾクリとした。
いやいやいや、そんなわけない!だって委員長だぞ?優しい委員長を僕が疑うなんて……考えただけで罰当たりだ!彼女は絶対いい人だ。少なくとも、亜美みたいに下ネタ連発の暴力女なんかじゃ……!
――パシッ!
また肩を叩かれた。
「今、何考えてたか当ててやろうか?……死にたいの?」
亜美が僕に腕を回し、小声で耳元に囁く。
「皆さん、とても仲が良いですね。」
委員長は微笑みながら言う。外からはそう見えるんだろうな……。
「もちろん、私たち三人は幼なじみなんですから!」
亜美はにかっと笑って答える。
「本当に羨ましいです。」




