赤いチェリーは毒だと思っていた
『クリームソーダ』
これで何かエッセイを書こうと思ったのだが、特に思い出が浮かばなかった。
何でだろうと考えた時、あ……私、そういえばクリームソーダがあんまり好きじゃないんだと気付いた。
見た目は大好き!
赤、白、緑と、涼しげだし綺麗よね。子供の服もクリームソーダ柄を買ったり(チェリーじゃなくオレンジだったけど)、グッズを見かければ、可愛くてつい手に取ってしまう。
だけど飲むか? となると話は別だ。赤いチェリーの味も、緑のソーダの味も、飲めなくはないけど好まないというか。メニュー表に載っていても絶対に頼まない自信がある。
大抵はコーヒーフロートか、炭酸を楽しみたいならコーラフロートを選択するかな。
で……少し記憶を遡ってみると、そういった『色の着いたもの』を、幼少期に母から与えられなかったことに気付いた。
幼い頃に、レストランや喫茶店でクリームソーダを頼んだ記憶はない。そもそも炭酸飲料を飲んだことがなかったんじゃないかな。
だけど赤いチェリーのことはよく覚えている。多分パフェか何かに付いていたそれをつまみ、いつ食べようかと考えていると、母に言われた。
「無理して食べなくていいのよ。美味しくないし、真っ赤で身体によくないんだから」
無理はしていないから食べたけど、確かにあまり美味しくはない……というか不思議な味がした。普通のさくらんぼとは全然違う、これが毒の味なんだなと。
そして、母は本当は、私にこれを食べさせたくなかったのだなと感じていた。
クリームソーダから少し話は逸れるが……
皆さんが子供の頃、友達の家へ招かれた時、または招いた時。どんなおやつを頂き、または出しただろうか。
私が子供だった頃は、紅茶とクッキーやマドレーヌなどの焼き菓子、しょっぱいものでもお煎餅とかかな。当時我が家は狭いアパートだったので、戸建ての友達の家に遊びに行かせていただくことが多かった。美味しいおやつはもちろん、そのお家の可愛いティーセットやお砂糖を見るのが楽しみだった。(お母さんも上品で優しかったなあ)
我が家にその友達が遊びに来る時も、同じように紅茶と焼き菓子でもてなしていたし、習い事の絵のお教室でも、みんなで紅茶と焼き菓子などのおやつを頂いてから作業を始めた。夏は麦茶やアイスティ、旬の果物が添えられていた時もあったかもしれない。
スナック菓子に炭酸飲料とか……そういったおやつは出ないし出さなかった。昔は子供もお客様として手厚くもてなしていたのかな? という話を以前職場でしたところ、「あんた、一体どんなとこに住んでたのよ!」と言われてしまい、答えると「あ~~~そりゃそうだ」という反応が帰ってきた。
でも我が家はアパート暮らしだったし、多分周りに比べたら貧乏だった。
確かに土地柄もあったかもしれない(言われて気付いた)けど、母自身も普段から子供の食事やおやつに多少厳しかったのだと思う。
市販のものは普通に食べていたけれど、主にクッキーやチョコレート系で。単純に母の好みもあると思うが、カラフルなグミやスナック菓子は家になかった。駄菓子とか、お祭りの屋台とかも、あまりいい顔をされなかったから。
小学校高学年の時、家庭の事情でもっと田舎へ転校すると、子供達の雰囲気も大分違っていた。
のんびり穏やかだった前の地域に比べ、常に流行りものにアンテナを張ってギラギラしているというか。芸能人がどうとか、ピアスがどうとか、全く興味のなかった私は正直戸惑った記憶がある。
(お嬢様ぶってると陰で嫌われていたらしい時期もあるのだが、その話はまた別の機会に)
結局中学を卒業するまで馴染めなかった気がするが、それでも仲良くしてくれた友達からは、行きつけの文房具店も教えてもらえた。
狭い道路にある小さなそのお店は、文房具だけではなく駄菓子や炭酸飲料の自販機もあり、地域の子供達の人気スポットだったのだと思う。
学校が変われば流行りの文房具も変わる。そこで新しいペンや消しゴムを揃えるついでに、自然と駄菓子に触れる機会が増えていった。
中でも強烈な印象を受けたのが、すもも漬けだ。小さな豆腐のパックみたいなやつに、真っ赤な汁とすももが二つくらい入っているやつをご存知だろうか? 友達はまずそれに細いストローを刺し、中の汁を全部飲み干してから、中のすももを楽しんでいた。
それともう一つ、お店の前のレトロな自販機で売られていた、チェリ◯という瓶に入った緑の炭酸飲料。「チェリ◯って何?」と訊く私の前で、友達は鮮やかな緑のそれを、ごくごくと飲んで見せてくれた。
チェリ◯には抵抗があったが、すもも漬けには惹かれた私。元々カリカリ梅は大好きだし、その独特の食べ方に興味をそそられたのだろう。赤が毒だということも忘れ、つい手を出してしまった。
友達の真似をして、ストローでチュウと汁を一口飲む。
美味……しい?
今までに味わったことのない、痺れるような甘味と酸味が脳天を突き抜ける。夢中で飲み干し、同じ味のすももも、種以外は綺麗に平らげた。
そこからはすっかりすもも漬けの虜に。文房具そっちのけでその店に通っていた。
外で食べきれなかったのか、家で食べようとしたのかは覚えていないけれど、ある日、私は自分の部屋ですもも漬けを味わっていた。
ストローでチュウと汁を吸い、幸せに浸っていた時、掃除機をかける為やって来た母に、その姿を見られてしまった。
「なに飲んでるの!?」
発狂寸前の悲鳴に、私はやっと思い出す。
あ……そういえば、赤は毒だったんだ。
「すももだけならまだしも、そんな着色料だらけの汁を飲むなんて! 身体に悪いから止めなさい!」
今にもすももを取り上げようとする母を無視し、私は汁を飲み続けながら、痺れる舌でキッパリと言った。
「嫌だ。だって美味しいんだもん」
その後は一瞬だった。母が振り下ろした掃除機のヘッドが、私の勉強机を直撃し、分厚い天板がぼこりとへこんだ。
おっ……おっかねえ……
あまりの恐怖に、そのすももがどうなったかは全く覚えていない。ただ、当時家庭のいざこざでメンタルが不安定だった母を刺激してしまったことは間違いなかった。
罪悪感に駆られた私は、その日以来、あんなに愛したすもも漬けに別れを告げた。毒よりも、何よりも、当時の母の方が怖かったから。壊れていく家庭の方が怖かったから。
もしチェリ◯まで飲んで、舌を赤と緑に染めていたら……と考えるとゾッとする。
すもも漬け程ではないけれど、他にハマったのが小さいヨーグルトみたいな駄菓子だ。ジャリジャリした甘酸っぱいヨーグルトもどきを、木のスプーンで掬って食べる、駄菓子の定番のアレ。
白いせいか、これは何故か毒認定されず、「普通のヨーグルトの方が美味しいじゃない」と言われるだけで、怒られることはなかった。
クリームソーダの色を見ると、赤いすもも漬けと、白いヨーグルトもどき、そして飲めなかった緑のチェリ◯を思い浮かべてしまう。
そして着色料に対する罪悪感は、未だに残っている気がする。……食べちゃうけどね。
あんなに食事に気を遣っていて、煙草も吸わないし酒もほとんど飲まなかったにもかかわらず、母は癌を患い、58歳の若さで亡くなってしまった。
苦労だらけの人生だったしね。やっぱりストレスが一番身体によくないんじゃないかなあと。
折角大切に育ててもらったのに、私は今、毎日のようにしゅわしゅわの酒を飲んでいるし、つまみに蒲焼きさん◯郎やブタ◯ンも食べている。赤い梅◯ばも。
(しょっちゅうお腹は壊すけど)
緑のクリームソーダだって、アルコールが入っている甘さ控えめのヤツなら飲めちゃうと思う。
だけど私はきっと、毒を食べても長生きするよ。
二重生命線を見つめながら、なんとなくそう思っている。
ありがとうございました。
あんまり(ほとんど)クリームソーダじゃなくてごめんなさい。
先日カラオケで、ハイボールの上にベリーとバニラのマーブルアイスが載ったヤツを飲みましたが、美味しかったです!
(つい天辺にチェリーを探してしまいました( *´艸`))