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名禮翫家の使用人  作者: 駿河犬 忍
中卒
69/140

第六十五話 別れと再会

 隠れ家に戻ると、全員集まっていた。

 和室の大広間に、三人が座っている。穴の空いた畳。所々落ちた天井。隙間風の入る廃れた日本家屋に、ハチ公は珍しそうにキョロキョロと見回しす。

 あぐらを書き膝の上で頬杖をつくメンゼンチンが、ニヤリと笑う。

「遅かったなあ。そのオレンジ髪は新入りか?」

「いえ。ちょっとお話がありまして……。」

 頭を悩ませながら、何とか事情を説明した。どう足掻いても格好はつかない。

 何を言われるのか想像がつかず、俺は俯きながら目を瞑った。

「いやぁ、良かったな!俺達の作戦通り、不幸な少年をまた一人救っちまったぜ!」

「え?」

 言葉の意味が分からずに顔を上げた。メンゼンチンは大きな口を開けて笑っている。

 フリテンの方を見たが、目を逸らされてしまった。チートイツは不機嫌そうに、フリテンに口を塞がれている。

「全部予想通りの展開だったってことさぁ。いやはや、良い顔する様に戻れたんじゃねえの?その目の奥に、最高の輝きが見えるぜ。」

 メンゼンチンは両手の親指と人差し指をくっつけ、三角の穴に俺の顔を収める。

「言っている意味はよく分かりませんが、また会いに行きますね。それまで死なないで下さいよ。」

 笑っていたメンゼンチンが、口を閉じへの字に曲げた。

「何で会いに来たいんだぁ?もう関わる必要ねえだろ。」

「恩は返しますよ。義理堅く生きろってメンゼンチンから教わりましたからね。」

「んー?教えたつもりねえけどなぁ?」

 メンゼンチンは背中を向けて腕を組み、天井を見上げた。

「ほら、さっさと行っちまえよ。仕方ねえから、待っててやる。俺は義理堅い人間らしいからなぁ。」

 その後、フリテンとチートイツに握手をした。

「ありがとう。また来ます。」

 フリテンは肩を震わせて、目をうるうると揺らした。

「うう。また一緒にご飯食べようね。」

「はい、必ず。それまでは俺も死ねないですね。死んだらごめんなさい。」

「いやぁ!死ぬなんて許さないよ!死んだら呪ってやる!」

 チートイツが俺に抱きついた。

「それは怖いですね。」

 冗談に聞こえなくて、俺はつい真顔になってしまった。

「それじゃあ。また今度。」

 俺はそっとチートイツを離して、珍しく大人しいハチ公の隣に戻った。

 メンゼンチンが後ろを向きながら、早く行けと手で仕草をする。

「お待たせしました。戻りましょう。」

 俺はハチ公の肩を掴んで外へ走った。

 満天の星空が、雲の間から覗いている。

 山を降り、街中へと走る。ぬるい風が髪を撫でた。

「よく大人しくできましたね。」

「いやぁ。変な事言ったら更に帰りが遅くなりそうだったっすよ。まさか、アイツらと一緒に居たなんて!マジで信じられないっす!」

 ビルの上を飛びながら、ハチ公が大声を出した。

「結構、良い奴でしたよ。」

「へぇ。サソリパイセンが言うならそうなんすね。」

「ハチ公。どうして、俺の居場所が分かったんですか?」

 教会に飛び込んで来たハチ公を思い出しながら俺は聞いた。

「ガマゴオリさんっすよ!サソリパイセンが心配だから偶に様子見てたらしいっす。バディの自分にも教えてくれて。でも、他の人には絶対言うなって固く口止めされたっすねー。自分も心配になって見に行ったら、ヤバそうだったんで突っ込んだっす!」

「ガマゴオリさんか……。後でお礼言わないとですね。ところで、もう一つ聞いても良いですか?」

 ずっと聞きたかった事があった。しかし、聞こうかどうかずっと悩んでいた。自分がそれを聞くのは、何だか違う気がしたからだ。でも、気になって仕方がない。

「なんすか?改まって……あっ。」

 ハチ公も察したらしい。

「坊ちゃまの第一使用人は、誰に決まったんですか?」

「やっぱりその事っすか!いやー、いつ言おうかタイミング迷ってたんすよねえ。」

 ハチ公は少し言い辛そうに、間を置いた。街の騒音が聞こえる。

「実は……。」

 言いかけた時、ハチ公のスマホが爆音で鳴った。

「うるさっ!何ですかその音量。」

 俺は呆れる。ハチ公は急いでスマホの着信を確認して、電話に出た。顔色が一気に蒼白していく。

 ハチ公は立ち止まり、スマホをポケットにしまう。

「大丈夫ですか?」

「やべえっす。マジやべえっすよ!」

 ハチ公はパニックになり、俺の肩を力強く掴んで揺さ振ってきた。

「落ち着け!離してから話せ!」

 俺はハチ公の両頬を両手で挟んで睨みつけた。ハチ公は俺の肩から手を離し、自分の頭を抱えた。

「りんのすけ様が家出したっす!」

「早く行きましょう!場所は分かりますか?」

 ついハチ公をキッと睨みつけてしまった。

「そうだ!GPSマップあるんで、えっと。こっちっす!」

 坊ちゃまの安否が心配過ぎて、俺は頭が締め付けられる思いだった。どうか無事であってくれ。

 駆けつけた場所は、廃墟の病院だった。街から外れた郊外に、ヒッソリと建っている。窓ガラスは割れ、壁には落書きだらけだ。

「こんな所に一人で来るなんて……。攫われたんじゃ……。」

 俺は嫌な予感が止まらない。それはハチ公も同じだった様だ。震える声で呟いていた。

「とにかく、入りますよ。」

 なりふり構っていられない。俺は病院の中へ駆け出した。


 ズドン!!


 鋭い閃光と共に、衝撃波が迫る。俺はそれに当たって吹き飛んだ。

「クソッ!ふざけやがって!!誰が犯人か知らねえがぶち殺してやる!!」

「ちょっと!サソリパイセン!」

 俺はハチ公を置いて、病院の壁をよじ登った。

 光の発生元は恐らく屋上。窓のサッシに指を掛けて、飛び上がりながら一気に登る。

 屋上に辿り着いて見えた景色に、俺は驚愕するが、それは直ぐに殺意へと変わった。

 大きな円盤型の謎の飛行物体が、空へ飛び立とうとしている。白い電球をピカピカと光らせ、徐々に透明になろうとしていた。

 既に上空十メートルほど上がっている。手を伸ばしても、ジャンプしても届かないだろう。

「サソリパイセン……。ウワッ!なんだコレ!!」

 俺の後ろを着いてきていたハチ公が、飛行物体を見て大声を上げた。

「考えてる暇はねぇ。俺の首を切ってアレに向かってぶん投げろ!!」

「ええ!正気っすか!」

「いいから早くしろ!!」

 頭に血が上り過ぎて、ついハチ公の胸ぐらを掴んでしまう。

「どうなっても知らないっすよ!」

 ハチ公は眉間に皺を寄せながらも、ダガーナイフを取り出し、俺の首を切断する。

「ヤケクソじゃァァァァ!!」

 叫びながら俺の首を思い切り投げ上げた。首は真っ直ぐ飛行物体目掛けて飛び、そしてぶつかる。

「あっ。あああ!!」

 ハチ公の絶叫が遠くから聞こえる。

 集中しろ。今この力を使わないで、いつ使うんだ。早く治れ。りんのすけ様を。

「絶対に助け出す!!!」

 叫び声と同時に首から肩、腕と体が生える。腕を伸ばして飛行物体の電球を掴んだ。

 手刀を構え、外壁に爪を突き刺す。開いた穴を無理矢理こじ開けた。その間に下半身も生え終わり、身体が元に戻る。

 足を外壁に付けて踏ん張り、全身の筋肉で外壁を破った。入れる大きさの穴から俺は侵入する。

 白く冷たい廊下の壁をぶち破り、中心を目指した。操縦席らしい大きな機械だらけの部屋に辿り着くと、目と耳の大きな小さい宇宙人が数十人座っている。

「坊ちゃまを何処へやった?」

 殺気を帯びた全裸の男を目の当たりに、宇宙人達も流石に動揺していた。機械音の様なオナラの様な音で会話をしている。

 俺はイライラして、宇宙船の内壁を拳で殴った。大きな穴が空き、赤いランプとブザー音が船内を埋める。宇宙人達は更にパニックを極めた。

 頭にヘルメットの様な機械を付けた宇宙人が、震えながらも立ち上がり、俺の数メートル近くまで前に出る。

 聞きやすいイケメンボイスで、その宇宙人が話し始める。

「すみません。坊ちゃまと言うのは、どの様な見た目をされていますか?心当たりがございません。」

「嘘ついてんじゃねえよ。黒髪でまつ毛の長い吊り目、愛くるしい見た目のこの世で一番可愛い御曹司様だ。早く出せ。」

 ヘルメットを一度外して、宇宙人は他の宇宙人達に共有をした。しかし、皆んな分からないと言った様子で、首を傾げたり、横に振ったりしている。

 またヘルメットを被り、宇宙人が咳払いをした。

「ゴホン。非常に申し上げにくいのですが、その様な方はこちらの乗り物にはおりません。何か勘違いをされている可能性があります。」

 話し終えると同時に、一人の宇宙人が大きな声を上げた。目の前の機械だらけの壁がスクリーンになり、外の景色が映し出される。そこには、ハチ公とりんのすけ様が映っていた。

「坊ちゃま!って事は、嘘じゃなかったみたいですね。」

 早とちりで、宇宙船を破壊しまくってしまった事を今更申し訳なく感じてしまう。少し気まずい空気が流れる。

「すみません。えと。宇宙船を壊してしまって。本当に申し訳ございませんでした!」

 俺は深々と頭を下げる。

「い、いえ。殺さないでくれれば大丈夫です。壊れた所はすぐに直せますので。良かったら地上まで降ろしますね。」

 言われるがままに、俺は廃病院の屋上にテレポートさせられた。

 目の前にハチ公と坊ちゃまが居る。

「サソリパイセン!りんのすけ様いらっしゃいましたよ!うわっ!全裸だ……。」

 駆け寄る足を止めて、ハチ公は後退った。

 坊ちゃまも、厳しい眼差しを俺に向ける。

「久しぶりだな。サソリおに……。ゴホン。とりあえず、下を隠せ。」

 坊ちゃまは、俺の切り離した体からズボンを剥ぎ取り俺に渡した。


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