表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名禮翫家の使用人  作者: 駿河犬 忍
小学生
6/140

第五話 最強VS最強

 舞台部屋の観客席に入る時、俺は入り口の縁におでこをぶつけた。

 一番前の空いている観客席に、ソヤクモと並んで腰掛ける。

 丁度、最終試合が始まる直前だった。

「アッハァー!“関西最強”対“関東最強”の戦いや!」

「え、そうなの?あんまり詳しくないや。」

 俺は舞台に立っている二人の大人を確認する。

 一人は濃い青色の髪をショートのウルフカットにし、吊り目に八重歯の中性的な顔立ちだが、体付きから女性だと分かる。年齢は二十代くらいに見える。黒いポロシャツを腕まくりして、黒い革グローブを付けている。武器は棍棒だ。

 もう一人はチョウシ先生だ。スーツの時には分からなかったが、腕が物凄く太い。筋肉が多く、ポロシャツが体のラインを出している。割れた腹筋すらも分かるほどだ。武器は日本刀型の模擬刀だ。

 青髪の女性が上を向いて、叫んだ。

「ソヤクモのガキ!黙って見れへんかったら、後でしばいたるからな!」

「姐さん気張りやあ!」ソヤクモは大声を出す。

「ったく。うるさいわあ。」

 青髪の女性は眉間に皺を寄せながら、片足を上げて棍棒を構える。

「あの人、知り合いなんですか?」

俺は小さい声で聞いた。

「ああ。わっちのとこの格闘術のセンセや。スズラン言うねん。」

「そ、そうなんだ。若いね。」

「あー見えてもババアやで。」

 ソヤクモは小声で言った後、オデコに棍棒が飛んで来て体が後ろに吹っ飛んだ。

 大きな音を立てて観客席の後ろの壁にぶつかる。

「聞こえてんねん!!クソガキがぁ!!」

「うっさいわ!!さっさと試合せえ!!」

ソヤクモは不機嫌になりながら棍棒を投げ返す。

 スズラン先生は片手で棍棒をキャッチする。

 ソヤクモはオデコをさすりながら隣に戻って来て座る。

 スズラン先生はまた片足を上げて棍棒を構える。

 審判が告げる。「試合、始め。」その後、直ぐに走って何処かへ避難する。

 開始の合図が出ると同時に、二人は高く飛び上がる。

「片目の分、手加減したろか?」

 スズラン先生はニヤリと呟く。

「俺に挑発は効かないぞ。」

 チョウシ先生は冷たく言った。

「アハハハハ!!!」スズラン先生は高笑いしながら棍棒を投げる。

 チョウシ先生は首を傾げて避ける。頬が切れて血が流れた。

 二人は同時に着地する。スズラン先生は低空姿勢で駆け出した。

 それをチョウシ先生は刀低い位置で構え、横を通り抜けようとするスズラン先生に切りかかる。

 スズラン先生はわざと刀へ当たりに行く。下から振り上げた刀にしがみ付きながら、上まで上がると、手を離して、天井の鉄格子を掴む。一度後ろに振り、前に降った勢いで飛び降り、壁に刺さっている棍棒を引き抜いた。

 引き抜いている一瞬の隙に、チョウシ先生は音もなく、いつの間にかスズラン先生の真後ろまで移動していた。

 見えない速さで刀を振り下ろす。骨の砕ける音が響く。

「あーらら。避け切れんかったァァ!!」

 スズラン先生の右腕は力無く垂れ下がる。左手で棍棒を持ち変え、振り向きながら振るう。

 お互いの武器が大きな音を立てながら激しく交わる。攻撃のたびに風と振動が起こる。建物全体が揺れている様だ。

「激しく動くと、右腕戻らなくなるぞ。」

 チョウシ先生は攻撃を繰り返しながら、冷たく言った。刀捌きが綺麗だった。しかし、隙はない。

「うっさいわ!!アンタが手加減してんの分かってんねん!!本気出せや!!!」

 スズラン先生は激しく体を動かしながら、攻撃を繰り返す。力任せな攻撃に見える。

「分かった。」

 チョウシ先生は殺気を纏う。スズラン先生はニヤリと笑う。

 しかし、その笑顔は一瞬で消える。目が虚になり、パタリとその場に倒れる。

「え、何が起きたんですか?」

 俺はよく分からず、ソヤクモに聞いた。

 ソヤクモは絶望した顔をしながらポツリと呟いた。

「わっちもちゃんとは見えへんかったけど、スズラン姐さんの棍棒を刀で弾いて、棍棒を急所に当てて気絶させた……んやろか?」

 審判は走って戻ってくると、「勝者チョウシ。」と告げた。

 チョウシ先生は、模擬刀と棍棒を係員に返すと、スズラン先生を担いで舞台部屋を出て行った。

 二人の最強が戦う姿を見て、俺の胸の中に熱い何かが火を灯す様な感覚に駆られた。

 じっとして居られない。

「ソヤクモ!医務室へ行きませんか?」

 俺は興奮して鼻息を荒くしながら言う。ソヤクモは呆れた顔をする。

「ハァ?まだ体調悪いんか?」

「ううん。チョウシ先生に会いたいんです。」

「なんや。ファンにでもなったんか?」

「良いから、行きましょう!休憩時間が終わったら、家に帰らないと行けなくなりますよ!」

「お前ん家にチョウシって人も住んどるやろが!知らんけど!まあ、ええわ。行こか。」

 ソヤクモはまた俺を肩車する。

「もう一人で歩けますよ!!」

「うるさいわー。」

「早く降ろして!恥ずかしい!!」

「黙っとけや。」

 ソヤクモは俺の言葉を無視して歩き始める。また俺は出入り口でオデコををぶつけた。

 医務室に入る時は、ソヤクモの頭にしがみついて避けた。

「見えへんのやけど?」

「早く降ろしてくれれば良いんですよ。」

 医務室には、丁度出口に向かって歩き出したチョウシ先生がいた。そこにバッタリと出会す。

 肩車して入って来た俺達を見て、チョウシ先生は真顔で口を開く。

「何やってんだ。テメェら。」

 ソヤクモは俺を降ろす。俺は恥ずかしくて顔を赤くする。

「あ、あの、チョウシ先生……。」

 俺が言いかけたところでソヤクモが先に言ってしまう。

「サソリがアンタに弟子入りしたい言うてました。」

 俺は驚きながらソヤクモの顔を見る。

「おい、お前!」

「なんや、ちゃうんかい?」ソヤクモはそっぽを向きながら耳の穴に小指を突っ込む。

「弟子入り?」

 チョウシ先生は眉間に皺を寄せて俺を睨む。

 俺は足がすくんでしまう。顔を伏せて、目を瞑る。

 このままで良いのか。弱いままの俺で。このままだと何も護れない。りんのすけ様を護れない。

 俺は舌を噛み、痛みで恐怖心を消す。覚悟を決めて、チョウシ先生に向き直る。

「チョウシ先生。俺、強くなりたいです。強くなる方法を教えて下さい!」

 俺は深々と頭を下げる。体側に付けた握り拳が震える。

「頭上げろ。俺の目を見ろ。」

 俺は頭を上げてチョウシ先生を見つめた。鋭い目の奥に、少しだけ寂しさが見えた気がした。

「いいか、サソリ。俺に弟子入りした奴で、最後まで修行を終えた人間は一人しか居ねえ。そうだな。今から俺が言う事に同意出来なかったら、俺の弟子入りは無理だ。」

「はい。」俺は返事をする。チョウシ先生は続けた。

「まずは、どんなにキツくても最後までやり切る事。後は、怪我したり死んでも文句言わねえ事。最後に、俺の言う言葉絶対に聞く事。どうだ?弟子入りしたくなくなったか?」

 チョウシ先生は片手を腰に当てて、顎を少し上げ俺を見下ろした。

「やります!」俺は元気に言う。

 チョウシ先生は呆れた顔をする。

 カーテンのかかったベッドから声がした。

「やったれや、チョウシ。」

 カーテンを開けながら、スズラン先生が顔を出している。

「姐さんも言っとるんや、やったって下さいよー。」ソヤクモも便乗して言う。

「あー?何だ、テメェら。うっせーな。」

 チョウシ先生はスズラン先生とソヤクモを順番に見ながら言った。

「おー、怖い怖い。」スズラン先生はわざとらしく困り顔をする。その後、怪我をして居ない方の腕で自分の肩を抱く。

「なあ?ほんまに怖いわー。ちびってまいそやわー。」ソヤクモも便乗して自分の肩を抱える。

 チョウシ先生は黙ってスズラン先生のところまで歩き、脳天にゲンコツを落とす。

「相変わらず腹立つなあ、お前。お前によく似たアソコのクソガキもな。」

「女性に手ぇ上げるなんてサイテー。」

 スズラン先生は上目遣いでクネクネしながら言う。チョウシ先生はまたゲンコツを落とす。

「そのお調子者な性格じゃなきゃ……いや、何でもねえ。」チョウシ先生は言いかけて止める。

「なんや?言うてみそ?同期のよしみやろ?」

「言わねえ。……おい、サソリ。」

「はい!」チョウシ先生は俺に向き直る。急に呼ばれて、俺は咄嗟に返事をした。

「良いぜ。俺の弟子にしてやるよ。今日の夜から始めるからな。一度修行を始めたら、絶対に辞めるんじゃねえぞ。」

「分かりました!よろしくお願いします!」

 俺はまた深々と頭を下げる。

 チョウシ先生は俺の頭に手を置いた後、医務室を出て行った。

「良かったな、サソリ。ぜってえー強くなれ。ほんで、わっちと殺し合おうや。」

 ソヤクモは人差し指を立てて、手の甲をこっちに向けながら、舌を出した。

「まあ、考えときます。」

 俺は目を逸らして、テキトーに返事を返した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ