vsヤマタノオロチ 8
「しかし、タケルはすごかったの……」
「そうでございますね……」
このアキツシマの王である皇家の当主、皇ミカゲは呆けたように封龍の間へと続く洞穴をジッと見つめている。
ミカゲに対し側近である貴族家の人間は、当たり障りのない答えを返していた。
少しだけ形を変えて何度も繰り返される同じ発言と、それを追従するだけ繰り返される言葉。
そのやり取りは、傍から見てまったく意味をなしていなかった。
だがミカゲはずっと心ここにあらずといった状態だ。
無論、それにも理由はある。
ミカゲの脳裏には、先ほどトッドに言われた言葉がリフレインされていたのだ。
(タケルは他の皇家の人間よりずっと、アキツシマのことを思っていますよ……か……)
ミカゲはてっきり、機動鎧さえあればアキツシマを皇家が統一できるといったような、野心めいたことを言われるとばかり思っていた。
軍事的、技術的に侵略をするような考えであれば、一蹴して突っぱねてやろうと思っていたのだが……そのようにタケルの気持ちの話をされてしまえば、ミカゲとしても無下にすることができない。
皇家の立場は決して安定しているとはいえない。
持っている所領――天領はあまりにも狭く、そして皇家の威光はほとんどあってないようなもの。
皇家がアキツシマを完全に牛耳っていたのは今よりはるか以前のこと。
今の皇家など、過去の栄光と長い伝統にすがることしかできぬ偽りの玉座に座るだけの、裸の王様だ。
大名達はこぞって皇家に対し忠誠を誓っているが、それらは全て打算あってのこと。
彼らは皇家が太鼓判を押す、その行為自体に意味を感じているから表向きは従っているだけだ。
たとえ貧民街からの成り上がり者であろうと、皇家の後ろ盾があるということが一定の統治の正統性を持たせる論拠になる。
誰もが一定の価値を認める統治の正統性担保のための置物。
皇家の立場はなかなかに厳しい。
しかし皇家の人間には、それがわからない者も多い。
長女や次女はしっかりと自らの置かれた立場を理解しているが、長男や次男は皇家主導でアキツシマを再興し、世界に今一度覇を唱えるべきだなどと提唱している有り様だった。
(認めよう、私は息子達の育て方を間違えたのだ……)
それに比べて、タケルはどうだ。
年齢に見合わぬ落ち着きっぷり。
魔物を鎧袖一触にしたあの戦闘力。戦場に出れば、古今無双の戦働きをするのは疑いようもない。
ミヤヒに育てられ、芯のある男に育っている。
王位継承権としては長男と次男、そしてその子供達を入れると第五位にあたるが、そんなことは問題ではない。
少なくとも現状では後を託す者がいないからと、ミカゲは孫がいるような年齢になっても未だに皇家の当主を続けている。
ミカゲからすれば、タケルは一筋の光明に見えていた。
それにそういった皇家当主としての固い考えだけではなく。
純粋な一人のおじいちゃんとしても、タケルはかわいらしい孫であった。
「これはそろそろ、私も引退の目が見えてきたかもしれぬ……」
「ミカゲ様、それはどういう……」
ズズゥンという強い振動が、言葉を遮る。
その感じたことのないほど大きな横揺れに、思わず皆が地面に膝をつく。
「一体何が……」
その揺れの原因はすぐに判明した。
彼らが待機していたその前方に、ぼこりと大きな山が生まれたからだ。
膨らんだ山は徐々にその形を横に広げていき……そのまま陥没する。
そして盛り上がった地面が再び凹むのと入れ替わるように……三頭の竜が現れる。
「あれが……ヤマタノオロチか!?」
いくつもの頭を潰され、既に三つしか頭がなくなっているが、元の首元は八つ。
傷だらけとはいえ、それは正しく伝承に聞く通りのヤマタノオロチであった。
「相手は手負いぞ、うろたえるな!」
「末代まで語る武勲を作るぞ! うおおおおおおっっっ!!」
自分達には戦う機会がないと思っていた大名達が果敢に挑みかかるが……その攻撃はまったくといっていいほどに通らない。
面白いように返り討ちにあう大名達を尻目に、ミカゲはしっかりとその身を隠していた。
(うちの武士達でもまったくダメージの通らないあの竜の首を……リィンスガヤの機動鎧は半数以上に打ち減らしたの……か)
ミカゲがその事実に驚嘆し、両国との間に広がる軍事的な格差に絶望しかけた時、ヤマタノオロチの行動に変化が起こった。
迎撃もそこそこに、何かに気付いたように急ぎこの場を離れようとしだしたのだ。
ドドドドドッ!!
今度は揺れではなく、大きな音が聞こえてくる。
そしてぽっかりと空いた巨大な穴から、いくつもの機体が迫り出してきた。
その中には先ほどミカゲが思いを馳せていた、タケルの搭乗する機体、シラヌイがあった――。




