海路にて
アキツシマは栄光ある孤立を保っている海洋国家だ。
これだけだとわかりにくいが、簡単に言えばアキツシマという国はなかなか外と関わりを持たない国だ。
周囲を海という天然の要害に囲まれており、わざわざ外国に頼まずとも、自国で食料生産も賄えている。
アキツシマはかつて、一度覇権国家として大陸にまでその版図を広げたことがある。
けれど征夷大将軍の死後その勢いは衰え、各国からの討伐を恐れて国の内側に引きこもった。
結果としてアキツシマは、孤立を選択した。
そして今では海上戦力に特化した軍隊を持つ、侍達の国となっている。
大陸とアキツシマを繋ぐ海洋である東リィン海。
海を渡る船団の中に、トッドの姿はあった。
「久しぶりだなぁ……アキツシマに来るのは」
「そう言えばその時に、ハルトをリィンスガヤに連れてきたんでしたな……なんだか、ずいぶんと前のことのように感じます」
トッドがアキツシマに来たのは、まだ彼が成人になる前のことだ。
昔のことに思いを馳せながら、遠い目をするライエンバッハ。
けれどその優しい顔は、二人に近付いてくる足音を聞くとキリリと引き締まった。
「どうやら船酔いもないようで何よりでございます、トッド殿下」
「船には何回か乗ったことがあるので」
やってきたのは、白髪の髭を腰の辺りまで伸ばした壮年の男性。
その名をハクシと言い、今回リィンスガヤとの国交を担当する公家―リィンスガヤにおける貴族のようなもの―の人間だ。
「今回は我々リィンスガヤの人間を快く受け入れてくれたこと、感謝致します」
「いえいえ、むしろ対応が遅すぎたことを詫びたいくらいです。アキツシマの人間はどうにもことなかれ主義でして……」
(……なんだか前世の記憶が、頭をちらつくなぁ)
苦笑するトッドを見て『はて?』と首を傾げるハクシと、談笑をする。
どういう選択肢を選ぶにせよ、彼とは友好関係を結んでおく必要がある。
ハクシはタケルの母であるミヤヒの生家である、リョウヅ家の関係者だ。
今回の表向きは、トッドとタケルの表敬訪問であるため、親戚筋である彼が充てられたのだろう。
その身元は確かであり、リョウヅ家は二百年以上続く名門中の名門。
水先案内人だけでなく、アキツシマの道中も色々と便宜を図ってもらう予定であった。
今回トッドがやらなければいけないことは単純明快。
封印が解かれ、暴れ回ることになるヤマタノオロチを、取り揃えた最新機体と優秀な機動師達で倒す。
アキツシマへの内政干渉や機動鎧のお披露目というのはあくまでも外向けの理由に過ぎない。
極論を言えば、ヤマタノオロチによるアキツシマの被害を防げさえすれば、後は全て失敗に終わっても構わないのだ。
「同行者と荷物が多くてすみません」
「いえいえ、王子が二人ともなれば、色々と入り用になるでしょうから」
今回、トッドは自分に持ってこれる最大限の戦力をここに持ってきている。
少数精鋭で挑むために持ってきた機動鎧は最小限だが、それでも相当に多い。
ちなみにローズもタケルのお手伝いという名目で連れてきていた。
さっき様子を見に行くと、二人は取っ組み合いの喧嘩をしていた。
あそこは仲がいいのか悪いのか、いまいちわかりづらい。
「しかしまさかアキツシマ出身の部下をお持ちとは……話を聞いた時は驚きましたよ」
ハクシの視線は、大量の荷物を載せているコンテナと、その隣にいるひょろ長い研究着の男――ハルトに注がれていた。
機動鎧を完成した状態で持ち込むことは、流石にできない。
なので機動鎧は部品ごとにパーツをバラしてあり、現地で再び組み直す計画になっている。
片時も目を離したくないのか、それとも盗人を警戒しているのか、ハルトは船に乗ってからというもの、パーツの入ったコンテナ群の側を離れようとしない。
今もハルトはゲロゲロと海に吐瀉物をこぼしながらも、コンテナをひしっと掴んでいた。
(ハルトはアキツシマ出身なのに海に弱いのか……)
ガタリ、と船が揺れたかと思うと、船体が小さく震えた。
遠くから聞こえてくる船乗り達の声。
どうやら海の魔物が出たらしく、船員達が慌ただしく迎撃に向かう。
「トッド殿下、どうぞこちらへ」
ハクシを見るとどうやら余裕そうだ。どうやら魔物の襲撃自体は、わりとよくあることらしい。
トッドは生きた海の魔物を、まだ見たことがない。
興味が湧いたので、ハクシの言葉に従い少し離れたところから海の魔物との戦いを観戦することにした。
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