vsライエンバッハ 4
剣が舞う。
地面が抉れ、小規模ないくつものクレーターを生み出しては、また新たな踏み込みがその後を消し去っていく。
ステージは既に完全に崩壊しており、壊れている壇上で壊れかけの二機を使いながら、未だ二人は戦い続けている。
「はははっ……」
向かってくるトッドを見つめながら、ライエンバッハは笑っていた。
疲れは溜まり、腕が重い。
既に肩で息をしているほど強い疲労を感じているが、それでも身体を動かす。
何故なら――楽しくて楽しくてたまらないからだ。
「おおおおおおおっっっ!」
迫ってくるムラクモ。
その鬼気迫る様子は、普段の様子とは似ても似つかない。
相手の一撃を、こちらの一撃とぶつけ合う。
剣で殴る、剣で壊す、剣で受ける、剣で突く。
刀剣というより鈍器のような使い方をしながら、攻防を共に剣で行う。
攻撃をすれば、直ぐさま小気味よい反応が返ってくる。
フェイントを入れれば一瞬の硬直の後に、自分の狙いを読まれ本命の攻撃を逸らされる。
心地良い。
何かを一つ間違えれば大怪我をするほどの激しい戦いの中で、ライエンバッハの胸中に満ちるのは不思議なほどに穏やかな気持ちだった。
剣を振り続けることは、ライエンバッハにとって日常のこと。
一日に三食の飯を食べるように、夜になれば朝まで眠るように、それが当然のこととして彼は己の人生を剣に捧げてきた。
だが今、かつてないほどに剣を振ることが楽しいと感じていた。
剣を振る。
グリップを握り、剣を落とし、腕の力で上げる。
何度も繰り返してきたことだ。
数万、数十万、数えるのも馬鹿らしいほどに繰り返してきたこと。
けれどその動作の一つ一つに、かつてないほどに身が入る。
剣がぶつかり合って火花を散らす度、お互いの機体にまた新たな傷がつく度、ライエンバッハの笑みは深くなっていく。
(殿下……)
今まで幾度となく繰り返してきた模擬戦。
ある時は生身の状態で、またある時は機動鎧を着用し、トッドとは何度も戦ってきた。
(強く、なりましたな……)
その結果で最も多いのは、トッドの負け。そして次いで引き分け。
最終的には試合のほとんどが決着がつかず引き分けに終わるようになってしまっていたが、トッドは未だ一度として、ライエンバッハに勝ったことはない。
これが始めての黒星になるかもしれない。
ライエンバッハにそう思わせるほどに、今この瞬間のトッドは強かった。
だが当然ながら、タダで負けてやるつもりもない。
強ければ強いほどそれに張り合いたくなるのが、男という生き物だからだ。
「あははははっ!」
「はははははっ!」
真剣な試合の最中にもかかわらず、二人は笑いながらお互いの全てをぶつけ合う。
勝ち負けではない、けれど大切な何かが、今二人の間にあるような気がした。
ライエンバッハの一撃が、トッドの機動鎧の右腕を吹き飛ばす。
トッドの一撃が、ライエンバッハの機動鎧の右足を破壊した。
ライエンバッハは即座に、剣をかなぐり捨てる。
トッドもそれに呼応するように、剣を投げ捨てた。
既に満身創痍で、剣を振れる状態にない。
けれど二人はそれでも、戦いを止めようとはしなかった。
「おおっとこれは――ステゴロです! ここに来てのまさかのステゴロ! 会場は大盛り上がりです!」
「ふむ、機動鎧で肉弾戦をすることはあまりないですからねぇ。これは貴重なサンプルが取れそうです」
剣の代わりに拳が武器になる。
体捌きこそしっかりしているが、当然ながら二人に拳闘の心得はない。
二人はただがむしゃらに、相手を殴り、そして蹴る。
ただお互い徐々にコツが掴めてきたため、足をやられたライエンバッハは円を描くように防御中心の戦いを、腕をやられたトッドは足技を絡めながら攻撃中心の戦いをし始める。
先ほどまでとは違い、洗練された技術や妙技などもない、荒々しい殴り合い。
けれど不思議なほどに、観客席からの声は大きくなっていた。
ステゴロに魅力を感じてしまうあたり、観客席にいる騎士団員や貴族達も、ライエンバッハ達の同類に違いない。
一撃ごとに凹み、ひしゃげていく機体。
最終的に、先に限界を迎えたのは――。
「見事です……殿下」
ライエンバッハ操るオニワカであった。
自らを初めて超えられた。
負けたというのに、ライエンバッハの顔はひどく晴れやかで。
トッドの優勝を称える声が、会場から鳴り止むことはなかった――。




