激突
戦いが進んでいく中で、機動鎧の生産を求める声は高まっていった。
準決勝が終わった時点で、既に受注生産の契約を交わした第一騎士団だけではなく、第二騎士団に第三騎士団、そして近衛騎士団に至るまであらゆる騎士達が機動鎧を求めるようになった。
そして面白いことに、騎士だけではなく今まで機動鎧に関わってこなかった魔導師達も、詳しい話を聞かせて欲しいと言ってきていた。
機動鎧に対して懐疑的だった者達の反対の声は、試合が進んでいくごとに減っている。
この機動士トーナメントが進んでいく中で、誰もが感じざるを得なかったのだろう。
――時代が変わったのだ、と。
そんなこんなであちこちから呼び出しを受けたトッドは、ひぃひぃ言いながらも事務処理を全て終えた。
(明日の試合に向けて、雑念は残しておきたくないからね)
久しぶりの、ライエンバッハとの全力の試合。
せっかくなのだから、周囲への配慮や余計な雑音は全て消してしまい、戦いに集中したかったのだ。
煩雑な仕事を終えてから、明日に備えてすぐに部屋に戻る。
頭を使ったからか、ベッドに入ると一瞬で眠ってしまった。
そして次の日。
彼は闘技場のステージの上に立ち、ムラクモに搭乗する。
向かいにいるのは自分の剣の師であり、幼い頃から長い時間を過ごしてきたライエンバッハと、彼が乗るオニワカがある。
「……」
「……」
お互い、言葉は交わさない。
ただジッと相手を見つめ、試合が始まるのを待っていた。
「さあ、試合が進んでいくに連れて盛り上がりをみせていたこの機動士トーナメントもとうとう大詰めです」
「決勝戦はトッド殿下対ライエンバッハ卿……わりと順当なカードですね」
「ハルトさんはどちらが優勢だと思いますか?」
「ムラクモとオニワカは同時期に開発した機体ですから、基本スペックはほとんど同じです。なので差がつくのは中に入っている機動士のスペックということになる」
「とするとライエンバッハ卿が有利だと?」
「若き力のトッド殿下と、円熟味を増すライエンバッハ卿、どちらが有理かはわかりませんねぇ。個人的にはトッド殿下が勝ってくれた方が、予算が増えそうで嬉しいですけど!」
ハルトは相変わらず軽口を叩いていたが、彼に対してブーイングが起こることはなかった。 試合の合間に機動鎧の修理班を主導していたのは彼だ。
彼が並々ならぬ技術で修理を進めるその手腕を見れば、彼の価値はすぐにわかる。
機体に頬ずりをしたりキスをし始めたりと少々……というかかなり気味の悪い言動をするものの、彼の腕は本物だ。
なのでハルトがどんな発言をしても、皆苦い顔をするだけで何も言わなくなっていた。
ちなみに貴族や騎士の中でも目敏い者達の中には、ハルトをヘッドハンティングしようとしている者もいたほどだ。
ハルトから話を聞いたトッドが丁重に断りを入れさせたのは言うまでもない。
「殿下……」
「どうかした、ライ」
「この場を用意していただいたこと、誠に感謝致します」
「……そう?」
機動鎧のすごさを見せつけるためのプロモーションとして思いついた企画だったので、そんなことを言われるとは思っていなかった。
きょとんとするトッドに、ライエンバッハは笑う。
「こういう場所でもない限り、殿下と本気で戦える機会はそうはございませんので」
「そう、だね」
新機体の性能実験は自分で試すが、トッドが機動鎧に乗る機会は一時期と比べれば明らかに減っている。
それに数の少ない機動鎧を下手に壊すわけにもいかないので、二人ともなるべく全力を出さないようにある程度加減して戦闘を行うことが多かった。
けれどこの場所であれば。
機動鎧がどれだけ強いのかを皆に見せつけるこの場所であれば、後先を考えずに全力を出しても許される。
「殿下、あなたの全てを……見せて下さい」
「もちろん。……今日こそは、僕が勝つ」
二人とも、剣を構える。
ライエンバッハも、彼から剣を教わったトッドも、ヴィッツラート流の正眼の構えをして意識を集中させていた。
そして……。
「それでは機動士トーナメント決勝戦――開始ッ!」
戦いの火蓋が、切って落とされる――。




