受け継がれる意思
次の日。
トッドは機動鎧開発のために父から貸し与えられた屋敷――通称研究棟に一人の人物を呼び出していた。
「よくきてくれたね、タケル」
「兄上、お久しぶりです」
「……そうだね、たしかにここ最近は研究棟にこもりっきりだったから、あんまり顔は出せなくて。ごめんね」
「いえ、トッド兄ぃがどれだけ頑張っているか、僕は理解しているつもりですから」
トッドが呼び出したのは弟であるタケル・フン・リィンスガヤ――アキツシマの王位継承権を持つ、リィンスガヤ家の三男だ。
小さい頃は引っ込み思案だった彼も、成長して行くにつれ徐々に大人びてきており、背丈も同年代のアキツシマ人の平均身長と比べるとずいぶん高い。
きっと父であるリィンガルディア四世の血が入っているからだろう……などと考えながら、トッドはついてきてとタケルを先導する。
タケルの方は、ただ呼び出されただけでその目的もよくわかっていない。
けれど基本的に母であるミヤヒと一緒に離宮に住んでいるタケルは、滅多なことで外に出ることがない。
今回の外出もかなり久しぶりなので、未だ好奇心旺盛な少年であるタケルはあらゆるものに興味津々な様子だった。
タケルは不思議そうな顔をしながら、キョロキョロとあたりを見渡す。
彼の視線の先には、月ごとに予算と人員が増えていく中で潤沢になっていく屋敷を統括するレンゲの姿があった。
「トッド兄さん、あれはいったい何をしてるんですか?」
「魔物の筋繊維を解して、機動鎧に使えるような形に編み上げ直してるんだ。冶金はドワーフの方が上手いから、外装は完全に外注にしてしまって、内側の魔物素材やコックピット部分なんかの開発をしてる最中だね」
「へぇ~」
タケルが見つめる先には、梃子のような器械を必死になって回している研究員達と、それをハラハラとした顔で見つめている魔法使い達の姿があった。
レンゲはその後ろの方で真面目な顔をしていて、ハルトの姿はここにはない。
「ここの責任者はハルトじゃないんですよね」
「うん、彼はある程度好きなようにさせるのが、一番持ち味を発揮できるからね」
一応、機動鎧開発における総責任者はレンゲということになっている。
ちなみにその理由は、ハルトはそういった責任ある立場に行くことを何より嫌うため。
そもそもハルトは、上に立つ責任者には致命的なまでに向いていない。
彼に研究の全てを任せれば、恐らくはトッドの考えや国としての意向などは二の次にして、自分のアイデアを実現させるために予算を注ぎ込んでしまうだろう。
そういうところできっちりと公私をわけられるレンゲが適任なのだ。
「トッド様、お疲れ様です」
「うん、準備はできてる?」
「はい、ハルトさんが珍しく張り切ってたので、できすぎるくらいにできてると思いますよ」
「そ、それはちょっと怖いな……あんまりピーキーなものにはしてほしくないんだけど……」
タケルは二人の会話の意味はよくわからなかったので、ただ機動鎧ができるまでの行程に見入っていた。
魔物の素材が、色々な器械によって引き伸ばされたり押しつぶされたりしながらその形を変えていく。
強度を高めるためか、行程の最中に何度も何度も魔法をかけられていた。
それはまるで、何もないところからあらゆるものを生み出す、おとぎ話に出てくる魔法のようだった。
キラキラと目を輝かせているタケルを見て、トッドはうんうんと頷く。
(自分もこういう時期があったあった。男の子ってどうして、超合金とかロボットとか大好きなんだろうね)
トッドはまだ見たいまだ見たいと珍しくお願いしてくるタケルに付き合い、ゆっくりと目当ての場所へと歩いていく――。
「あ、どうもぉ、トッド殿下にタケル殿下。お待ちしておりましたよ」
研究棟の奥まで進んでいくと、待っていたのはニヤニヤとだらしない笑みを浮かべているハルトだった。
彼の後ろにはある空間には、真っ白い何かが置かれていた。
何かの上に、純白の布がかけられている。
布の上からでも、そのシルエットはゴツゴツとしているのがわかる。
「ちゃんと用意はできたかい?」
「ええもちろん、万事卒がなくできてますよぉ。さあさあそれじゃ――生まれ変わったその勇姿を、とくとご覧あれっ!」
ハルトが紐を引っ張ると、白い布がバサッと音を立てて取れる。
その中から飛び出してきたのは――新たに白に染め上げられなおした、シラヌイだった。
それを見て呆けた様子のタケルの背中を、ポンと叩く。
「タケル、君には僕のこのシラヌイを受け継いでほしいんだ」
「これを……僕に……?」
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