表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/92

トティラvsライエンバッハ


 二人の剣がぶつかり合い、反発する。

 けれどまるで二振りの剣の間に引力でも発生しているかのように、再びそれは引き寄せ合い、相手に己をぶつけ合う。


「ヒョオッ!」


 トティラの剣を、なんと形容すれば良いのか。


 荒々しい剣、という言い方でも間違っていない。

 だがそれだけでは、彼の剣の本質を言い表せてはいなかった。

 

 正確な言い方をするのなら――トティラの剣は、獣の剣。

 肉食獣が獲物目掛けて牙を突き立てるような、野生的で荒削りで、相手の命を刈り取るための剣だった。


「ッッシャオッ!」


 そこには術理はない。

 ただ剣を、振り下ろす。

 否、その表現ではその荒々しさと野性的な様子を表現することはできない。


 上から下へと、急速に落とす。

 空気を割るように、獲物を裂くように。


 独特の呼吸法で繰り出されるその攻撃は、攻撃の始点と斬撃の伸び具合が独特なため、読みづらい。

 自然とライエンバッハの方は、防戦を強いられる形になる。


「ふむ、ふむふむ……」


 ライエンバッハは片目をつむりながら、思案げな様子でジッと耐えている。


 彼が修めている剣術は、ヴィッツラート流というリィンスガヤ王国で正式採用されている流派だ。


 剣を正眼、もしくは平正眼に構えるところからスタートし、攻防どちらにも転じることができるよう、そして相手の連続した攻撃にも耐えられるよう、技の終わりと次の技の起こりが、自然に繋げられるようになっているものが多い。


 ライエンバッハは獣のように荒れ狂うトティラの剣を、しなやかな柳のように受ける。

 防御を強いられ、連続して相手の体重の乗った攻撃を受け続けるのは、既に身体能力も下り坂に入った彼には厳しいはずだ。


 けれどわずかに汗を掻きながらも、ライエンバッハはその猛攻を凌いでいた。


「その独特の呼吸法……蛮族――失敬、山の民にはそのような一気呵成に攻め立てる技があることは知っている。そして、その弱点も」

「シッ、シッ、シッ」


 攻撃動作の一つ一つに区切りを付けるかのような、細かい呼吸。

 ライエンバッハの言葉に答える様子はなく、トティラはただひたすらに連撃を重ねる。


 そこに流派はない。

 だがその中には、トティラが実戦の中で磨き上げた芯のようなものがあった。


 トティラの放つ、下からの突き上げ。

 ライエンバッハは平正眼に構えた姿勢から、互いの剣をぶつけるために剣をわずかに下げる。


 トティラはそれを見て取ると同時に、即座に攻撃を取りやめて強引な制動で剣の軌道を曲げてから、技を突きから横薙ぎへと咄嗟に変更させる。


 フェイントでもない全力の一撃を、突然軌道修正する。

 そのやり方は強引で、にもかかわらずどういうわけか自然だった。


 通常の剣術であれば、技を繋ぐ。


 例えば突きを避けられるとなった場合、技を途中で繋げられるような別の技へと切り替える。


 突きであればそのまま剣を斜め前に出してから横薙ぎ、或いはその勢いをつけながら身体を捻って振り下ろし、といったような形で。


 トティラにはその繋ぎがない。

 本来ならばぶつ切りとなるため大きな隙ができるはずだ。

 しかし彼にはそれがなかった。


「フシュウゥッ!」


 本来の人間であれば呼吸を行い作る間を、独特な呼吸法によって削り。

 技を止め別の技を始動させるタイミングを、己の勘で最適化させているからだ。


 そのためトティラの放つ剣はなんら術理のない、体系化されていない獣の剣であるにもかかわらず、驚くほどに隙が少ない。

 これは彼が今まで行ってきた一騎打ちによって磨き上げてきた、彼だけの技術だった。


 他の山の民達が、まったく手が出なかったのがその証拠だ。


 しかしそれでも、ライエンバッハはそれを捌いてみせる。

 彼は一切攻撃しようとせず、ただ待ちに徹していた。


 ライエンバッハが待っているものがなんなのか、観戦している者達はすぐに気付いた。


「――プハッ! ふううっー……」


 トティラの長い呼吸が終わり、彼の呼吸法に陰りが生じる瞬間。

 ライエンバッハはすかさず攻撃に転じる。


 突く、そしてかわされればすぐに引き、再度突いて二段突き。

 剣を振り上げ、ピタリと止めるフェイント。力を乗せ、中空からの袈裟懸け。


 ライエンバッハはトティラが再び呼吸を整えて猛攻を始めるだけの余裕を、決して与えなかった。

 自然に技が繋がり、休む間もない連撃を放つ彼の表情には、どこか余裕がある。


「攻めの剣というのは、崩されれば途端に脆くなる。崩すタイミングを間違えなければ、攻めの対価に弱まっている守りを衝いてやればいい」


 ライエンバッハも攻め立てているのだが、それはトティラとは違い猛攻という印象は抱かせなかった。


 ただ、至って自然な形で、まるであらゆる無駄をそぎ落としたかのように、技が連綿と続いていくのだ。


 彼の攻撃にトティラは終始防戦一方となり……そして最後には、その首に剣を突きつけられた。


「降参、俺の負けだ」

「なかなかだった、もう五年も経てば私も耐えきれなかっただろう」


 そして模擬戦はライエンバッハの勝利となり、周囲からは拍手が沸き起こった。


 トッドをあなどる風潮などもなく、つい先ほどまでトティラを憎んでいたはずの山の民達は、健闘を称えたのだった――。


【しんこからのお願い】


この小説を読んで


「面白い!」

「続きが気になる!」

「二人ともよくやった!」


と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!


あなたの応援が、しんこの更新の原動力になります!

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ