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男たちが車で走り去ると、「方法論は違うけど、互いのすべきことをするんだ。悔いは同じなのだから」そう言葉を残して、智也は姿を消した。

 もっともだ。私は礼を言いツリーの所へ急いだ。待ち合わせのメールは九時、約束の時間を三十分もすぎている。友里がいてくれることだけを望んで走った。

 どうかすると待っていない可能性もある。それは決して私を軽視しているからではなく、負い目から自信を失くしているのだ。

 交差点を曲がってツリーまでもう少しの場所にくると、行く手を遮るかのよう粉雪がぼたん雪に変わった。あきらめて駅へ行っていないことを願い、雪に足を取られながら急いだ。

 ツリーの下に一枚の影絵を連想させる友里が立っていた。三年前と同じ服装だ。

 私に気づくと、「顔を、どうしたの?」と擦ってくる。

「もしかして彼の仕業……」

「断言できないけど、おそらくね」

 私は続けた。「そのことも含めて、どうしても君に伝えなくてはいけないことがある」

 友里が指を離し、目線を雪の降り積もる舗道へ落とす。

「知ってるのね」

「知っても気持ちは変わらない」私は友里の袖を掴んだ。「もう、君をを失いたくないんだ」

 逃げて得られるものは悔いだけ。そんなものは辟易している。

 しかしいくらそう思ったところで、この大きな流れが変わらないことも知っている。列車事故が起きて友里と義兄が死ぬのは普遍なのだ。

 ならば運命は、何をさせたくて私と智也をここへ運んできたのか。

 きっと変えるためだ。事実、真相が解明されて私は変わった。

「聞いてくれ、友里」

 私は友里の細い肩に手を乗せた。

  

「じゃ、わたしは死んだの?」

 友里がしゃがみ込んだ。両手で耳を押さえて声を引き絞った。「そしてこれから、また死ぬのね」

 ぼたん雪が、友里の髪に払いきれないほど積もっていく。

「別の世界ではそうだったかもしれないけど、この世界がそうなるとは限らない」

「でも、定められた運命というのは一つなのでしょ。変わらないんだよね」

 雪が激しさを増した。

「そんなことはない」

 私は舗道に膝をつき、友里の目線に合わせた。「君を助けるために、私は、ここへ導かれてきたのだと思う」

「えっ、その言葉……?」

 友里が雪の中に沈ませていた瞳を開く。「なぜか、とても懐かしいような気がする」

「言うのは、初めてだけど」

「そうだよね。でもわたし、ずっと思っていたの。よくわからないけど、最後には太一が必ずわたしを救ってくれるって……」

 それはずっと思っていた。でも、友里を救うことだけが目的でないはずだ。私は都会に長く暮らすことによって、大切な友情をどこかへ置き去りにしてきた。もちろん友里を守ることが最も大切なことだけれど、その前に智也を救わなければいけない。どんなことをしてでも智也の殺人を阻止しなくてはならないのだ。

 今すぐ電車に乗れば人も多いし、最前列に並ばない確率も高い。最前列に並ばないことで危機を回避できるだろう。しかし、ほんとうにそれでいいのだろうか。

 私は迷った。一方を守るために、もう一方を見放してしまうなんて絶対にしたくなかった。

「友里」と、名を呼び見つめた。「私を信じてくれるかい」

「友だちが心配なのね」友里が見つめ返してくる。「そうしようよ」

       

 二人して、路地の陰から駅前の様子を窺った。雪のカーテン越しに、ときおり革ジャン姿の智也が見え隠れする。しかし義兄が現れないので苛立ちが滲み出ている。

 とうとう零時を回った。依然義兄は姿を現さない。智也の姿もなくなった。いっとき強まった雪も弱まり、やみかけている。

「もう、いいだろう。そろそろ行こうか。君が決断したから、運命が変わったかもしれない」

「ううん。太一がわたしを見限らなかったから、きっと好転したんだと思う」

 私たちは、互いの話すことが気休めにしかならないことを知りつつ、駅の中へ入っていった。いくら何でも潮時というものがある。


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