二
「やっぱり遅かったですね、圭亮さん」
「うっせーんだけど」
「そんなこと言っても、負け惜しみにしか聞こえませんよ」
志人は挑発するような笑みを浮かべたまま、ごろりと寝そべった。
飼っている黒猫が、彼にすり寄って甘え声をあげた。
網の先からぽたりと雫が落ちて、風呂上がりだという事を示している。
「ねー、圭亮さん」
「何だよ」
「暮葉と夏樹ですけど、何の任務ですか?」
「えー…首相の警護」
「ああ…」
面倒ですねえ、と呟いた。
確かに面倒だとは思う。
警護関係は、二番隊の仕事なのに、どうして一番隊がやっているのか。
二番隊長の由那が言うには、隊士全員が風邪を引いたという事らしい。
ばかみたいだ。
彼らは生まじめで、手を抜く事を知らない。
だからあんなことになるのだ。
「真面目なのが一番いいんですよ?」
「人の考えてる事読むな」
「読んでません。なんとなくわかるじゃないですか、圭亮さんは単純ですし」
「うるせえ」
「あ、帰ってきたみたいですよ」
志人は話を逸らし、玄関を見やった。
バンッと大きな音を立てて、扉が開き二人の女が入ってきた。
「ただいまー」
「腹減ったあっ!」
「おかえりなさーい」
志人はニコニコと笑いながら言った。
無造作に伸ばした黒髪と、左目に眼帯をした女が、不意にバタリと倒れる。
茶色味がかった短い髪の女が、しゃがみ込んで引っ張り起こした。
「えー何?暮葉お腹すいたんですか?」
「お腹もすいたけど、疲れたみたい」
「何でだ」
「首相!」
暮葉はガバッと起き上がって、うええ…と変な声を出した。