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番犬  作者: 水京香
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「おい、志人(ゆきと)。仕事だ」


黒い長髪を無造作に束ねた男が、電話を切ってから言った。

志人、と呼ばれた栗色の髪の青年は、せんべいをくわえたまま、ゆっくりと振り向いた。

膝に黒猫を乗せている。


「またですかー」


間延びした声でそう言って、また首をもとの位置に戻した。

目の前の窓の外は、景色がいいとは言い難い。

青々とした稲が伸びていて、初夏の太陽がじりじりとアスファルトを熱している。


「なんかもー、圭亮(けいすけ)さん、仕事熱心ですよねえ。暮葉に頼めばいいじゃないですか」

「あいつとかきは他の仕事だ」

「かきじゃ無いですよ、夏樹(なつき)です」

「どっちでも同じだ」

「ふふ、圭さんは大雑把ですねえ」


志人は笑って立ち上がり、刀をもった。

猫が足に顔を擦りつける。

風が二人の髪をなびかせ、渦巻いて乱した。

圭亮が、ちろりと赤い舌をのぞかせた。


「行くぞ」

「ええ」



三、四人の男は覆面で顔を隠していた。

時代劇みたいだなあ、と志人はぼんやり思う。

自分が持っているのは日本刀なのだし…。と言っても、洋装では意味も無いか。

無言で、ゆっくりと銃を向ける男たちに、圭亮が溜息をつくのが聞こえた。

彼は狙いを定め、引き金を引いた。

志人も鯉口を切る。


ぽしゅぽしゅ、と炭酸の抜けたコーラのような音がした。

男たちの体に、弾丸が撃ち込まれた。

血が飛び散って、彼らの体が跳ねる。

地面に叩きつけられたとき、彼らはすでに絶命していた。

圭亮は、返り血を苦い顔で見つめた。

江戸時代ではあるまいし、名乗るまで待っているとでも思ったのだろうか。

あいにく、そんな武士道は持ち合わせていない。


「圭亮さん、はやいですねえ」


志人が軽い口調で言った。

返り血を擦っていた圭亮も、仕方なく微笑する。


「あれだけたいそうなこと言って、これだけですか?」

「そういうな、志人」

「でも、これじゃ移動時間の方が長いや。それに僕は要らなかったみたいですし」

「そうだな」

「じゃあ、これどうするんですか?」

「ほっとけよ」

「あーあ、可哀そうだなあ」

「うるせえ」


志人は死体に手を合わせてから、長い指笛を吹いた。

圭亮は嫌そうな顔で言った。


「またそれかよ」

「それとか言わないで下さい」

「時間かかんねえか?」

「僕、ちょっとぐらいストレス発散しないと」

「ストレスなんて言葉から一番遠い人間だろ、お前」

「失礼ですねえ」

「車は?」

「圭亮さんのってってくださいよ。僕は、」


言いかけたところで、栗毛の馬が走ってくるのが見えた。

徐々にスピードをおとし、志人の前で鼻を鳴らす。


「何時代だよ、まんま江戸じゃねえか。大名気取りかコノヤロー」

「僕の趣味です。圭亮さんとは違い、馬に乗れますから」


志人は馬に飛び乗り、涼しげな顔で笑った。

圭亮は不愉快だ、と呟く。


「それじゃ。早くしないと僕が先に着きますよ?」

「途中で落馬して、骨折れて帰ってくんな」

「そっちも事故しないようにして下さいね」


言って、馬首をめぐらせた。

コンクリートの道路を、軽快な音を響かせてかけていく。

馬の足を痛めるだろ、と思うけれど、関係ないのかもしれない。

圭亮は煙草をくわえ、車に乗り込んだ。

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