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銀の翼を天使と呼んだ  作者: 早藤 尚
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そしてふたりはまた出会う④

 人間と異なる種族、とは果たして如何様な存在か。サリエリは考える。

 忠誠を誓う陛下曰く、「神話あるいは伝承に謳われるモノ」であるらしい。

 口達者な宰相曰く、「身体的に異なる構造をした生物」であると言う。

 鋭く(はし)る槍の切っ先を剣の刀身で受け流して、サリエリは間近に迫った相手のみぞおちめがけて肘鉄を叩き込んだ。


「ぐっ……!」


 痛みに歪むその顔その姿は人間となんら変わりなく、神話伝承に謳われるモノにも見えなければ、ましてや身体的構造が異なるなどとは塵とも感じられなかった。


「くっそ!」


 素直な感情の発露も同様に。

 サリエリに得物を向けるその少年は、十代後半の見た目通り、何もかもが青く若々しい反応だった。もしかすると同年代の人間の少年の方が落ち着きがあるかもしれない。

 人間にしか見えない天使はよろける寸前で踏み留まり、改めてサリエリを見据えた。強く、そして真っすぐな眼差しだ。(ゆえ)にやはり、若い、と思う。

 少年が口を開く。


「おい! 名乗れよ!」

「……そちらから名乗るのが礼儀では?」

「そうだけど! 俺だけ名乗るなんてイヤだからな、おっさんが先に名乗れよ」


 ふん、と肩をいからせて少年は唇を尖らせた。

 異種族だろう、とは理解していてもその様子はあまりに()()で、子どもを相手にしている感覚にとらわれる。

 サリエリは構えを解かぬまま、


「アルバルティ・サリエリだ。国王陛下直属の護衛隊の長を任されている」


 とだけ短く名乗った。


「王? あーなんか言ってたっけ」


 軽い調子で頷く少年の隣にさっと白い人影が並ぶ。見間違えようもない、隣国の宿屋で翼を広げていた青年だ。人間には決して持ち得ない両翼。紛うことなき異種族。

 しかしその容姿は、こちらもまた人間と言われても納得してしまうほどに、()()だった。強いて挙げるならば、どちらも近辺ではあまり見ない髪色である、くらいだろうか。だがその程度ならば人間のなかにも数多(あまた)存在する。服装も、天牢に捕獲した天使こそ奇抜ではあったが、目の前のふたりは辺境の民族衣装とでも表されれば疑いもなく受け入れてしまえる範囲の差異だ。


「見ただろう、向こうで」


 銀髪の白い天使が少年に言う。


「うっせーな、あんま聞いてなかっただけだっつの。とりあえずアレだ、コウキを捕まえてる悪い奴だろ?」


 つっけんどんに答えるのはいの一番にサリエリへ武器を向けてきた少年だ。その両手に携えた槍でこちらを差す様子に緊迫感があまりないせいか、それこそ城へ忍び込んだ問題児達の相手でもしているような気さえしてくる。

 向こう、とはおそらく、彼らが住まう場所、のことだろう。こうして言語が通じるのも調子が狂う一因でもある。

 その言語も、この広い世界、地域が違えば会話すら困難であるのに、こうしていとも容易(たやす)く意思の疎通が出来てしまう。

『人間の言葉は人間にしか通じない』とは、ケーニヒがいつか皮肉めいた声音で口にした台詞だ。サリエリも同感だ。何故ならこの世界に生きる人間以外の生き物、空を舞う鳥類や森に生きる獣達、水棲生物、どんな命も人語を介さない。サリエリ達人間は彼らの言語を「鳴き声」として認識する。言語は同じ種族でしか意味をなさず、こと人間に至っては廃れた言葉や地方独特の訛りがあるせいで人間同士と言えど正確な交流など難しいものであるにもかかわらず。

 サリエリは天使達の言葉が解る。驚くほどすんなりと。


「おいおっさん! じゃなかった、アルバルティ!」

「……」


 耳慣れない呼ばれ方に思わず片目を(すが)める。個人の名で呼ばれるのはいつぶりだろうか。しかし昔を振り返っている暇はない。今は、この戦闘を――ケーニヒからの命令を、遂行することが最優先事項だ。

 枯れ草色の髪をした少年は堂々と胸を張った。


「俺は火神第四使徒、紫鳩(しばと)だ!」


 まるで人間のような見た目、言葉、感情。では人間と何が違うのか? 内心自問せずにはいられない。

 脳裏をよぎったのは、王城のなかで渦を巻く思惑の数々。サリエリが守るべき人物に向けられる、あの視線。


(人間同士、同じ言語を介していてもなお、軋轢が生まれるというのに)


 困ったことに、異種族である天使の方が話が通じそうだ、などと。一瞬でも考えてしまった自分が馬鹿らしい。


(なるべく偏見に満ちた見方はしたくないものだ)


 戒めの息を吐いて、サリエリは突き出される切っ先を真っ向から受け止めた。


               *

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