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銀の翼を天使と呼んだ  作者: 早藤 尚
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そしてふたりは出会う①

「天使」とは、空翔ける翼を背にもつ、地上の守り人。

 人々にひかりをもたらす、神の清き御使いである。


 創世神話に書いてあるのはそんなこと。

 誰もがぼんやり知ってて誰もが忘れてく。

 神様なんて夢見るのはおとぎ話のなかだけ。

 今は誰も、神様なんて、天使なんて信じない。


 ――これはあたしが天使に出会った話。

 そして……



 ***



 まさかこのご時世に見ず知らずの他人を助ける変わり者がいるとは思わなかった。

 あれだけ下卑た笑いをしていた男も、さんざん罵倒してきた男も、いまや仲良く地面で大の字だ。できるなら自分の手でそうしてあげたかったが、ここはひとつさしのべられた親切に感謝をしておこう。


「ありがとう」


 たぶんお人好しだろう変わり者は、「どういたしまして」とか言おうとしたのだと思う。便乗して悪事を働こうとでもしていたのならそれはそれで驚きだけれど、ともかく彼――二十歳頃の男性だった――は、口を開いた。

 どんな言葉だったのかは、わからない。


「そこにいたのか食い逃げ犯! 勘定払えこのやろう!」

「うわ見つかった。逃げるわよ!」


 なにせ魔物のような形相をした食堂のおじちゃんおばちゃんが猛然と走ってきたのだから。

 誰だってあんな顔で追いかけられたら逃げるに決まっている。


「どさくさにまぎれてお饅頭代払わなくてすむと思ったのに。こうなりゃ……ってなんであんた一緒に走ってんの?」


 お人好しな変わり者はなんと一緒に走ってくれていた。そこは普通逃げるところである。もちろんこんなわざわざ巻き込まれるような方向にではなく、彼自身の保身が可能な方向に、である。


「……俺も今それを考えていたところだ」


 解はすぐに返ってきた。


「あ、あっそー……。まあ、さっきあたしを助けたんだから、ここはひとつ共犯ってことでよろしく」


 要は世間知らずなのだ。初対面の他人を助けたり、状況判断に遅れてなしくずしに共犯の罪をかぶせられたり。


「やっぱり俺は食い逃げ犯を助けたのか……」


 その声は比較的落ち着いていて、行動の軽率さとは裏腹にあまり後悔はしていないようだった。淡々と事実の確認を行っている、とでも言うべきか。ただまあ当然、ため息はつかれた。走っているというのに器用なものである。


「そう言わないで。ほら、行きずりの縁もなんとかって言うじゃない。人助け万々歳よ?」

「だいたい、どうして食い逃げなんてやるんだ」


 叱るつもりなのだろうか。ますます珍しい。しかしこちらも好んでこんな事態を招いたわけではない。


「やむにやまれぬ事情に決まってるでしょ」

「金がないのか……」


 当然の解釈を彼はした。やや憐れみの目を向けられた気がしなくもないがここは黙って受けておくとする。

 反論する代わりに少女は呪文を放つ。


「火と水の精霊よ! 我が手にちからを! ライティングボール!」


 皓々たる光の暴力は追いかけてくるおじちゃんおばちゃんの目を奪うに充分すぎる明るさだった。


「よし」


 少女は足を止めずさらに駆け出すわけだが、やはり隣には変わり者の彼が一緒に走っていて。

 少女はさすがに戸惑うものの、すぐに思い直した。ついてくるのなら利用しよう、と。


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