第九話 襲撃
地を駆ける。今はラン三世に乗りながら王都に向かう途中である。街道があるおかげでとても走りやすい。ラン三世の機嫌もすこぶるよさそうだ。
風にたなびく髪を押さえつけながら、後ろを振り返ってみれば同じように疾走している三頭の馬が。その中の一頭はうちの馬だが、残り二頭は村のものだ。厳正なる抽選の結果、二人の青年が選ばれて王都について行くことになっている。
なお、アッシュ君は意気揚々と真っ先にくじを引いたが外れていた。
そうして後ろを見ていると真後ろのディアから言葉が飛んでくる。コイツ、自分一人じゃ馬に乗れないから俺の後ろで便乗してるわけだ。
「……お父さん、ちゃんと前を見て。危ない。」
「ラン三世ならこのくらい問題ないさ。もっと危険なとこを走ったこともあるからな。」
「ブルルン!(余裕だよ! の意)」
まあ、魔物に襲われながら魔法が飛び交う戦場の中を突っ切ったこともあるし。地形にしても山を越えたり谷を飛び越えたり、色々してるから。
「むしろポニ太の方が心配なんだよな。お前らアイツに全然乗らないもんだから。」
ポニ太は七年前くらいに買った馬だ。フェマは結構活発に育ってたし、そのうち使うこともあると思ってクルトンに仔馬を用意してもらった。
けど、結局遠出する機会もほとんどなく。最近じゃ人を乗せてるところを見るより、黒ウサギを乗せてるところの方を目撃することの方が多い。
「前を、見る!」
首をつかまれて無理矢理前を向かされる。
俺としては全然問題ないんだがインドア系のディアには厳しかったか。よくよく見てれば手も震えてるし声も不安がにじんでいる。
「ああ、すまんすまん。安心しろって。俺もラン三世も振り落とすような無茶な走りはしないからよ。」」
「……全然、安心、できないんだけど!」
まあそんなことを言いながら走らせる。何回かは乗ったことのあるフェマも、もう二人もやや危なっかしいがちゃんと着いてこれている。
そのまま全員を気にかけつつ、道を先導しながら進んでく(途中何回も道を間違えそうになって、ディアに呈されたが)
もちろん一日中走らせることはできないので(厳密に言えばできなくはないが、さすがに馬の方に負荷がかかる)、途中で何回も休憩をはさむことになる。
実はこういうタイミングこそ一番気をつけなけらばならない。馬に乗っている間は大抵の魔物は襲ってこないし盗賊もそうは手出しできない。なんせ走ってる馬には追いつくだけででも一苦労だし、下手すればそのままひき殺されかねない。
それに、馬に乗ってると体力を消耗するのもあって休憩のタイミングは気が緩みがちだ。さすがにこんなみすぼらしい一団を襲う盗賊なんてのはいないだろうが、魔物に対しての警戒は強めなければならない。
何回目の休憩だっだろうか。研ぎ澄ませていた五感に反応があった。どうやら群れでお出ましらしい。
無駄だろうとは思いつつも殺気を叩きつける。一応、付与魔法を全開で使えばギリギリBランクくらいの強さはある。これにビビって逃げ出してくれればいいんだが……。
ダメか。群れをつくってる魔物は実力差があっても突っ掛かってくる可能性が高い。もちろん実力差が大きい場合にはその限りではないが、一ランク差、二ランク差程度であれば無視してくる。
そのことを考えると襲おうとしている魔物はDランク、下手すればCランクかもしれない。とてもじゃないが、気を抜ける相手じゃない。
「みんな、戦闘準備だ。魔物が来る。」
「うおっ、マジか。」
「うおーあぶねー。ヤンさんいる時で良かったー。」
「どこ、どこ? どこにいるのよお父さん!」
と、いうのに。やけに気の抜けた声をあげながら準備する二人。フェマにいたっては剣を抜いて今にも突撃しそうな勢いだ。
そのとき、茂みの中から狼型の魔物が飛び出して来る。黒い毛皮に白いまだら模様、モノガルルか。Dランクの中でも平均的強さの魔物だが、群れの規模が大きくなることもあり規模によってはCランク扱いされることもある。
幸い、今回の群れはそこまで大きなものではないし、支障はなさそうだ。
飛び出してきたモノガルルに目を戻せば、すでにフェマによって切り捨てられた後だった。
「うーん、ただの狼かー。つまんなーい!」
「油断するな。結構な数はいるぞ。」
「どうせ私の敵じゃないしー。」
……まあ一匹だけじゃ、すでにCランク近い強さを持ってるフェマの敵ではないわな。
「や、ヤンさん! 俺たちも戦うぞ! だからアレ頼む!」
「おう! 俺たちでもヤンさんが助けてくれれば戦えらぁ!」
「わかった。お前たちはフェマのフォロー頼む。このままじゃ群れの真ん中に突っ込んで行きそうだ。」
俺も付与魔法を使って全員を強化する。まあ大体ではあるが、そこらへんの一般人でもCランク冒険者並には強化できる。相手もCランクだった場合は少し不安だったが、モノガルル相手ならそう後れを取ることはないだろう。
ダメ押しとばかりに相手の群れ全体に弱体化を付与する。こっちは上昇分ほどの効果はないが、それでも十分すぎるほどだ。
その数分後、被害ゼロで討伐は完了するのであった。
……まあそりゃ、こんくらいは強いよねって話。