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第八話 区切り


 魔王。

 SSSスリーエス級のダンジョン、そのラスボスたる存在がそう呼ばれる。


 俺がいたころのパーティーではSシングルエス級の攻略が限界だった。

 一般的にはランクが一つ上がるごとに戦力は十倍必要になる。その強さはまるで次元が違うと感じられるほど。

 かつてSS(ダブルエス級のダンジョンを単独制覇した『破滅の魔女』がその後数十年と語り継がれていることを考えると、魔王の討伐は伝説に語られる叙情詩の数々にも劣るものではない。


 ……もう、アイツら見た俺は路傍の石ころみたいなもんだろう。パーティー結成の時に掲げた目標を成し遂げやがったことを祝いたい気持ちはあるが、もはや会うことも難しい。いや、そもそもどのツラ下げてかつての仲間に会いに行けって話だ。袂を分かったその時から、別々の道を歩み始めたというのに。


「あー、それで勇者様たちの武勇伝はどんな感じなんだ? 知っての通りうちの娘たちはミーハーなもんでいつも話を聞きたがる。」


 本当の気持ちを押し殺したまま問いかける。


「まあまあ、魔王が討伐したという話は聞こえども、英雄たちの帰還はまだなのですよ。どうも魔王討伐の際に大きな怪我を負ったらしくてですね。王都に戻ってくるのは一か月後とかになりそうなんですわ。」


「おい、大きな怪我って……勇者様は大丈夫なのか?」


 不安に駆られて少し踏み込んで尋ねてしまったがそこまで不審がられることはなかった。一応家族以外には俺が勇者パーティーの一員だったことは秘密にしてあるから、そこまで首を突っ込まないようにしていたのだが。


「はは、不安になる気持ちも分かりますわ。ですが致命傷を負った方はいないようですな。


 ……おっとと、それでは商談と行きましょうか。」


 しばらく話を聞いていたが、噂レベルの話しかまだ入ってきていないようだった。だが魔王が討伐されたこと、勇者パーティー三人全員が生還していることは確かのようだった。そのことに安堵している自分がいる。

 ……もう20年もたつ。そろそろ自分の気持ちに区切りを付けた方がいいのかもしれない。


 そんなことを考えながら黙った俺を見て、一区切りついたのかと思ったのかクルトンは本業について切り出してきた。


「取引内容はいつもの通りで構わないですかな? 目新しい本は手に入っておりませんが、今流行りの首飾りを入荷していますよ。」


 いつもなら食料、自作した調味料なんかを売って、塩や香辛料などのここらじゃ手に入らないものを買ってる。あとは娘達用に本だったり装飾品だったりだ。

 俺の付与魔法は農作業にも応用が利くんでそこそこ貯金はあるしな。なんならイリスの家にはお婆様とやらが遺した多額の金銭もあるし。


「……ああ。いや、ちょっと待ってくれ。少し保存食があるのなら都合してほしい。」


「おやおや、どこか遠出でもするので?」


「ああ、ちょっとな。」


 今回はやりたいことがあるから、いつもと少し違うが。



     ◆  ◆  ◆



「王都まで遊びに行くことにした。」


「「「おお~~~!!」」」


 そんなわけで、家に帰ってからフェマとディアに説明をする。


「この村を出るのなんて初めてー! どうしたの、お父さん。いつもなら絶対出かけようとしないのに。『そんなん無駄だー』って毎回毎回言ってたのに! のに!」


「そりゃこっから王都まではラン三世で走っても十日くらいかかるからな。畑仕事しながらホイホイ行ける距離じゃねえんだよ。」


 それに子連れで何日も外にいるのはキツイ。家に残していくのも不安だったし。実際、まだ二人きっりだったころには一度だけ王都まで足を延ばしてる。


「……で、なにがあった? ちゃんと理由も話して。」


「ああ。一か月くらい後に魔王討伐を記念した勇者凱旋の祭りがあるらしい。」


 魔王討伐と聞いたところで子供三人はメッチャはしゃぎだし、祭りと聞いたところではしゃぎっぷりはさらに加速したた。まあまだ勇者とか冒険者にあこがれを持つ年頃だしな。こんな辺鄙な村じゃそこまで娯楽があるわけでもないし。


「あー、いいなー、フェマは。

 俺も行きたいけど、親父が許してくれるか分かんねー!」


「ふふん、お土産は買ってきてあげるから、楽しみに待ってなさい!」


「ええい! 絶対に親父を説得してやるし!」


「……ふふふ。私も出かけるの、楽しみ。」



 明るい雰囲気で待ち遠しそうに盛り上がってるのを見て、もう引き返せないなと静かに苦笑した。


 外を見るといつの間にか雨は止んでいた。夕日が雲を真っ赤に染めていて、不安になるほどに赤い世界が広がっている。だけどどこか、懐かしい気持ちが俺を包んだ。




 

 


冒険者のランクはEランクから始まって、E→D→C→B→A→Sと上がっていきます。

それぞれ駆け出し、中堅、ベテラン、熟練、最高峰、人外といった感じですかね。

一般にはCランクくらいの冒険者でも才能がある方とされてます。Bランクまで行けばエリートみたいな感覚です。


ダンジョンの方は基本的に“同ランクの冒険者六人で探索できる”という目安でランクが付けられています。


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