第二話 これからどうしよう(無計画)
「……さて、ここはどこだ?」
パーティーを追い出されてから三日後。売り言葉に買い言葉というか、出てってやるよとたんかを切ってそのまま飛び出してしまった。そう、荷物を一切持たずに、である。
唯一持ってるものと言えば着ている服と、飛び出してきたときに連れてきた馬だけである。
この馬もパーティーの所有物っちゃあ所有物なんだが、どうしよう。
「どうしようか、ランサン三世(馬の名前である)。」
ラン三世は知るか、俺は疲れたんじゃ、みたいな目をこちらに向けてきた後、木陰で寝始めてしまった。いやまあ、三日間不眠不休で走らせ続けたけどさあ……。
「俺も疲れたな……。でもお腹も減ったし……。いや魔力の方がヤバいわ……。」
なぜかトチ狂って不眠付与の魔法とか興奮付与の魔法とか使い続けてたからなあ。襲ってくる魔物を蹴散らすために能力上昇は全開だったし。立ち止まったのも魔力切れのせいなわけで。
そこからなんとか水場は見つけてその木陰で休んでいるという訳なのだ。ちなみにラン三世は勝手に草を食っていた。
なんだろう、最初は確かにアイツらへの怒りで走ってたけど、途中から変に楽しくなって夢中になってた。眠気でうまく頭が働かないが、途中山の中を突っ切ったり、谷をジャンプで飛び越したり、変な奇声をあげたりしていたような。アレがうわさに聞く深夜テンションという奴なのか……?
などと考えてられていたのもつかの間。俺の意識は不覚眠りの中へと沈んでいった……。
◆ ◆ ◆
誰かに叩かれて目が覚める。すわ誰かが起こしてくれたのか、と思って目を開けると眼前にはラン三世の顔が。いや、お前かよ……。いや、期待してたわけじゃないんだけどさ、通りがかってくれた人が助けてくれてそのままついてくー、みたいなことないかなと思ってたんだけど。
ラン三世は全く手のかかるご主人だぜ、みたいな表情をしてふんすと鳴いた。
「おなか空いたな。なにか食べ物を探しに行くか。」
幸いなことに自然のフィールドで食べる物を探す行為には慣れている。幼いころに山の中を駆け回るのはよくやったし、ダンジョンの中でも自然型フィールドの時はもっぱら探索を任されていた。あいつら、食事が絡むと何故か俺に押し付けてくるからな。
探索中、何度か魔物に襲われることもあったが、バフをかけたラン三世が全部追っ払ってくれた。
「なんも考えてなかったけど、お前と一緒に来れてよかったよ。」
当然だ、という感じでブルルル! と鳴く。まったく頼りになるやつだ。
生で食べられるものはその場でつまみつつ、腹持ちのいいものを選んで取ってるとあることに気づく。
「あれ……? ナベも包丁も、どころか火種すら持ってないのにどう料理しろと……?」
というか、しれっとナイフすら持たずにサバイバル生活は割と詰んでるのでは?
「いや、サバイバルなんてする必要ないんですよ、そうそう。さっさと町とか村とか人がいるところまで行けばいいんですって。」
そう言って、今辿ってきた道を見る。食料を探してるうちに森のだいぶ深いところまで入ってきてしまったことが分かる。というかそもそも、この森がどこなのか分からない。へたをすれば人里まで数日あるかもしれない。
いや、よく考えるんだ。俺は確か町の西門から出てそのまま一直線……たぶん一直線に走ってきたはずだ。もともといた町はだいぶ大きいところだったからその近くには結構小さな村とかあったはず。俺の故郷もその小さな村の一つだしな。……そうだな、こんな機会だし故郷に帰ってみるのもいいかもしれない。
そう、つまり、今向かうべきは……西か‼
食材探しの時、食べれるものを探すのは俺の役割だったが、進路を決めるのはバズの役目だったのを何故か思い出す。迷宮型のダンジョンのマッピングとかも絶対俺にだけはやらせてくれなかったよなぁ。まあ、関係ないことではあるんだが。はは、なんだラン三世、その不安そうな目は。
◆ ◆ ◆
さらに五日がたった。人里につくどころかこの森から出ることすらできていない。
さすがにこれはおかしいのではないかと思い始めてきた。俺の知ってる範囲で直進して五日もかかるほどに広い森は知らない。ひょっとすると、ここは有名な迷いの森という奴なのかもしれないな。それにしては出てくるのは弱い魔物ばっかりだが。
なんだ。なぜそんなにも残念そうな目で俺を見てくるんだ。
しかしそろそろ、果物とか薬草とかで腹をごまかすのも厳しくなってきたぞ。手を出すしかないか……生肉に。
ウサギとかネズミとか殺せて肉になりそうなのはいくつか取ってある。解体もできてないし、刃物が無いから血抜きも満足にできていない。とはいえ生肉に変わりなく。
まあつまり、このまま食べても問題ないんじゃねという話である。
生肉を一つ取り出して顔の前まで持ってくる。さすがに食べるのをためらうような匂いがする気がする。
「いやでも、お肉は腐りかけの方が美味しいし。死ぬことにはならないだろうし。ひょっとしたら美味しいかもしれない。ほら、馬刺しとか食べたことないけど生のお肉ってらしいし。」
何故か言い訳をしながら意を決してそのままパクリと行く。生肉の生臭さが口の中で広がり、何とも言えないもにゅもにゅした感触がする。ぶっちゃけ全然美味しくない。少しは期待を返して欲しい。
ラン三世がお前マジか、みたいな目で見てるのがむしろ印象的だった。
……結論。当然のように腹を壊した。