閑話 やっぱ冒険者って野蛮人(裏)
「お父さんたち、行った?」
「うん、行ったね。」
人生で初めて、街と呼べる場所に来た日の夜のこと。
男どもは私達だけ置いて、飲みに行った。
いつもならもう寝てる時間だから、ベッドに入ってる私達を見て安心したんだろうけど。一声だけかけてどっか行っちゃうのはヒドい。こっちはちょっとドキドキしててまだ眠れそうにないというのに。
それはお姉ちゃんの方も同じようで。
私たちは見つめあうと同時に跳ね起きた。
「「行っちゃう?」」
なんとなく声に出した言葉が、ついかぶってしまった。こういう時双子なんだなって、ちょっと思う。
ちょっとだけ笑って、外出の準備をする。
夜の街の、お散歩だ。
◆ ◆ ◆
夜の冷たい町を、ひっそりと歩く。
こっそり、こっそりと———————。別に悪いことはしてないんだけど、なんだかちょっといけないことをしてる気分。(お父さんの言いつけを破ったと考えれば十分悪いことはしてるんだけど)
だいたい、お父さんはちょっと過保護なのだ。お母さんの代わりをしてくれてるのもあるんだろうけど、私達のすることにいちいち何か言ったりする。
今回だって、王都に来てから「外を勝手に出歩くな」だったり、「路地裏の方には絶対に入るな」だったり……果ては「絶対になんか変なもの食べるんじゃないぞ? 拾い食いとかもってのほかだからな」なんて言って。
まったく、私たちのことを何だと思っているのか。ちょっと小一時間くらい問い詰めてやりたい。
「それでどうするの、お姉ちゃん。このままブラブラするの?」
「何も決めてないからなー。ディアはどうしたい?」
「私的には、あっちの明るい方に行きたい。」
「どして?」
「ここら辺、暗すぎ。ちょっと怖い。」
「そう? これくらいの方が雰囲気あるじゃん?」
「私はお姉ちゃんと違って戦闘力が無いんだから勘弁して……。」
お姉ちゃんはなぜか強い。家系的には私とお母さん、それにお父さんも能力的には後衛だって言ってたから素で強いお姉ちゃんのことは謎だ。
だけどその強さは本物だ。
「ま、私に任せてって。」
などと今も楽天的に言ってるが、そう言えるだけの強さがある。お父さん曰くCランク相当、冒険者で言えば十年以上経験を積んでようやくなれるかといったところ。道中でも出てきた魔物を相手に無双をしてたし。
お姉ちゃんはさっきは頼もしいことを言ってたものの、どうせ目的もない道のり。誘蛾灯に惹かれていく虫のようにフラフラと明るい方を目指して歩いて行った。
近づくと、なぜその周辺が明るいのかが分かった。冒険者ギルドがあるのだ。
中には酒場も併設されているようで、騒ぎ声が聞こえてくる。よく見れば、仕事終わりなのか血に濡れた装備で入っていく者も。あるいは片腕に大けがを負った者もいる。
やはり冒険者というのは並大抵でできる仕事ではないのだろう。よくもまあ、あのやさしいお父さんが冒険者になれたものだ。やはり、子供のころに憧れたからなのだろうか。
そういえば、パーティーに入ってからの冒険話は何回も聞いたことがあるけど、それまでお父さんが何してたとか聞いたことないな。今度聞いてみようかな。
ふと隣を見れば、お姉ちゃんがキラキラとした目で建物を見つめている。
「入りたいの? お姉ちゃん。」
「うーん。興味はある感じ?」
「まあアッシュも次男だし、わざわざ村を出て行くかは分かんないもんね。」
「な、なんでアッシュの名前が出てくるのよ!」
まったくこのお姉ちゃんは……。人生をなめ切っているというか、なまじ才能がある分何しても生きていけるだろうってのが羨ましい。それこそ、自分の生き方を他人に委ねられるほど、ぞっこんなのに。
まあこの話をしてると長引いてしまう。適当にフッと笑って流すことにする。
「まあ興味あるのなら中に入る? 話だけでも聞けるかも。」
まだ、あー、とかうー、とか言ってるお姉ちゃんを押していく。正直、適当に夜の街を歩くよりは生産的だろう。ここまで来るまでで十分堪能できた気もするし。
そんなこんなで私達二人は冒険者の中へと入っていった……。
ちょっと長引きそうなんで、もう一話だけ続きます。