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閑話 二人の帰路


 王都からの帰り道。

 二人きりで馬を駆る。腕の中で体をこわばらせているが、行きの時よりは慣れたようだ。体重をこちらに預けて辺りを見渡す余裕くらいはあるらしい。

 最初はスピードに怯えて、思いっきりこっちにしがみついて震えてたせいで走らせにくかったんだがな。普段は素っ気無い感じにふるまってるから、素直に甘えてくるのは珍しい……


「なにか失礼なことを考えてる顔ですね、旦那様。」


 そんなことを考えてると、体を完全にこちらに預けて腕の中から見上げてくるイリスの顔が視界に飛び込んできた。


「おいっ、ちょ、まっ! バランス崩れるだろ! ちゃんと座ってくれって!」


「なんでですか? 私が落ちないように支えてくれると言ってたじゃないですか。」


「落とさないけどさ! だからって、わざわざ変な体勢を取らないでくれよ! 俺も二人乗りはそこまでやったことないんだから!」


 肩のあたりに頭を乗っけられたせいで手綱がとりづらいが、なんとか姿勢を保ってスピードを緩めてもらう。結局、こいつは姿勢を戻そうとはしなかった。


「それで、何を考えていたのです? 見上げたら何やらにやついた旦那様の顔が見えて私はがっかりです。こう颯爽と走るものだから、さぞ凛々しい顔をしてるのだろうと期待した私の気持ちを返してください。」


「なにを期待してたんだお前は……。」


「やっぱり旦那様に馬は似合わないということでしょうか。最初に会った時も乗ってるというより、乗せられているという感じでしたし。」


「そりゃあ、あんときは死にかけてたしなぁ……。」


 懐かしいな。もう二年前になるのか。

 あれから色々あって、結局旦那様なんて呼ばれる関係になってしまった。もう冒険者稼業には戻れないだろうな、と思う。あの小さな一軒家が俺の帰るべき場所になった。


 幸いに、冒険者として鍛えた魔法は田舎の暮らしにも応用できた。かつて『万能』と呼ばれたのは伊達じゃない。まあ、追放される直前は『一日に三度死ぬ男』って呼ばれることの方が多くなってたが。


 だがいい加減限界だった。服とか女物しかないしさぁ! 作物の種もないとかどうしようもねえ! 道具も傷んでるのがほとんどだし!

 近くの村で都合しようにも、なにやら折り合いが悪すぎて会話することすら難しいし!


 ……近所づきあいはこれからどうにかするとして、早めに生産基盤を整えなければならない。最低限、まともな着替えと農作業に必要な道具、これらとあるもの・・・・だけは手に入れたかった。


 というわけで、村から出て王都へとやってきたわけだ。

 道を何度か間違えながらも20日ほどかけてたどり着いた。そこでまあ、色々あって、目的の物は手に入れた。クルトンっていううちの村まで行商に来てくれる商人もゲットしたしな!



「でも、今はちゃんと走れてるだろ?」


「なら、どうしてニヤニヤしていたのですか?」 


「んっ……。ま、まあイリスも馬に乗るのに慣れたなぁって思ってただけだぞ?」


「ふーん、まあいいですけど。ほとんど外に出たことのない私を引っ張り出した挙句、田舎者だって言ってからかうような旦那様ですもんね。

 馬に乗ったこともなかった私を笑いたければ笑えばいいのですよーだ。」


 そう言って「つーん。」なんて言ってそっぽを向いてしまった。

 言葉にする余裕があるのなら、まだそう怒ってはないと思うが。


「拗ねんなって。」


「拗ねてないですー。」


 そう言って頬を膨らませてる。手が自由に動かせるのなら突っつきたいが、残念ながら手綱を離すわけにもいかぬ。


「というかそもそも、私まで連れてくる必要なかったじゃないですか。王都でやったことなんて買い物してぶらぶらして終わりですよ? 別に旦那様一人でもできることなのに……。

 ハッ! ひょっとして、私の恥ずかしい恰好を見たいがために連れてきたんですか!?」


「そんなわけないだろ。お前が自爆したようなもんなんだから。なんだっけ……『人がっ、人がたくさんいます!? 建物も大きいです!? ここは私の知る世界なんですか!? お婆様が言ってた異世界転移とかいう奴なんですか!?』とか道のど真ん中で大声上げたよな。そのあとは借りてきた猫みたいにおとなしくなるし。」


「からかわないでくださいよ、もう……。」


「ありゃ、あんま効いてないな。」


「考えてみればもう会うこともない人たちばかりですし。もう王都に行くことなんてそうないでしょう?」


「んー。どうだろうな。俺はあと何回でも行きたい気分だが。」


 イリスと二人で歩いて、店を見て買い物して甘いものでも食べて……俺としちゃ楽しい時間だったんだがな。


「イリスは楽しくなかったか? だったら俺も無理にとは言わないが。」


「んん……。ま、まあ悪くはなかったですかね。率先して行きたいとも思いませんが。」


 口ではそう言っているが、その声音はずいぶんと楽しそうだ。

 いつの間にか体を前に向けていて、その表情は見えない。でも、きっと笑顔であふれてるんだろう。


「そっか。

 ……いつか、また行こうな。そん時までには二人乗りの練習しとくからよ。」


「そうですか。じゃあ、当面ここは私の指定席ですね。ふふ、私以外に乗せちゃダメですよ?」



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