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閑話 出来損ないの私


 お婆様はとても厳しい人。

 私はいつも怒られてばかり。

 今もそう。いつもお婆様は私のことを出来損ないって呼ぶ。


「はん。この程度の魔法一発で体が持たなくなる、と。やっぱりあんたは出来損ないだね。」


 今日はお婆様に連れられて森に来ていた。こうやって偶に森に出ては魔物を倒す訓練をする。

 いつも、魔物を倒すところまではうまくいく。よーく狙いをつけてお婆様の言った通りの魔法を撃つ。


 体の先がほつれるような感覚と共に火の玉が手のひらに生まれる。それは狙い通りの軌道を描いて対象に当たり爆発する。


 ちゃんとできました!

 そうお婆様に言えればいいなっていつも思う。だけど、私の体は勝手に崩れ落ちる。力が入らないまま膝をつき、上半身も地面に倒れる……というタイミングでお婆様が支えてくれた。


 そうして言われる上の言葉。

 出来損ない、いつもお婆様は私のことをそう呼ぶけど、お婆様はホントはやさしい。厳しいけど、やさしいの。

 今だって、動けなくなった私をやさしくおんぶしてくれる。口ではいつもひどいことばっかり言うけれど。私を見る目はいつもやさしい。


 そんなお婆様が、私は——————大好きだ。



     ◆  ◆  ◆


 お婆様におんぶされたまま、家へと帰りつく。そのままベッドの上におろされちゃう。

 森に出た時はいつもこうだから、もう慣れっこだ。


 しばらくすると、お婆様はご飯とお薬をもって戻ってくる。まだ力の入らない体を無理に動かして皿を受け取ろうとするけど、お婆様はそんなことはお構いなしにと私の口へとお粥を突っ込む。


「あ、あつ……くない?」


「当然さ。出来損ないでも食べれるように冷ましてきてやったんだから。ふん、出来損ないは出来損ないらしくおとなしくしときな。ほれ口を開ける!」


「ひゃ、ひゃい!」


 そう言って、スプーンを差し出して来るので急いで口の中の物を飲み込んで、あーんと口を開けます。もきゅもきゅと咀嚼してごくりと飲み込みますが、まるで鳥の雛のようにご飯を食べさせられるのは、ちょっと恥ずかしいです。


 最後の一口……というところで、なぜかお婆様にいたずらされました。

 スプーンを差し出してきたと思ったら、私が食べる直前でスイと引いてしまったのです。


 どうしてそんなことをするんですか、という意味も込めて見つめると、お婆様は笑って


「なに、出来損ないが食べるのが可愛くて、ついイタズラしてしまったのさ。」


 と悪びれずに言います。お婆様はやさしいのですが、時々こうしてからかってくるのが玉に瑕です。


 楽しい食事の時間が終わると、お薬の時間です。

 お婆様が作ってくれたお薬はとてもすごくて、すぐに良くなるんですがとてもマズいです。


「どうしてお婆様の作るお粥は美味しいのに、お薬はマズいんでしょう。」


 と、聞けば。


「なに、薬ってのはマズいほど良く効くもんなのさ。ほれ、出来損ないなんだから、口答えせずにさっさと飲む!」


 と言って、さっきみたいに強引に口元に持ってこられてしまいます。

 仕方なく一口、二口と飲むのですが、やっぱり苦みとえぐみが酷くて、すぐには飲めません。いつも何回か休憩をはさみつつ、頑張って飲み切ります。



 満腹だからでしょうか。ご飯を食べるとすぐに眠くなってしまいます。

 トロンとした目つきの私に向かって、お婆様はいつも優しく語り掛けてくれます。今日は昔流行っていたという王子様のお話でした。

 白馬に乗った王子様がお姫様を迎えに来たところで私の意識はより一層深く落ちていきます。


「……ふん、じゃあ今日はここまでだね。」


「やだ、最後まで聞きたいの……。」


「なにちょんと明日また聞かせてあげるんだ。出来損ないはしっかり寝て体を休めな。」


 だけど、お婆様は私が完全に寝付くまで離れません。いつも隣で待っててくれます。

 それで私が寝ちゃうと


「お休み……可愛いイリス。」


 と言って出て行くんです。

 その言葉を聞きたいがためだけに、いつも寝たふりをしてる私です。

 ……まあ大体、素直に寝ちゃうんですけど!







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