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第十五話 二十年ごしの謝罪


 あの後、勇者が行方不明になったという噂は、すぐ王都中に広まった。

 すぐにドンドン尾びれがついて行ったがな。傷がもとで亡くなったとか、勇者を快く思わない貴族から妨害を受けたとか。

 生きているのか、死んでいるのか。それすらも分からない。

 だが生存は絶望的だろう。知らせが一切届かなくなるなんて事態、そう起こるものではない。アイツらが簡単にくたばるような奴じゃないというのは分かっているが、だからと言って決して死なない超人ではないのだから。


 結局、俺にできることは何もなかった。ただ噂に翻弄され、無為に時間を過ごすことしかできなかった。



 そうこうしているうちに家に帰らなければならない日になってしまった。本音を言えば俺だけでも残っていたいんだが、そんなことが許される立場ではもうない。

 出る直前、未練がましくかつて過ごしていた家に一人で寄る。


「情けないよなぁ……。今回こそ、お前らに謝りたかったのに。もう一度でいいから一緒に飯食ってバカ騒ぎして、思う存分一緒の時間を過ごしたかったのに……。

 なあ、俺、娘が二人もできたんだぜ。どいつもこいつも女っ気ないよな、なんて言いあって下世話な話をしてたのにさ。」


 もう話すこともできないのかもしれない、と思うと涙がとめどなくあふれてくる。誰ともなしに言葉を漏らす。言葉が涙と一緒に地面に染み込んでいくような、そんな重く湿った独白。


「ダメだな。生きてほしいって思っちまう。アホなアイズが『魔王倒したし、ちょっくら内緒でバカンス行ってくるわ~!』とか言って行方をくらましたとかだったら良いのにな。」

 

 言っててそれは無いだろ、と思うが。そんな結末で、笑い話になってしまえばどんなにいいだろうか。


「結局、喧嘩別れのまま、終わっちまったのかよ……。俺がもっと早く決心してればよかったんだけどな。謝ることもできないで……。」


 結局、二十年前の関係で終ってしまったのが、嫌で。


「なあ、せめて笑って許してくれよ。怒りにまかせて飛び出しちまった俺のこと。いつになるかは分からないが、俺もそっち行ったら一緒に盃をかわそうぜ。」


 当然、返事はなかった。

 虚空に溶けた言葉が、悲しそうに反響する。自己満足でしかない行為……だけど、これぽっちも心が満たされることはなかった。

 


     ◆  ◆  ◆


 

 王都からの帰路。

 これといった出来事もなくただひたすらに道のりを消化していく。これといったこともなく、気づけば村に着いていた。


 到着と同時に村長から声をかけられる。留守中に何かあったのかと不安に思うと、とんでもないことを言い出してきた。


 ―—————留守中、お主を訪ねてきた者がおってな。今でもまだ待っとるようだぞい。


 その言葉を聞いた途端、弾かれたように飛び出した。

 不安、そしてひょっとしたらという期待。ラン三世に乗ることすら忘れて、自らの足で走る。


 一時間はかかるところを十五分で走り抜ける。息も絶え絶えになりつつたどり着いた家の前。


 そこには。


「よっ。久しぶりだな。魔王倒してきたし、お前に会いたくてここまで来ちまった。

 ……ああ。そうだ。あの時は悪かった。無神経なこと言っちまって……。ずっと謝りたかったんだ。こんな俺でも、許してくれるか?」


 にこりと笑ってそんなことを言う勇者―——————アイズ。

 ちょっと罰が悪そうに、されどいたずらが成功したみたいな無邪気な表情でこっちを見ていた。


これで一章は終わりです。

人物紹介、いくつかの閑話を挟んで、勇者パーティーが勢ぞろいした辺境での暮らしを書いていこうと思います。


ここまで読んでくれた皆様! ホントにありがとうございます! 

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できればでいいので、よろしくお願いします!


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