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第十二話 酔っ払いの夜


 王都内を見て回るのはとても楽しい時間だった。住んでた者として見ればこんなところあったな、みたいな観光スポットにしか行ってないが。

 千年前の伝説に残される聖剣の台座だったもの、とか。

 建国の王のもとで働いたという凄腕の暗殺者が没したところ、とか。

 破滅の魔女がへし折ったらしいオリハルコンのオブジェらしきもの、とか。


 ……その中に今の勇者たちが住んでる場所(つまり俺が十年間暮らした家)があったのには苦笑が漏れてしまったが。しかもそこが一番混んでるとかいうおまけつき。


 つい案内人みたいになってしまっていたが、どこも四人が歓声をあげながら嬉しそうにはしゃぐもんだからつられてこっちも楽しくなってしまった。

 うちだと栄えてる町から遠いからなぁ。誰もが知ってる物語なんかの、語って残されるものが子供たちにとっての大事な娯楽になってる。そのせいか誰も彼もそういう伝説とかそういうたぐいの言葉に弱い。特に娘たちは俺とかつての仲間の冒険譚なんかも聞かせてるから、人一倍興味あるし。


 とはいえ、四人そろって聖剣の絵が描かれた饅頭をもって固まってる姿には笑ってしまった。持って帰って家宝にするって、そんなん腐っちまうだろと。あれだわ、田舎者騙すのはちょろいっていうけどホントだなって実感した。


 ま、明日からは観光よりも買い物メインで回るつもりだからな。俺としてはそっちの方が楽しみだ。クルトンも色々持ってきてはくれるけど、どうしても自分で見たいものもあるし。



    ◆  ◆  ◆



 王都の夜は遅い。噂に聞く不夜の街ほどではないが、飲んだくれたちが集まる通りは深夜までその光が絶えることはない。さすがに旨い酒なんかは自作するのが難しいので、昔も結構利用したもんだ。

 こっちなら色々種類も豊富だしな! 麦酒しか普段は飲めんだろう二人にちょっと酒のおいしさを教えてやろうという人生の先輩としてのお節介で、奢ってやる予定だ。


 近くに花街もあるが今回はそっちに近づくことはない。男二人はかなり未練たらたらにしてたが、道中での様子を見た感じ毟り取られる未来しか見えんのでな。娘たちの情操教育のためにも行くのなら完全に自己責任にして欲しい。


 ちなみにその娘二人は宿に置いてきた。さすがに酔っ払いの集まる夜の酒場は治安が悪すぎる。


「えっと、ヤンさん。二人とも置いてきてよかったんですか?」


「うっす。なんか俺たちだけなんて。別に飲めないってわけじゃないんですよね?」


「あいつら、一応飲めることは飲めるけどな。フェマは好きじゃないらしいし、ディアは全然強くない。麦酒一杯で顔真っ赤になるんだよ。だから二人とも全然飲もうとしない。」


 ちなみに、俺もそこまで強いわけではない。めちゃくちゃ弱いわけじゃないんだが、四人で飲んだ時真っ先につぶれるのはいつも俺だった。

 逆にイリスはメッチャ強かったんだよなぁ……。ただ酔い方が少しめんどくさくて苦労したが。


「それに、今日くらいは俺もたっぷり飲みたいからな。そうするとさすがに手が回らんし。」


 家だと二人とも飲もうとしないから、大っぴらにはなかなか飲めんのだよ。祭りの時でも逆にフォローとか裏方にまわらなきゃいけないこともあって、酔うほどには飲めない。


「いや、でも、ヤンさんが娘を放って出るのは珍しいって言うか。」


「そうそう、いつもはあんなに過保護なのに。」


「さすがに昼間あんだけはしゃいだから眠くなってるだろうしな。それに泊ってる宿は昔の知り合いがやってるとこで、安全性が売りなんだよ。部屋の中にいる分には大丈夫なはずだ。」


 元冒険者がやってる宿で、俺たちも一時期お世話になってた。そもそも紹介が無いと入れないから変なこと考てる奴は追い出されるし、無理やり入ろうとしてもたたき出される。

 客層が稼いでる冒険者で、結構金持ってる奴が多いおかげでガードは固いんだよ、あそこ。さすがに親父さんは引退してたが、後継の人もかなりの実力者だった。問題はないだろ。




 ……と、まあ油断もあったわけが。一番の誤算は娘達の行動力を甘く見てたことだろうか。


 宣言通り飲みまくってフラフラになって(俺より先に二人ともつぶれやがって背負って戻るはめになった)、日付が変わるくらいの時間になんとか宿まで戻ってきたところ。

 待ってくれていたのは愛しい娘の寝顔ではなく。

 誰もいない空っぽのベッドと、『冒険者ギルドに行ってきます』と書かれた書置きだった。




……。

…………お酒は二十歳になってから!!


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