第十一話 王都回想
どこで入れるのかは迷ったのですが、少しだけ回想シーンです。
王都の喧騒が目に眩しい。ここが騒がしいのはいつものことだが、さすがは勇者凱旋の祭り前。俺がいたころの数倍は活力に満ちている。
まあ、俺が知ってるのは魔王が現れりと予言が広まった後だしな。どこもかしこにも漠然とした不安は漂っていた。その時に比べればずいぶんと純粋に明るい笑顔の増えたこと。
笑顔の裏で怯えた顔をしていない。
恐怖の感情を“いつもと変わらない態度”で隠したりしていない。
自暴自棄になって暴れるような酔っ払いもいない(ただ単に飲み過ぎて暴れてる酔っ払いはところどころで見かけるが)。
かつての、華やかさの中にも影があるような感じが全くない。
初めて訪れた四人もあちらこちらにと楽しそうに見て回っている。
騒がしい人や街並みを見ているだけでこちらまで楽しくなってくるような、そんな雰囲気であふれている。
それもこれも、元凶であった魔王が倒されたからなのだろう。悪しき魔王は勇者によって討たれたのだ。
路地裏を除いてみれば勇者ごっこをしている子供たちを簡単に見つけることができる。
「出たな悪しき魔王! この勇者が成敗してくれる!」
「ぐあー! さすがは勇者、なんという強さなのだ……‼ 吾輩、とても勝てぬ……!」
「勇者の聖なる一撃によって魔王は倒されたのだー! いえーい!」
ちなみに、俺が知っている勇者ごっこはこんな感じだった。
『弱い、弱いな。勇者ども。勇者と言っても所詮はその程度か!』
『くそっ。とてもじゃないが一人では勝てない……! だが! 俺には仲間たちがいる! みんなで力を合わせて戦うぞ!』
『フハハハ! いくらでもかかってくるがよい!』
……みたいな。完全に魔王の方が人気あるとか、おかしい世の中だと思ったもんだ。
それを実感すれば実感するほど、仲間たちがやったことの大事さが分かる。
どれだけの偉業を成し遂げ、伝説として打ち立てたのかを、まざまざと見せつけられた感じだ。
少し目を瞑り、思いを馳せる。
もし過去に戻れるのだとしたら。
俺の転機となったあの時をもう一度繰り返せるのだとしたら。
俺自身の手で皆の笑顔を取り戻すことができるのだとしたら。
俺は、今の生活を捨ててでも冒険者としての道に固執するだろうか。
逡巡は一瞬だった。
……いや、きっとしないだろうな。
例え王都全ての人の笑顔と娘二人の笑顔を天秤に乗せるのであれば、悩むことなく二人の笑顔の方が大切なのだと、今の俺は言い切れる。何より一人で孤独に暮らしていたイリスを放っておくことなど、俺にはできない。
何度繰り返そうと俺はあいつのもとに行って、うまい飯を食わせて、しかめっ面しか知らないあの顔を笑顔で満たしてやるのだ。
たぶん、やり直そうとしたときに一番の障害になるのは本人の方向音痴っぷりだと思う。最終的には執念で辿り着くだろうけど。