第十話 やっぱ都会ってすげー
それからは特にこれといった事件もなく……と話が行けばいいのだが、残念なことにそうはならなかった。
保存食に飽きたと文句をつけたフェマのせいで狩りに行くことになったり、もう馬に乗りたくないと言い出したディアを説得するために骨を折ったり、道を間違えて大幅に時間をロスって野宿する羽目になったり……。
別の村に泊まった時は色仕掛けに引っかかった青年二人が身ぐるみ剥がれそうになるのを助けたり。(さすがに子連れの俺のとこには来なかったが)
まあ、なんだかんだ、ほどほどに波乱万丈な旅路だった。旅に慣れた一団だったらこういうことにはならないだろうが、俺はともかく他四人は村から出たことなんてないからな。かつての仲間たちと一緒の時は全員冒険者だったこともあって淡々と進む感じだったし、余計にそう感じるのかもしれない。
最終的には予定通りに王都へとつくことができた。
人の背丈の数十倍もありそうな頑丈な壁がぐるりと街を囲んでいる。その壁越しにも中の喧騒が聞こえてきて、王都のスケールのでかさと華やかさを存分に主張している。
田舎者四人は唖然としてただただ感嘆の声を上げ、ぼーっと立ち尽くし通行の邪魔になっているが、そういうのはよくあること。そこかしこに同じような行動をとってる人がいて、町に入ろうとしてる馬車の御者も手慣れた対応を取りながら進んでいってる。
まあ俺も、初めて王都にやってきたときは同じような反応を取ったしな。一緒に街に出てきたバズと、そろってぽかんと上を見上げてそのまま十分くらい突っ立っていたもんだ。
とはいえ、時期が時期なだけあってそういう一見さんが多いな。勇者の凱旋ってことでその姿を一目見ようとしてるのか、それとも単にお祭り騒ぎに参加したかっただけか。
などとしばらく考えている間に四人が再起動を果たしたようで、動き出す。そのことを笑いあいながら、王都へ入るための列に並ぶ。
「すごいねー! お父さんも、こんなすごいって知ってたのなら早く連れてきてくれればよかったのに!」
「あれだ……王都に行ったことあるやつが『すげえ、ほんとにすげえよ』としか言わなかった理由が分かるわ。」
「語彙力追いつかんよなぁ。」
「…………(馬に酔ってグロッキーだったのを思い出した)。」
「お前ら、まだ中にも入ってないだろ。中に入ったら俺がいろんなとこ案内してやるから、その感動はもう少し取っとけ。」
とはいえ、最後に王都に来てから18年。知った街並みが今でも残ってるとは限らんし、変わった街の姿を見ることになるのは楽しみでもあり、寂しくもある。行きつけのバーのマスターとか、よく買い物行ってた八百屋のおばちゃんとか、会いたいけれども難しいだろうな。
年の流れってものは残酷で。あの頃はまだ青年だった俺も今や立派なおじさんだ。よくよく考えると勇者パーティーだのと言われてるあいつらも今では中年の集まりなわけで。ふふ、中年勇者か。そう考えるとなんか面白い。
「お父さん? どうしたの急に笑い出したりして。」
「いや、なんでもないさ。」
なんかそう考えた途端、足取りが軽くなった気がした。あいつらも変わったんだろうなって思うと、純粋に会いたいって気持ちが湧いてきた。決着をつけるだなんて息巻いてきたけど、和解して昔みたいにバカ話するのも悪くないって思えた。
「お父さん、やっぱり変だよ。どうしたの?」
「ん、やっぱり、具合悪い?」
少しの間物思いに沈んでいたからか、心配そうに見つめる二組の目が。
しまったな、子供に心配されるとか親失格だ。イリスに怒られちまう。自分自身の目的もそうだけど、今回の旅は娘たちを楽しませるのも目的なんだぞ。
「大丈夫さ。」
そう言うと、二人の娘の頭に手を置き、安心させるようにわしゃわしゃ撫でる。あわわわと、急なことに目を白黒させていたが、しばらくすると笑顔になってくれた。
この笑顔を守る、と再度心に誓った。