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第一話 たぶん妥当な追放処分(最後以外)


「……もう一回言ってくれ。頼む。」


「ああ、お前はこれからの冒険についてくんな。これは俺だけの考えじゃねえぞ、パーティー全員の意志だ。」


 突然の解雇宣告。俺たち四人のリーダーである勇者アイズが開口一番に伝えてきたのはそんな絶望だった。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ。なんでそんなことを……。なあ、ウィル! バズ! なんかの間違いなんだよな? 三人して俺をからかってるだけなんだよな!?」


 回復役であり僧侶のウィルとタンク役を務めている戦士のバズにも声をかけるが目をそらされる。

 仮にも10年近い間一緒に死線を潜り抜けてきた仲間に対して、何も思うところがないのかよ!


「なあ、ヤン。お前も力不足だなって思うこと、あるだろ?」


「なっ。それはしょうがないだろ! 俺は付与士なんだ! 俺自身が弱いのはどうしようもない! その分お前らにバフをかけたり、デバフをばらまいたりしてパーティ―の役には立ってる!」


「それはそうだ。けどな、お前を守るために意識を裂かなきゃいけないし、ウィルの回復魔法を使わなきゃいけない場面も増えちまう。これからはまた一段と厳しいところに行かなきゃいけない。お前をいつまでも守ってるほどの余裕があるか分からないんだ。」


「それは……! でも付与士なんてそんなもんだろ!」


「ああ、だからこれから先はもう来なくていいって言ってるんだ!

 このままだと遠くないうちに取り返しがつかないことになる! 今はまだリザレクションで蘇生する余地があるが、逆に言えばお前はもう何回も死んでるんだぞ!」


「俺たち『ルックアップ』は常に上を目指そうって話だっただろ! 魔王の討伐が俺たちの目標だ!

 死ぬことくらい恐れていてどうする! 死んでもパーティーに貢献するくらいの気持ちで俺もここにいるんだよ!」


 だんだんと話がヒートアップしていくが話がまとまる気配はかけらもない。リザレクションをかければ生き返ると言うが、そんな簡単な話でもないんだぞ! 現に生き返ったはいいものの冒険者を引退する奴の話なんてゴロゴロ転がってる。それでも俺が辞めてないないのは、ひとえにこのパーティーが好きだからだ!


 どうしてそれを分かってくれない!?


「もういいです。」


「おい、ウィル?」


 不意にそれまで黙っていたウィルが口を開く。


「アイズが言って穏便に辞めてくれるのなら言う必要もないと思っていましたが、ここまで言われても辞めようとしないのならはっきりと言いましょう。」


「お、おい……。」


 なぜだろう。敬虔な神の僕でもあり常日頃から癒しのオーラをまとってるんじゃないかと言われるほどににこやかなウィル。その笑顔から今は恐ろしさしか感じない。


「正直、ヤンはパーティーの邪魔にしかなっていません。日に三度もリザレクションを使わなければならないせいで前線で傷つくアイズとバズへの回復を抑えなきゃいけなくなります。ある程度は自衛ができる私と違って完全に身の守りを任せているせいで危なくなるたびにフォローの必要も生じます。」


「だからそれは付与士ならしょうがないことだろって!」


「ですからこれを上回るほどのメリットがあればいいのですが。この前の休み日に三人だけでダンジョンに潜ってきましたが三人だけの方が楽でしたよ?

 それにあなたの能力ですが完全に停滞していますよね? ダンジョンに入れば冒険者の能力は上昇していく……現に私たちの実力は日々上昇しています。一年前入ることすらできないと思っていた場所を攻略できるようになるくらいには。ですが、そのころと比べてあなたの能力はほとんど成長していません。

 今ではあなたのバフなんて誤差くらいにしか感じないんですよ。」


 拒絶。はっきりとした言葉で告げられた戦力外通告。多少は迷惑をかけている自覚はあったがそこまでだったのか?


「で、でも、これまで10年もやってきて……。これから一気に成長する可能性だって……。」


「一年。一年間は我慢しました。私達だって鬼じゃないんです。あなたの解雇が話に上がってから一年は待ったんです。それでもあなたは成長の兆しを見せません。むしろ挑むダンジョンのレベルが上がっていくにつれ実力不足がより目に付くようになってすらいます。」


 もうここら辺が潮時じゃないんですか、と冷酷に告げてくる仲間の声。


「なあ、バズ。お前はどう思ってるんだ。お前も俺が邪魔だって思っていたのか?」


 それに対して俺は、このなかで唯一同郷であり一番付き合いの長いバズへと話を振ることで逃れようとする。


「正直どちらでもいいと思っている。」


 なのに告げられたのは思っていたのとは違う言葉だった。


「どちらの主張も俺には理解できるからな。このことに答えを出すのは俺にはできそうにない。だがまあ、どちらかと言えばだが。……お前はもう来ない方がいい、とは思う。」


 複数の武器を使い、特にその盾さばきでパーティーの前線を支える強さ。いつも目にしているその頼りがいのある背中は俺の前から姿を消した。


「分かりましたか? もうあなたの解雇は決定事項なんです。早いうちに荷物をまとめてここから出て行ってください。」


 俺たちはパーティーで一軒家を借りているため、追い出されるとなれば済む場所を無くすということにもなる。


「あ、いやちょっと待ってくれ。」


「どうしました、アイズ。あなたから言い出したことなのに今更引き留めるのですか?」


「いや、少しばかりいいことを思いついちゃってな。」


 なんだろうか。いきなり方針変更でもしてくれるのか? 俺の訴えを心に届かすことができたのか?



「ヤンはこのパーティーにずっといたい、そうだよな?」


 その問いにコクリとうなづく。


「で、俺たちはうまい飯が食いたい。」


 ……うん?


「つまり、ヤンが俺たちの飯炊き係としてとどまってくれれば全て解決なのでは?」



 ……まあ、結論から言うとその日一番の怒号が飛び出して、一人の人間がその日のうちにその家から消えたということをここに記しておこう。






 



 

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