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魔王の異世界譚  作者: 海都
3/3

第2話 頑張りましょう魔王様

チュンチュン

「…っ…朝か」


鳥の鳴き声と共に眩しい日の光が差し込んだ。


「くっ…頭痛がする」


昨夜はあの兄妹の笑い声とはしゃぎ合いの声で中々寝付けなかったのだ。

いつもなら無礼を働いた者には女、子供でも即、罰を与えるところだが…

しかしここは異世界、当然自分の名が知れてる訳でも無い。それに此処の者達には借りがある。それを無視して罰を与えるなど魔王として器が小さいと自分のプライドが感じてしまう。


「うーむ、ここはひとつ我の名をこの異界の地に響かせ無ければならんな」

「そしていずれは!」


後々の想像をしていると、寝ていた布団から足が思いっきり顔にめがけ、当たった。


「ふごっ?!」


いきなりの出来事だったため思わず情け無い声を上げてしまった。

まさかと思って布団の中を見ると昨日元気にはしゃぎ合っていた半獣半人の兄妹のユノとダイが眠っていた。寝相の悪い兄に対し、子縮まったように眠っているユノ、寝相が悪いダイの足をどけ机の上に置いてあった。鎧を身にまとった。

すると、トントンと扉を叩く音が聞こえた。


「魔王様お目覚めですか?」

「ああ、既に目覚めている」


返事を返すと"ガチャ"と扉が開きズノ爺が入ってきた。


「失礼します…あっ!」


いきなり何か悪い物でも食べたかのような顔をした。

もしや、自分の姿を見てようやく恐れをなしたのでは!

ズノ爺の反応に自信を持っていると、何故か自分を無視して後ろの方へ駆け出した。


「コラ!お前達!」

「くぁ〜あれ?もう朝?」

「っ…う〜ん?」


早朝からズノ爺に怒られたにも関わらず呑気(のんき)に大きなあくびをするダイと伸びをするユノが寝癖を付けて起きた。

なんだ、自分の姿に驚いた訳じゃ無いのか。少々残念な気持ちな思いになっていると、ズノ爺が深々と頭を下げていた。


「すみません…魔王様この子達には後で叱っておきますのでどうか許してやって下さい…」

「あっ…ああ構わない」

「下の部屋で朝食を準備致しましたので先にお召し上がり下さい」

「そうか、ならば先に行くぞ」


期待とは違う結果になってしまったが朝食の良い匂いにそんな考えはどうでもよくなってしまった。

見たところ元いた世界と同じような食べ物が3品長いテーブルに4箇所準備されている。


「ふむ、見た目は良いだが…」


やはり食は味が命だ。

いくら見栄えが良くても味が良くなければ話にならない。

どれどれとパンのような丸い食べ物に手を付け口へ運んだ。


「……っ!」


その瞬間香ばしい香りが口の中で広がり甘い風味に舌が喜んだ。

庶民の味には興味があったが立場上高級な料理しか食べた事がない為この味がシンプルながらも素材が生きていると舌の上で感じられた。


「う…うまい!」


ただその一言に尽きた。


「あぁー!もう食べてる!」


朝食の味に感動していると耳に響くような元気な声が階段の方から聞こえた。

階段の方へ目をやると寝間着寝間着(ねまき)姿のユノとダイが騒しく階段を降りてきた。二人はそれぞれ空いている席に座った。


「まだ食べちゃダメだよー」


眉間みけんにシワを寄せてテーブルに乗り出し注意してくるダメとそれを見てコクコクと頷くユノがこちらを見た。


「お気にめしましたかな魔王様」


すると、階段からギシギシと一段一段ゆっくりと降りてくるズノ爺が見えた。

ゆっくりと自分と対面している席に座った。


「皆、揃ったかのでは頂きますじゃ」

「いただきまーす」

「…いただきます…」


ズノ爺の声に続きダイ、ユノも合掌した。すると三人が一斉にこちらに目をやった。


「なっ…なんだその目は」


じーっと見つめるユノとズノ爺、んっ!と合掌した手を見せるダイ

すると合図を出したダイが


「魔王もするの!」


と、手を前に出した。


「ふん、誰が神なんぞに感謝など…」


自分は魔王なのだからと朝食を食べようとすると三人の顔が険しくなってきた。


「…っ!」


その圧に負け仕方なく合掌した。


「い…いただき…ます…」


すると三人の顔がパッと明るくなった。

まあ良いと、自分の中で言い聞かせ朝食にありついた。


「うむ、美味であった」

「お粗末様でした」


食事を終え「これからどうしたものか」と思考を巡らしていると突然口の周りに食べカスを付けたダイが小さな尻尾を振りながら元気よく身を乗り出した。


「なぁ魔王!遊ぼうぜ!」


こらこらとズノ爺が懐からハンカチを取り出してダイの口の周りを拭いた。


「どうですかな魔王様、この子達の相手がてらこの村を見て回って見ませぬか?」

「ふむ…」


微笑みながらこちらを伺うズノ爺と"早く早く"と訴えるような目でこちらを見つめるダイその様子を見て"迷惑だよ"と言いそうな目でダイを見つめるユノ達の姿が見て取れた。

散歩かぁ…普段、城から滅多に出ることのない自分からしたら正直"めんどう"という気持ちにかられ勝ちだった。


(いや、待てよ…)


しかし今の自分には"めんどう"という気持ちと同時にこれは"チャンス"じゃないか?とゆう気持ちが湧いてきた。

ここで我の力を見せつければこの村の奴らを我が兵隊か奴隷として扱える!

今の自分には少しでも多くの人材が必要だ。それが魔王としての力の強さにつながる。それにこの世界を知る必要がある。そう決心するとズノ爺達の恩を忘れすっかり"その気"になってしまった。


「よし!ダイ、ユノよ存分に遊ぶぞ!」

「わーい、遊ぶぞー!」


高ぶる思いを隠し切れずついつい顔に出てしまった。しかし、そんな自分を見ても三人は気にもとめずそれどころかダイは飛び跳ねそうな勢いで喜び、ユノも静かにほくそ笑んだ。うんうんとズノ爺も頷いた。


「では、魔王様二人を任せました」

「うむ任せよではダイ、ユノ村を案内せよ」

「はーい!」


元気よく返事をすると光が差し込んでいた。扉へと走って行った。


「早く、早くー」


妄想に(ふけ)っているとダイが扉の前で手招きをしていた。

それに気がつき扉の方へと足を運んだ。

外に出て見ると山に囲まれたまさに田舎と呼べるほどの自然に満ちた光景が広がっていた。建物は自分が出てきた家を含めても10個ほどしか見当たらない。

それ以外には田や畑だけが当たりを包んでいる。


「まずは…あそこ!」


ダイがまず指を指した方向には森があった。


「あそこで遊ぼ魔王!」

「わかった、あの森の中だな」


そう叫ぶとダイは森に向かって元気よく走り出した。ユノはこちらを見つめたまま突っ立ていた。するとこちらに手を出した。


「っ…」

「手を繋いで欲しいのか?」


するとコクッコクッと頷いた。

まぁしばらくの辛抱だと自分に言い聞かせユノの差し出した手を握った。


(さて、どうしたものか…)


しばらくユノと一緒に歩いていると森の入り口と思われる所にダイが立っていた。


「遅いよ、魔王」

「ああ、すまん…」


早く遊びたいのかしかめっ面をしたダイが駆け足をしたまま待っていた。

しかし、追い付くと掛ける声も聞かず足早々と森の中へ走って行ってしまった。


「…ほう」


森の入り口に立って見るとやはり見上げるほどの大きさがある。

ふとユノと手を繋いでいる事を思い出し視線を下ろした。見るとユノは"入らないの?"と訴えるような顔でこちらを見つめていた。


「ふむ…行くか」


コホンと咳払いを一つして足を森へと運んだ。森の中に入ってみると意外にも涼しく日陰とそよ風のおかげで日差しが強い外よりも居心地が良い。


「なぁ!魔王、追いかけっこしようぜ!」

「は?…こんな森の中でか?」

「よし、決まり!」

「まず、オレ達が逃げるから、魔王が鬼な!」

「いや、まっ…」


待てを聞かずにダイはまるで疾風のごとく速さで"あっ"と言う間に森の奥に消えて行った。


「ぐっ…仕方ない、ダイを見つけるかユノよ……?」


そう言って手の感触を確かめるとさっきまで手を繋いでいたはずのユノの手の感触は無く辺りには肌を触るような冷たい風が吹いていた。


「ぐぬぬ…ここまで我をコケにするとは見つけたら、嬲り殺してやる!」


先程までの穏やかな気分から一転、殺意が込み上げて来た。


「丁度良い、あの子供達を殺して我の恐ろしさをこの村の連中に知らしめてくれるわ」


所詮は子供の隠れんぼ鼻で笑いながら魔法陣から杖を取り出し気配を察知する呪文を唱えた。しばらく森の中をくまなく探すと、唱えた呪文の範囲に二人の気配があった


「……見つけたぞ」


片方は木の上もう片方は草叢の中に不自然に揺れる影がある。草叢の方はここからでは遠く先に木の方へと向かう事にした。


(ん?…霧が出て来たな)


しばらく進むと辺りを霧が包んだ。

すると行けども行けども霧は一向に晴れず周りはどんどん見えなくなっていった。


「なるほどな…」


風の呪文を唱え杖を勢いよく天に向け突き出した。


「……ふん!」


霧はたちまち晴れ、木漏れ日が差し込んだ。


「そこか…」


目の前の大木を勢い良く蹴ると、一つの影が落ちて来た。


「わあああああ!」


影の正体はダイだった。勢い良く尻餅を着くと痛めたお尻を撫でた。


「イテテ…」

「うぁ、やべ」


慌てて逃げようと走り出そうとしたが足が滑って転んでしまった。


「捕まえたぞ!」


しかし、ダイを捕まえようとした手はダイの体を擦り抜けダイはまた消えてしまった。


「なっ!幻影だと」


崩れかかった体制を立て直し、再び呪文を唱える。しかしいくらダイの気配は転々と移動し上手く捉えられなかった。


「………くっ!…ん?」


だが、この近くのユノの気配は草叢から全く動くことはなかった。


「…こっちから先に捕まえるとするか」


少し(しゃく)だがピョンピョンと走り回るダイよりも、じっとして動かないユノの気配がある草叢へと足を運んだ。

見たところユノはダイに比べ元気は無く体力も少ないはず幻影を見せられても直ぐに行動出来ないと考えた。それに_


「同じ手はこの我には通用しない」


しばらく歩くとユノの気配があった草叢にたどり着いた。草の長さはそれ程高くない子供がしゃがんでやっと一人隠れられる程の場所だ。辺りを見回すとユノの被っていたフードが草の隙間から見えた。一応、呪文を唱え本物かどうか確認する。


「…ふっ」


本物だと確信すると音を立てず静かに近づいた。


「見つけたぞ」

「ふぇ?」


しかしユノは来るのが分かっていたかの様に

飛び出した瞬間こちらを向いて


「トラップ、風の罠(ブロウアウェイ)!」


と唱えた途端、魔王の体は宙に浮き空へと飛ばされた。


「何いいぃ!」


大技を受けたような声を上げ空の彼方へと飛んで行った。


「…くっ」


気がつくと何処か森の外の木の枝に体が挟まっていた。体をうねらせ枝から体を外し何事も無かったように地面に着地した。


「まさか、(あそび)なんぞに我が失態を犯すとは…」



子供の遊びごときに罠や幻術をかけられた自分のプライドは傷つけられ、真っ先にあの子供達二人を殺さねば気が済まないようになり一層怒りを露わにした。絶対に殺す!そう決意しながら痛めた脇腹を回復の魔法(ヒール)で癒しながら森へと戻った。

森の中に戻ってみるとダイとユノが最初に鬼ごっこを始めた場所で魔王が戻るのを待っていた。


「ぐっ!よくもぬけぬけと」


呑気に話し合う二人を見て再び怒りが込み上げて来た。


「いや、待てよ」


今ならこの距離から二人を狙えば一気に葬れるかも知れない。幸い向こうはこちらに気付いている様子は無い、魔王にしては情け無い行動だが、もはやプライドなど既に無いあの二人さえ葬って仕舞えば後は楽にこの村を占領出来るはず。


「ふっ」


不敵な笑みが思わず(こぼ)れた。

渾身の魔力を杖に込め、放とうとした瞬間!


「さっきから何してるの魔王?」


突然後ろから聞き覚えがある声が聞こえてきた。


「なん…だと…」


振り返らなくても誰だかハッキリ分かるその声はダイだった。


「……いつからだ」

「何が?」

「いつから我の存在に気付いていた」

「森に入って…かな?ずっーと気配は感じてたよ」


普段ならコソコソと隠れるより堂々と挑戦者を待ち構えるのが魔王だ。暗殺や身を隠すのは得意では無いかもしれない。自分の魔力が大き過ぎてすぐにバレてしまうかもしれない。だがしかし幾ら何でも早すぎる、隠の魔法はかけてないが、この山の中の様な森だったらそもそも掛ける必要は無い。途方に暮れそうな魔王を差し置いてダイははなしを続けた。


「あっ!そうそうもう帰らないとズノ爺に叱られちゃうよ魔王」


人の苦労など御構い無しで話をするダイにもはや怒る気力も出なかった。


「子供とは時に恐ろしい物だな」


気がつくと空は綺麗なオレンジ色に輝き日は既に山の上に掛かっていた。






















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