第1話 ようこそ魔王様
(ッ…ここは…)
勇者達との戦いに疲れ果て体が思うように動かせない。
(そうか…我は破れたのだったな…)
おそらく此処は冥府にある地獄だろう、目を開ければ辺りは悪人の死体がそこら中に転がっているのだろうか。
(まぁ…そんな世界で生きるのも悪くない)
悲壮感に浸っていると何処からか声が聞こえてきた。
「やめとこうよぉ」
「大丈夫だって」
ひ弱そうな声と好奇心が旺盛な声がこちらに近づいてきた。さしずめ小鬼らが我の血肉を食べに来たのだろう。
(まぁ今の我にはどうでも良い事だが)
足音が徐々に大きくなりついに耳元にまで近づいてきた。
(さぁ、喰らうなら喰らえ!)
しかし、声の主達は直ぐには喰らおうとはせずにまたヒソヒソと話し出した。
「し、死んでるのかな?」
「いきなり起きてガバッと襲い掛かってきたりして!」
(ぐぬぬ…喰らうなら早くせぬか!)
好奇心旺盛な声の主がひ弱そうな声の主を驚かしているのを聞いて、だんだんとイライラが込み上げて来た。
(こんな小鬼どもに我の肉を喰らわせるのは癪だ)
何とか手足を動かせないかと力を入れてみると、指先で微かに魔力が込められるのが分かった。
(よし、小鬼どもめが目に物を見せてくれる!)
今、使えるありったけの魔力を指先に込めひ弱そうな声の主の方に狙いを定めた。
(魔光弾/まこうだん!)
心の中で呪文を呟き、目を開き、痛みが走ったが力一杯腕を上げ弾を放った。
「危ない!」
「きゃっ」
しかし、力を込めた一撃は虚しくも声の主の頬をかすめただけで弾は声の主の後ろに立っていた木に当たり消えてしまった。
「くっ!ならば!」
振り上げた腕はそのままひ弱な声の主を捉え地面に叩きつけた。
「ん?人間?」
捉えた腕の中をよく見てみると小鬼だと思っていた声の主は10歳に行くか行かないかくらいの半獣半人の女の子だった。
「あ!妹から手を離せ!」
好奇心旺盛な声の主は女の子とひとつくらいしか歳が離れていない半獣半人の男の子だった。しかし、勇者達との戦いで疲労した体は限界を既に超えてしまい地面に倒れてしまった。
「むっ…ここは」
目が覚めた時は木で建てられた建物の中だった。身につけていた鎧は一式とも目の前の机の上に並べられていた。すると横の扉から"ガチャ"という扉が開く音と同時に低い濁った声が聞こえた。
「おや、気がつかれたようですな」
ふと扉の方に目をやるとそこには、白髪で全身を覆った老人が食べ物の入った器を持って立っていた。
「体の具合はいかがですか?宜しければ何かお持ちしましょうか?」
「いや、良いそれよりもお前はこの家の主人か?」
「えぇ、この家には私と孫二人で住んでおります」
(田舎臭い家だが、一応聞いてみるか)
勇者達との戦いの後何がどうなっているのか出来る限り情報が欲しかった。
「ここは何処だ?」
「ここは、秋の村です」
「聞いた事が無い村だな」
「まぁ、町から離れた小さな村ですから普通なら貴方のような方には無縁のような所でしょう」
(この反応からすると恐らく我のことを知らないようだな)
念の為と自分の事を質問した。
「お前は我を会った事があるか?」
「はて?何処かでお会いした事があるでしょうか?」
「やはりな…」
(少なくとも、国という国には我の恐怖は広まっているはず、という事は…)
「どうかなさいましたか?」
「いや、こっちの事だ」
目の前の老人と話をしているとまた、扉が開き二人の子供が入って来た。
「あっ!起きてる」
よく見ると森の中で出会った半獣半人の子供達だった。子供達はまだ警戒しているのか、入って来た途端に老人の後ろに隠れてしまった。
「ところで我をどうやって運んで来たのだ?少なくともお前ではあるまい」
「ああ、それなら…」
「はいはーい!」
「はいっ……」
元気良く手を挙げた男の子に対して女の子は控えめに手を挙げた。
「なっ!何?!」
少なくとも大人が一人で担いでも鎧と体重で重くて少ししか歩けないのにそれを年が十も満たない子供二人が運ぶなんてあり得ないはずだからだ。力を上げる魔法をこんな子供が覚えていたとしてもまともに使えるはずも無い。
(い、いや冷静に考えろもしかしたら倒れていた場所からここまで、そんなに離れていなかったのかもしれない)
「ほ…ほう」
「あっ!でもオレはまだお前が妹にこーげきしたの、許してないからな!」
男の子は思い出したかのようにこっちを睨み女の子はまた老人の後ろに隠れてしまった。すると老人はポンと手を叩いて
「そういえば自己紹介がまだでしたな、私はズノと申します。皆さんからはズノ爺などと呼ばれております」
すると不機嫌な顔をした男の子が次に自己紹介をした。
「ダイ…」
続いてズノ爺の後ろに隠れていた女の子が顔を半分だけ出して自己紹介をした。
「…ユノ」
するとズノ爺はにっこりと笑った。
とうとう自分の番が来た。景気良く驚いてもらおう。
「我は魔王!デウスである!我の前にひれ伏すが良い!」
"決まった!"心の中で確信し得意げになった。
(さあ!恐怖と悲鳴に満ちた顔を晒すが良い!)
「おぉー!」
(あ、あれ?)
しかし、返ってきたのは、少しの拍手と少しの驚いた顔だけだった。
(ま、まぁこうゆう日もあるだろう)
そんな魔王の心を無視してズノ爺は孫二人を見て笑顔を向けていた。
「二人共よくやった!じゃあ次は仲直りじゃ」
「うっ…」
「うん…」
(この状況では一番に謝るべきは我だろう子供に頭を下げるなど本来ならあり得ないが、状況が状況だからな)
「ここは我が先に謝るべきだろう、ユノダイすまなかった。特にユノよお前に魔法を打った事を許して欲しい」
するとズノ爺の後ろに隠れていたユノはズノ爺の横に立ち微笑んだ。
「きっ…気にしてないよ」
「むっ…ユノがそう言うならオレもお前を許してやる」
恐らく許してくれたのだろう。やっぱり少し気に食わないが。
「ところで今夜は何処かに宿を取っておられるのですか?」
「あっ…」
「宜しければ今夜はうちで過ごされてはいかがです?」
「さんせーい!」
さっきまで不機嫌だったダイが満面の笑みを浮かべた。ユノも"コクッ"と頷いた。
「よろしく頼む」
「では、よろしくお願します、えっ〜魔王様」
「よろしくな魔王!」
「よっよろしくお願します魔王様」
「いや、魔王というのは…まぁ良いか…」
やはりここは異世界らしいー