鳥居
「ここら辺にしようか…」
男は深い森の中にいた。
借金も返せなくなり、
嫁と子どもは少し前に出ていった。
ここで死んで来世に期待しよう。
目の前には鳥居があった。
もう年季のある汚れた朱色で
辺りは暗かった。
何故かわからないが鳥居は1つ。
辺りには何も無い。
何となく通り抜けたらいけない様な。
そんな気がして少し怖くなった。
だが別に死んでもいいのだ。
思い切って通り抜けた。
するとそこには浮いた子ども。
翼が背中にある、いわゆる天使がいた。
「こんばんは。
私はあなたの来世を見せることができます。
なんで鳥居から天使がでてきたかって?
私は御言葉の天使なんです。
神様の声が聞ける数少ない存在なんですよ。」
天使は笑って言った。
「なるほど。
来世に期待して死のうとした私に
最悪な来世を見せて死なせない
つもりなんでしょうが無駄ですよ。
どうせ私の気持ちは変わりませんので。
生きてても意味が無いのです。」
「そんなつもりはないですよ。
でも…わかりました。
では早速見せてあげましょう。」
天使はにこやかに
持っていたステッキを振り、
男の目の前には来世が見えた。
赤ん坊から幼年期。少年期と
いい暮らしをしている男の子だ。
「なかなかいい生活をしているじゃないか。
生まれ変わったらこんな風になれるんだな。」
「はい。なれますよ。来世はこんないい生活。
期待しても全然いいと思いますよ。」
「それはありがたい。
来世に期待して死ぬとしよう。」
だが、その少年を
育ててくれた母親は病死し、
父親はそのショックから立ち直れず
酒を暴飲する暴君へと変わり果てた。
その時、男は言った。
「俺にはまだ生きている両親がいる。
まだ俺は両親に何も出来ていない。
もう少し生きててもいいだろうか?」
「何言ってるんですか。
いいわけないでしょ。」
天使は笑いながら言った。