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プロローグ 世界の果て




 それは、地獄だった。


 見渡す限りの死体の山。それは人間も、魔物もいっしょくたになって地面を血に染めている。

 この地にはもう、草も生えないだろう。


「…………」


 (リョウ)はただ風に荒らされる黒髪をそのままにぼんやりとそれを見つめている。

 人が死んでいても、もう怖いと思うこともなくなってしまった。

 それよりも、死んだ人が身にまとっている機械たちのほうが気になる。

 頭と肩から腕、背中から腰……膝裏からふくらはぎへと後ろから覆いかぶせるように装備するそれは貴重なものだ。

 だが既に見える範囲のそれらは搭乗者ごと破壊されてしまっている。


「…………」


 ぱしゅ、と軽い音とともに涼は装備から離れ、死体だらけの大地を踏みしめる。

 数歩ごとに現れるその『残骸』の核に触れた。

 その核は魔鉱石と呼ばれ、その装備をまとい戦うためのエネルギー源となるもの。

 彼が触れたそれは力を失ってはいないもののひび割れていて彼の指が触れたと同時にぱきりと砕け四散した。

 それをひとつひとつ集めて、腰にぶら下げている小さな袋へと入れていく。


「──こんなところにいたのか」


 何人目かの核を回収したあたりで硬い声がかけられた。

 涼が振り返れば、そこには涼と同じ年頃で、白い髪に桃色の瞳の豪奢な軍服を身にまとう青年がいた。

 平民である涼とは比べ物にならないほど高い地位にいる家の子なのに涼とともに前線に来た変わり者。


「生き残ったのは、……お前だけか」

「……ああ、」

「そう、か……」


 彼はそう呟くと、この地獄のような大地を眺める。

 死んでいった人間の中には彼の知り合いや友達もいたことだろう。

 涼は苦悩に眉を寄せる彼を見つめ、そして同じようにもう一度血みどろの大地を同じように見つめた。


「……ここにいても仕方ない。……僕たちは勝った、……お前のお蔭でな、リョウ……」

「俺の、おかげ……」

「お前が覚醒したその力のお陰だ。……こんな事を言ったとしても、お前は喜ばないだろうが……ありがとう、リョウ」

「…………」


 リョウはその言葉を無言で受け取る。

 何を言われても、今は何も考えたくなかった。

 戦場で何があったのか、覚えてはいる。

 だが、何がどうなって今の状況になったのか理解しきれずにいたのだ。




 櫻井(サクライ) (リョウ)

 彼はただの17歳の青年だった……魔法もない、魔物もいないはずの、日本のただの高校生だった、はずなのだ。




「……何がなんだかもう、わかんねえや」


 ぽつり、溢れた彼の声は誰に拾われることなく風にさらわれていった。





 魔大戦。

 この戦いはそう呼ばれ、後の世に語り継がれていく。


 『アイズ』という青年が魔物たちを圧倒し、荒れに荒れたこの世界──アイドクレースを平定した英雄として祭り上げられた。

 祭り上げられたその青年は剣と精霊の国、アデュラリア王家の子息で、大戦から20年経つ今も王家の一員として名を馳せている。

 『大戦唯一の生き残り』として、生きる奇跡とも呼ばれ、その生き様を記した物語は全土に響き渡り読まれ続けてるという。



 実際の生き残りが涼であることも、『アイズ』という名も涼の名を知らないものが涼の能力から勝手につけたあだ名であることも。

 民衆たちは知らない。


 事実は曲げられたまま、……全土に広まっていった。

 王家の箔付けに利用された形の涼は、閑職に回され、飼い殺しとなっていたとしても……誰もそれを知ることはない。


 たった一冊の、貴族の青年が残した手記だけが真実を記していた。

 それを知るものは──いなかったのだ。




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