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死んだ男

作者: シバドッグ

 私は既に死んでいる。


 なぜ死んでしまったのかは思い出せないが、今は幽霊となって街をさ迷うだけの存在だ。


 朝も夜も関係なく賑わう繁華街を、仮に私が全裸で歩いていたとしても誰も気にも止めやしない。


 昨日もすれ違いざまに体格の良いタンクトップの男と肩がぶつかってしまったが、私の身体は男をすり抜けていった。


 幽霊は人間には触れないというのは本当のようだな。


 これを便利と感じるか、不便と感じるかは人それぞれだろうが私は結構気に入っている。


 しかし、そんな私にも例外はある。


 それは、映画や小説などにおけるポルターガイスト現象が使える事だ。


 生き物には触れないが、物に触ることができる。


 ポケットから小銭を出して自販機に入れればジュースも買えるし、そのまま飲んで喉の渇きを癒すこともできる。


 そう、幽霊になって一番驚いたのが、幽霊は腹も減るし喉も乾くということだった。


 汚い話だが、排泄だってする。


 排泄物も幽霊に分類されているらしく、試しに歩道で大便をしてみたが、通行人が踏もうが蹴ろうが靴に付いたり大便が潰れる事もなかった。


 ただ、私だけは臭いを感じるし、私が踏めば当然のように靴の裏にこびりついてくるのが困りものだ。


 これに関しては正直、2万円の革靴をだめにしてしまったので高い授業料だったと思っている。


 さて、そんな風に自分にできることできないことを試しながら過ごす生活を始めて、三日が経っていた。


 まあ、死んでいる私にとって今更な話ではあるのだが。


 今日は浮遊してみたり、壁抜けを試してみたが無理だった。

 

 経験が足りないのかもしれないな、と思った。


 幽霊歴が長いと、もっと色々な事ができるようになるのかもしれない。

 

 公園のベンチに座りながらそう考えていた私だが、ふと気づいた事がある。


 無表情な子供達が、砂場で今日も何かを作っていた。


 子供らしい一生懸命さとかそういうものが一切感じられない淡々とした姿は少々不気味だが、それ以上に不可解な事がある。


 昨日もこの子供達はいた気がするのだ。


 白いTシャツの男の子、赤いワンピースの女の子、キャラクターのプリントが入った帽子をかぶった男の子。


 間違いない、昨日と全く同じ格好で彼らはそこにいた。


 いわゆる、ネグレクトというやつだろうか。


 この子達の親が子供に無関心で、着替えもさせてやらないのだとしたら、酷い話だ。


 「いや、待てよ」


 そもそも、今は何時なのだろう?


 辺りはすでに真っ暗だ。


 街灯に照らされた公園の時計を見ると、夜の十時を回っていた。


 いくら子供を放置していても、こんな時間になるまで子供を遊ばせている親はいるのだろうか。



 そんな時に、公園の入り口辺りが黄色く光ったのでそちらを見た。


 自転車に乗った警察官だ。


 夜のパトロールでもしているのだろう。


 彼がこの子供達を家に無事に帰してやれば、私の不安も払拭されると思った。


 しかし、彼は一度こちらを見ただけで、そのままゆっくりと走り去ってしまった。


 ここでさらに違和感を覚えた。


 不真面目な警察官が面倒事を避けて無視したという可能性もないわけではないが、それなら普通見なかった事にするためにも少し早めにここを立ち去るものだろう。


 しかし、彼は公園の確認をしたにも関わらずゆっくり立ち去った。


 考えすぎかもしれないが、もう一つ気づいた。


 そもそも……


 何で、私に子供達がはっきりと見えているんだ?


 子供達のいる砂場には、街灯が無い。


 ちょっと光が当たってはいるが、こんなにはっきりと見えるはずがないのだ。


 「いや、違う、違う」


 そうだ、これも幽霊としてレベルが上がった私の新しい能力のせいだ。


 暗闇でもはっきり見える能力が開花しただけさ。


 そう自分に言い聞かせたが、同じように街灯の側にないブランコやジャングルジムは全くと言っていいほど見えなかった。


 冷や汗が背中を伝い、ゾクリと身震いを一つした。


 気がついたら私は、無我夢中で走り出していた。


 破裂しそうな心臓の鼓動を聴きながら、繁華街を駆け抜ける。


 もう何人の身体をすり抜けたのかわからない。


 そして、道路の真ん中で膝を付いた。


 周りの人間達の中に、笑ったり喋ったりしているやつはいない。


 ただ歩いているだけだった。

 

 私はよろよろと立ち上がると、再び歩き出した。


 そして、今日も体格の良いタンクトップの男が、私の身体をすり抜けていった。

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