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冷静な訳

「そんな...主様ァァァァァァァァァ!!」



大声で叫ぶリスフィスの魔法人形。

圧倒的魔力を指に凝縮させた光線を賀露島に向けて放った事により、賀露島が消滅してしまった。

リスフィスは未だにこれを受け入れる事が出来ず叫び続けていた。


しかしそんな彼女の近くに唯一ある誰かの銅像の影で何かが動いていた。




「....ふぅ..予め刺していて正解だったね....」



その影の正体は賀露島だった。そんな隠れる彼の足下に見覚えのある旗が刺さっていた。

それは例え死んでも、その旗を建てた拠点にて再度復活出来る〈死亡フラグ〉である。

そう。賀露島が生きているのは〈死亡フラグ〉で復活したからである。


これを設置したのは賀露島がこのヒューリスト広場の銅像に着いた時からだ。

ハアハアと呼吸を整えながら、いつリスフィスが現れてもいいように差しておいたのだ。

そしてこれが成功する。



リスフィスには理楊のような鋭い嗅覚が無いため、1度賀露島を見失うと中々見つけられない。

それは以前のヨークルトシティでの理楊との戦いで分かっている。


しかし決してリスフィスのサーチ能力が低い訳ではない。

リスフィスにはこの世界に似た魔法傾向があり、この世界と同じように魔力探知が出来る。しかも範囲は惑星1個分の範囲があるらしく、この星にいれば彼女の能力適用内に必ず入ってしまう程のサーチ能力がある。

理楊も嗅覚によるサーチ範囲も町1個分と広いが、雨など環境の変化などを受けやすいと言うのもある為、安定感が無いのと何より誰が見ても分かるぐらい圧倒的にサーチ範囲で差が出ている。


だが逆を言えば魔力探知でしかサーチが出来ないのだ。

世界中がサーチ範囲である程に優秀なリスフィスが何故賀露島を見つけられないのかと言うのは、もう分かっている事だが偶々賀露島が魔力を体に有していなかったからだ。


魔力が無い無能者である賀露島ではリスフィスの魔力探知には引っ掛からないので、賀露島を見つけるには目で見るか、賀露島がスキルを使って魔法を使用するかでしか賀露島を見つける手立ては無い。


なのでこの場面でのリスフィスの心境は賀露島を自身の魔力で殺したという事になる。

そうすればリスフィスの魔法人形は役目を終えて消える。

賀露島はそれを狙っていた。



「....さあリスフィスちゃんの

魔法人形よ。早く姿を消すんだ...」



賀露島は銅像の後ろから少し顔を覗かせてリスフィスがいる方を見る。

そこにはまだ叫び続ける彼女の姿があった。どうやらまだ気づかれていない。


これなら何とか消えるまでやり過ごせるだろうと監視を続ける賀露島。ここまま黙ってここに隠れていればーーー。


だがそれはリスフィスが言った言葉を聞かなければの話だった。




「...あ..ぁ.....もういいや..コイツ殺してから消えよう....」


そう言ってリスフィスはそこに失神して倒れていたあの感じの悪い男に近寄る。

どうやら彼を殺すつもりのようだ。



マズイ。

それは....困る。



賀露島の体は動いていた。



「...それは許さないよリスフィスちゃん。一般人を狙うのは良くない事だよ。」



当然そんな事を宣言されてしまわれれば彼女を止めないわけにはいかない賀露島。

人助けをする偽善者としての心が賀露島を動かした。

いや動かざるを得ないんだろう。


かくして銅像の後ろから体を出す賀露島。その時の賀露島の心境は自分でも驚くほどに落ち着いていた気がする。

きっと自然と動かされた体が心さえも冷静に対象させているのだろう。



「...主..様....?」



少し涙目になっていたリスフィスの魔法人形と目が合う。

彼女を見て思ったのは震える子犬を見ているように、か弱そうなが感じられる。僕を殺した事の罪悪感なのだろうか。



「そうだよ本物の僕だよ。僕は今ここにいて君と話をしている。僕は紛れもなく僕さ。」



「...あぁ..主様.....僕の大好きな主様...」



駄目だ。やはり聞こえていないらしい。

いやでもこれでいい。リスフィスが標的をあの男から自分に変えてくれたので最低限の事は出来たのだろう。



「主様...申し訳無かった....僕は主様に買ってもらって、辛くて苦しかったあの日常を抜け出すことが出来たんだ。」



「そうかい?それはとても良かったよ...」



ギュッと強く自身の手を握るリスフィスの魔法人形に賀露島は少しだけ冷たく答える。別に馴れ馴れしくする必要が無いからだ。

これから目の前にいるリスフィスの魔法人形に対してヘタに情をもつ必要がない。

そうだ。今から彼女を殺そうとしているのに妙に冷静でいられたのはそういう事だ。




「でも主様がそばに居ないと僕はまた苦しくなるんだ。きっと主様が僕のそばに居ないのは主様に近づくゴミどもの所為だと思うんだ。」



「それは違うんだけどなぁ...まあ聞いてないだろうけど..」



ハァと溜め息を吐く賀露島は頭を抑える。


だがそんな一瞬が彼女の攻撃を許してしまう結果となった。



ドンッ!

大きな音と共に賀露島は激痛を感じる。

リスフィスの魔法人形から放たれた魔力の光線は賀露島の右足を貫いた。その痛みだ。



「....くっ!!」



リスフィスの指から放たれた魔力の光線は、先程星さえも破壊できる規模では無かったが、それと同じものを受けた。

その光線は簡単に賀露島の右足を貫通して、そこから血が滲み出てきていた。



「それなら主様を動けなくして僕無しじゃ生きられない体にすれば...イ・イ・ヨ・ネ..?」




あまりの痛みに思考が止まりそうになったが、体は何とか最善手を取っていた。

咄嗟に左手で右足を抑えていたが、片方の右手は手を開いていた。するとーー。



ポンッ!

何もない所から手に注射器を取り出す。これはバック機能から取り出した物だ。


賀露島はそれを何の迷いもなく貫通して血が滲み出てきている右足に刺して中身の液体を投与した。



この投与した液体は害獣討伐組の鎮痛剤だ。

原理はよく分からないが投与する事により痛みが無くなり、流血を抑える事が出来る。


痛みが無くなった事により冷静に判断が出来るようになったので、すぐに体勢を立て直す。

だが無情にもその間の時間にもリスフィスは攻撃を仕掛けてきていた。



「〈フレイ〉ーーー。」



リスフィスの手から激しい炎の渦が巻き起こる。その炎は捻れるように賀露島に目掛けて放たれる。

その炎は離れた距離からでも熱いと分かってしまう程の熱気が伝わってくる。それが自身の方へ向かってくるというのだから恐ろしい事だ。



もう体のすぐ近くまで迫って来ている炎。そんな最中、賀露島の映る景色がゆっくりと遅くなっていた。

スローモーションになる世界の中で賀露島は今出来る最善の策を考える。


そしてストレージの中にあるスキル欄を探していた。恐らくこのリスフィスの炎魔法〈フレイ〉を最も効果的に防ぐ方法はーーー。




「〈マジックフォール〉水の型!」



スキルを選択し唱える賀露島。するとその賀露島の頭上から彼を覆うように水の壁が現れた。

壁と言うよりは滝と言った方がいいのだろうか。勢いよく賀露島の周りを囲む滝はリスフィスの〈フレイ〉を容易に跳ね除けた。



「...あぁ....主様の〈マジックフォール〉....主様の魔力...うん..凄く良い.....でもこれ程の魔法が使えるのに魔力が感じられないのは何故だろうね?」



〈マジックフォール〉の効果が切れてやっと顔を出した賀露島。

あの瞳には目が合うだけで洗脳する程の邪悪な魔力がある。絶対に目を合わせてはいけない。


なるべく目を合わせないよう口元を見る賀露島とリスフィスはお互いに向かい合っていた。

賀露島は次のリスフィスからの攻撃に備えるために。一方のリスフィスは単純に賀露島を見惚れていただけである。



「....フフフ...主様の魔力を感じる事は本当に気持ちが良いよ...だけどそれは主様が魔法を使った時にしか感じられないんだ....」



「うん。僕もこれには若干不思議に思っているよ。...まあただスキルを選択するだけだからかもしれないけど。」



魔法は魔力が変換され魔法として使われるもの。

この世界でもこの原理だし、フェアリーワールドでも原則としては同じであるのだろう。

故にリスフィスはこの世界へ突然転移されていても、何の問題も戸惑いもなくやって行けた。


弱者は魔力が感じられない程の者が多かったので、その編も同じ認識でいる。

つまり魔力が感じられない者は魔法が使えるわけがない。そう思っている。

なので魔力がない賀露島がリスフィスの使う魔法を跳ね返す事が出来る魔法を使えた事に疑問を感じざるをえなかった。

あの魔法は、いつどのタイミングで魔力を生成して魔法に変えているのか。謎は謎を呼んでいた。



しかしそんなリスフィスを横に賀露島の認識は凄く簡単なものだった。

それは彼の言葉通りで只のスキルとしか思っていなかった。目の前に表示される枠のようなストレージ内にあるフェアリーワールドの魔法スキルがズラッと並べられている。

これは賀露島が前の世界でフェアリーワールドをやっていた時に手に入れた魔法だ。

因みに全部コンプリートしているのでフェアリーワールドで使える魔法は全てスキル欄に書かれていた。

そして賀露島はただそれを選択するだけの作業なので特別自分が出しているという感覚ではなかったので、自分に魔力が無いという事を簡単に割りきれていた。




「うん...分かったよ主様....分からないっ事が分かったよ..だからもっと.....」



この回答は聞いていたようだ。分からない事をいちいち考えても仕方ないとでも思ったのだろう。

いや。リスフィスにとっては、そんな事は思ったよりどうでも良かったんだ。

結局欲しいのは賀露島なのだ。彼の体と心を全て手に入れてさえしまえば、どうでも良いことなのだろう。



リスフィスの顔が空を向き、片手を空に上げる。そしてその空には黒い雲が覆われていく。

この魔法は?何処かで見たことがある。



黒い雲はより一層大きくなりやがて巨大な魔方陣が現れる。



「..僕に...主様の魔力を、もっともっともっともっともっともっと、感じさせて...」





ホ・シ・イ




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