干渉
ネフィタリカが見たもの。それは何処の町か分からないが無惨にも破壊されその原型を留めていない景色だった。
ただ破壊されているだけなら大して驚く事でもない。
現にイチヤナから少し離れた所にあるナンヨーンという名の無法地帯がある。そこはかなり荒れていて幾つかの建物は風化などで壊れていて原型を留めていないのも沢山あった。
だがナンヨーンは水道も通ってなく、自然の魔素であるマナが全く無いのだから当たり前なのだ。
それに比べて賀露島の記憶にあったこの町はマナもあるし、建物もそれほど古そうではない。
明らかに数時間の間で人為的に壊されたものだと分かる。だがその破壊範囲が並のものではない。
見渡す限りの建物が崩壊している。それこそネフィタリカが見たナンヨーンの比ではない。
そして何よりもこの一帯に満ちる魔力が尋常なものでは無かった。自然魔素のマナなんかじゃない。
その魔力を感じる発生源。それは、あの女。
黒い髪の毛に白肌のエルフのようだ。その見た目は弱々しい感じのように見えるが、その圧倒的なまでの魔力がこの世のものとは思えない。
ネフィタリカはこの女を結論付ける。この女はこの世界で一番最強であると。
だがもう1つここで起きている不思議な事があった。
そんな圧倒的魔力を持つ女と相対するように睨み合う獣耳の獣属少女。その少女はネフィタリカでは無くても分かる程、魔力を感じない少女だった。いやそれどころか魔素すら感じられない。
「信じられない...魔力どころか。魔素すら感じられないなんて...賀露島様と同じですね...」
魔力がない。つまり無能者である少女が、この世で見た事がない程の魔力を持つ相手と対等に睨み合っているのだから不思議で仕方ない。
普通に考えたら殺してくれと言っているようなものだ。
無能者という存在がどれ程弱い存在なのか。
それは大人の無能者では魔力を使いこなせるようになった小さな子供にすら勝てない程である。
〈肉体強化〉魔法であれば、2倍近く身長差があっても相手が魔力の使えない無能者であれば簡単に腕をへし折れるぐらいだし、〈属性変換〉魔法なら炎を出して丸焼きにする事も出来る。
それも小さな子供相手でだ。
無能者とはそれ程までに弱いのだ。
ならば尚更あんなのと相対するのは自殺行為だと分かる。
全くバカな話だ。無能者が有能者に歯向かうのは只のバカとしか言いようがない。
だが、今回のこの場面。腑に落ちない点のがある。
圧倒的魔力を放つこの女は魔力を撒き散らしている。しかもこれは攻撃的魔力。
そう。威圧をしている。
それが分かるように周りにいる者達は恐怖に怯えているように見える。そんな怯えている彼らも中々の実力者だ。
しかしそんな威圧は無能者の少女に一番向けられている。そう一番威圧を受けているのは他の誰でもない獣属の少女だ。
ネフィタリカは、もしかしたら実際は少女には、それ程の威圧は無いのでは無いか?っと錯覚される。
ネフィタリカは此所で起きている賀露島の過去の記憶が、どれほどの威圧や殺気が放たれているのかを知る事は出来ない。
あくまでネフィタリカが見ているこの世界は賀露島の記憶が写し出されただけの世界なので彼女は閲覧者でしかない。
例えるならテレビを見ている感覚だ。なので実際は、どれ程周りが恐怖しているのかは分かってはいないので、ただ恐怖しているっとしか分からない。
故にだ。無能者の少女が本当に威圧や殺気を受けているのかの判断はつかない。
しかし無能者の少女からも不思議なものをネフィタリカは感じていた。魔力ではない何かを。
「無能者なのに...何故なんでしょう..負ける雰囲気がありません....」
ネフィタリカは本来探しだそうとしていた記憶ではない記憶を思わず見入ってしまった。この後何が起こるのか。
彼女は緊迫しているこの場面に息を飲み込む。そして両方が動きだす。
その時だった。
ネフィタリカが見ている記憶にノイズが一本だけ入る。
「...え!?..一体何が....!?」
生まれて初めての事に何事かと驚くネフィタリカ。
ナルタリカが何かしたのか?
しかし何をしようが、記憶部の中に入った時点で外の世界の時はとまっている。
ネフィタリカが記憶に入室した時点で外的要因は無くなる。
なら。ナルタリカが賀露島の記憶部に入室する前に何者かが何かしらの魔法を使用していたのか?
可能性としては0では無いだろう。だが、そんな魔法を受けたのならネフィタリカ自身気づかない訳がなかった。
記憶部に入室する前、賀露島の額に触れて慎重に調整を行っていたネフィタリカ。
これは賀露島の記憶部に負担無く入れるように同調していたのと他に自身の体の状態についても不具合が無いか確認をしていた。
何か何かしらの魔力的攻撃を受けていたとしても、この調整時に気づかない訳がなかった。
つまり入室前には誰からも攻撃は受けてはいない。
なら考えられるのは入室する時か後の事だ。
一本だけだった記憶のノイズが更に激しくなり映像が見えにくくなる。
「...何が起きたのか分かりませんが....これは早急に出た方が良さそうですね...」
ネフィタリカは名残惜しそうに溜め息を吐く。
何が起こったか分からない非情事態だ。勿論優先すべきは自分の命だ。
ネフィタリカ自身この記憶部で起こる事を完全に把握出来ている訳ではない。
自分以外にこの魔法能力を使える者がいないのだから自分が知らなければ、それ以上に知っている者はいない。
魔法能力者はそういう傾向が多い。
魔法能力は個人の個性と呼べる魔法系統である為、他に例がない。
遺伝的に伝わる魔法能力も実際は存在しているが、100%丸っきり同じ能力になる可能性は無いわけではないが、本当にそうであるのかと確認出来る方法がない。
例えば魔法能力で石を純水に変えられる者が居たとする。その者は触れる事で意図的に純水へと変換出来る魔法能力者であるとし、その者から子供が生まれたとする。
その子供も触れる事で意図的に石を純水に変えられる事が分かった。これは遺伝的なので誰もが予想できるので分かりやすい
だがある条件を満たすことにより、新たな能力が判明する事がある。
石を触れて、ある条件を満たすとその子供が水ではなく炎が出てきたなんて事があったとする。
この場合こうなる。
親の魔法能力は触れた石を純水に替える〈石の水変換〉となる。
だが、子の場合は親と同じ〈石の水変換〉の魔法能力かと思えば、石を純水では無く炎に魔法属性を変えてしまう〈石の属性変換〉が使える事になる。
そう。遺伝とはいえ必ず親から全く同じ魔法能力を受け継いでいるとは限らない。
つまり魔法能力はその現象が出現するまで分からない。
物を増やす能力かと思えば、それと同じものを瞬間移動させているだけだったり、肉体強化系かと思えば、相手の魔力ステータスをダウンさせていただけだったり等、後から自分の真の魔法能力の正体が分かるのは9割だ。
魔法能力とは未知数である。
誰も自分の本当の魔法能力を完全に知る事は出来ない。
故に、魔素の象徴である妖精でさえ自身の魔法能力が本当はどんな魔法能力なのかは分からないのだ。
「わたくしの〈記憶編集者〉が新しい能力を発揮したのかしら?...それでも..やはりこれは少しまずそうです....」
段々とノイズが酷くなっていき、音も不快に鳴り始める。
ネフィタリカは宙に浮くと、通って来た道へと戻っていく。
するとその時だったーーー。
キ・ミ・ハ・ボ・ク・ニ・カ・ン・ショ・ウ・シ・タ。
ゾッ!
ネフィタリカは心の底から震え上がった。恐怖のあまり体全体がガクガクと動いているが、自分の意思で体を動かす事が出来ない。
ネフィタリカは察する。攻撃されている。
それにノイズが入ったこの現象は自分の魔法能力によるものなんかじゃない!
もっと別の何か。外からの攻撃?
否。違う外ではない。
それはネフィタリカが予想だにしなかった記憶の中からの攻撃であった。
「....なん...で...でぇ.....」
なんで記憶の中の者が自分に干渉できるの?
そう伝えたかった言葉も震える唇が中々上手く動かない。
今、目の前にいるエルフの女。それは先程記憶の中にいたあの女だ。
名前は賀露島が記憶の中で呼んでいた気がする。そう彼女の名前はリスフィス。リスフィスロアトリア・ネティラヤンディーレ。
賀露島はリスフィスと、そう呼んでいた。




