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まだまだ未熟

「..ホレ!お前さん..これは痛み止めじゃ!」



そう言ってリューノ達の戦いを見ていたブルードはカヲンが倒れるところを見るなり、白い錠剤を渡して来た。リューノは、それを受け取り「有難うございます」と、お礼を言うとその錠剤を飲み込んだ。




「フホホホ。お前さんは敵から貰った物を簡単に口に出来るのか?止めた方が良いぞ?」



確かにその通りである。リューノだってカヲンから、この白い錠剤を渡された所で決して口にはしないだろう。

だがブルードは違う。



「..いえ。毒じゃない確信はありますよ。敵とかは関係ありません。私は貴方のような騎士の誇りが毒を盛るような真似をするとは思いませんですから。」



「だから言うとるがな..ワシはもう騎士などは名乗れんのじゃと..」



リューノはブルードから貰った痛み止めにより体中と足首の痛みが引いていき、顔の表情も穏やかになってきた。

落ち着いてきた所でリューノはブルードに話し掛ける。



「何故、王家直属の騎士である貴方が爆弾魔と一緒にいるのですか?」



単純な疑問である。ブルードが誇り高き騎士道を持つ剣豪であることは騎士として生きていれば誰もが知ること。

そんな騎士の中の騎士が人を大量に殺す爆弾魔と一緒にいるわけがない。




「フム..確かにワシとて、このような快楽殺人鬼と居たくないわい!だがのう..」



ブルードは少し言葉を詰まられる。言っても良い事なのか、悪い事なのか判断していた。

そしてブルードは口を開く。




「仕方あるまい..。口外するでないぞ?」



「え..あっ...はい!」




ブルードはリューノの耳元に口を近づけると、小声で囁く。




「ワシらドワーフ族の姫様が奴等に命を握られておるんじゃ...」



「えっ!?」




リューノは驚きのあまり大声をあげる。しかしその声にブルードは焦るようにリューノの頭を軽く叩く。




「バカもん!小さな声で話しとるのに叫ぶバカが何処におるんじゃ!!」



そうここに居ます。ナルタリカにも同じような事を言われた。

どうやらリューノは驚いた事を隠すことが難しいらしい。ポーカー等をやったら、直ぐに顔に出るばかりか口にまで出るタイプだ。



「お前さんと言うのは..まあバカ正直なのは騎士団に多いからのう..」



「はい..すみません...」



「フホホホ。まあ謝るでないぞ?お前さんはあの爆弾女に勝ったんじゃ..今ぐらい誇っても良いのだぞ?」



激しい戦いが終わって徐々に崩れていた天井が落ち着いてきた。

そんな天井から見える空を眺める。



「..はぁ...今日は一段と夕空が綺麗に見えます...。」



空はもう太陽が沈みかけていて、少し半分位は暗くなっていて、半分はまだ太陽で赤く染まっている。


もうすぐ夜だ。

この島は無人島の為、道を照らしてくれる灯りがない。

そんな中を歩いて帰るのは、危険すぎる。



「暗くなる前に帰らないといけませんね...」



リューノは立ち上がろうとするが、うまく立ち上がれない。

痛いってのはある。痛み止めを飲んではいるが、痛みがマシになっただけで治った訳ではない。


なので痛みは少しはあるが、しかし立ち上がれないのは、それが原因ではない。



「体が..動かない..?」



そうリューノが気づいたのは体が全くピクリとも動かない事だった。

意識は痛みが引いたお陰でしっかりと保っている。



「ぶ..ブルード...さん..?」



「フホホホ。すまんのうお前さん。だから敵の物を素直に口にするなと言うたんじゃ..」



ブルードは笑いながら気絶して倒れているカヲンを担ぐ。

するとブルードはリューノに背を向け、片手を上に上げる。どうやらカヲンを連れて立ち去るつもりだ。



「じゃあなお前さん。お前さんは今はもう少し休んだ方が良いぞ?安心せい..少しだけ体を動けなくするだけじゃ。すぐ何事もなく動けるようになるぞ。」



「...待って..下さい....。」



リューノは必死に体を動かそうとするが勿論動けない。まるで夜に金縛りにでもあったかの様な感覚。

リューノはやっとの思いで突き止め捕らえた爆弾魔をブルードから取られまいと足掻くが、他から見れば全く動かない寝転んだ男にしか見れない。



「すまんな若造。姫様の命が懸かっとるんじゃ。お主ら人間(ヒューマン)には悪いが今はワシにとっては姫様が守る対象なのじゃ...。」



そう言ってブルードはカヲンを担いだまま姿を消した。




なるほど。ブルードが言っていた事がようやく分かった。

ドワーフの姫様を守る為とはいえ殺人を犯す反国軍の差し金である爆弾魔を守らなければいけない立場になっている。


姫が人質とはいえ騎士団の敵である反国軍に味方をしているのだ。騎士団失格どころでは無い。

なのでブルードはリューノ達騎士団の敵であるため、本来はリューノはブルードを倒さなければならない。



だが。




「あの人には勝てそうにないな~...。」



本心からの言葉。リューノは弱音を吐く。

いや。紛れもない事実だ。



爆弾魔であるカヲンにナルタリカの加護があって、やっと勝てたのにそれ以上の強さを持つだろうブルードにナルタリカの加護が無くなったリューノでは勝てる筈が無かった。




しかしリューノは知っている。騎士は、どんな時も決して弱音を吐いてはいけないとリューノ自身、散々教えられてきたし教えてきた。

だがやはり無理なものは無理だ。



人間が武器も持たず1人だけで腹を空かせた狂暴なサメ何十匹に海の中で勝てるだろうか。


人間がたった1人でこの世にいる全ての猛毒アリに囲まれた状態で勝てるだろうか?





俺なら勝てる。



口だけなら何とでも言える。

だが実際人はそんな状況に陥ってまだそんな事を言えるのだろうか?



この質問の答えはリューノが答えだ。

しかし悔しいのも確かだ。


爆弾を庇った足はもう使えない位まで無茶苦茶に潰れて血まみれだ。

そんな中、得られた成果が爆弾魔の正体についてだけで爆弾魔自身を捕まえる事が出来なかった。


恐らくこの先でも爆弾魔はまた人を殺すだろう。何十人、何百人と殺されるかもしれない。

それぐらいの力は持っている。




「また守れないのか...」



リューノは動かない体を震わせる。そして己の弱さにかつての記憶を思い出していた。




その時、フッと足に感覚を感じた。リューノは唯一動かせる首から上を動かし、足元を確認した。




「..本当に何から何まで申し訳ありません...。」



そこには透明化を解いたナルタリカがリューノの足に治癒魔法をかけていた。



「別にアンタは気にしなくていいわよ。」



冷たく吐き捨てられるナルタリカの言葉には優しさがあった。




「すいませんナルタリカさん...」



「ん?なによ?」



「貴女はどうしてそんなにも関わりのない私に優しく出来るですか?」



ナルタリカはこの質問に手を止めて少し驚いた顔をしていた。

だがリューノはナルタリカの優しさに疑問を感じていた。



この世界では弱肉強食が根強い世界で己の身は基本己が守れ。

これは国民を守る立場の騎士団にさえ少なからず根付いている。


騎士団とて反国軍やテロリストなど犯罪を犯す者の取り締まりと護衛の任務でしか動かない。

町が火事になろうが、誰かが溺れていようが事件性が無ければ騎士団は誰も動かない。


国民を守るという立場にありながら、身近に起こる事には何も干渉しない。そういう世界なのだ。



「人々を守る筈の騎士団でさえ条件が当てはまなければ、人を見殺しにするんです。しかもこれは上層部の取り決めで、そういうのに加担した騎士は罰を受けるんですよ。」



リューノは悲しそうな顔をしながら下を見てナルタリカに話す。



「小さな女の子が土砂崩れで埋もれた事があったんです。その時に私がその子を助けたら怒られてしまいました。」



「一応、今の私達の隊長が何とかこの件は、もみ消してくれました。..ですが人々を守るのが仕事なのに女の子を助けた事を怒られるってのは、どうかと思います。」




リューノは話を続ける。

そしてそんな過去の話を振り返りながら、ナルタリカの方を向く。



「これは騎士団だけの話じゃありません。他の国民だってそんな感じなんです。この世の中の所為だとは思いますし、私もそんな世界に呑み込まれてます。」



「ですが貴女は..優しい..。優しすぎます...。どうしてそんなに貴女は優しくなれるんですか?」



ナルタリカは考える。リューノの質問について考える。

この質問は、かつて自分も賀露島に質問した事と同じだ。



「それは..アンタ..。」





「理由なんて考えれば後から何か思い付くんじゃないの?」



「...はい?」

リューノは予想外の答えに間抜けな声が漏れる。




「...だからアンタを助ける事なんて後から考えれば、ドンドン出てくるもんだって言ってるのよ!!」



ナルタリカは顔を真っ赤にしながらリューノに怒る。

自分で言って自分で勝手に怒っているナルタリカを見て、リューノは圧倒的な存在感を放っていた彼女を身近に感じて、ついプッと笑ってしまった。



「なっ..何笑ってんのよアンタ!私が何かおかしい事でも言ったかしら!!」



「いえ..。とても素敵な言葉でしたので...」



「そういう時は笑うんじゃないでしょうが!もういい!早く少しでもこの足治すわよ!!」



まだ少し怒っているナルタリカが顔を真っ赤にしながら、再びリューノの足に治癒魔法を掛ける。


その魔法は冷たくなった体を温めてくれるような温もりを感じた。

どれ程の悪行をしようとも人は人の何処かには善の心があると信じていたリューノ。

それがカヲンを知って人に対して失望したリューノ。


そんな心が冷えきったリューノの心さえも温めてくれるナルタリカの魔法。

行き過ぎて偽善とさえ言える程の優しさをくれるナルタリカにリューノは一粒の涙を溢す。



「..何泣いてるのよ?そんな位で泣いてるんじゃないわよ。」



「..すいません..どうしても我慢できなくって...」



「あっ..あまり勘違いしないでよね!たまたまアンタがアイツに似てたからだし...。って何言わせるのよ!!」




喋る毎にドンドン自分の秘密を暴露していくナルタリカにリューノは笑いと涙が止まらなかった。



「だーかーら!笑うなって言ってるじゃない!!」



「すいません。ナルタリカさんも女の子なんですね。」



「なっ..!ふっ..ふざけんなバカ!それ以上私がコイツ(カロシマ)を好..好きみたいな事言ったら...こっ..殺すから!!」




そんな事は言ってないと心の中で突っ込むリューノ。これを口に出したら本当に殺されそうだ。




「..っよし!ナルタリカさんのお陰で少し元気が出てきました!」



両手で自身の顔を叩き、気合いを入れるリューノ。

いつまでも落ち込んでいてはいけない。過ぎた事は過ぎた事。


なら次、更に強くなって今度は誰も失わないように強くなるしかない。

次は弱音を吐かないように。




「帰りましょうナルタリカさん。賀露島さんは..まだ気絶してたんですね..」



「まあ何とかするわよ..」




完全ではないがナルタリカの治癒魔法のお陰で1人で歩ける位にはなった。

とりあえずナルタリカの魔法で洞窟から脱出し、今もまだ気絶している賀露島を抱えながら乗ってきた船に戻る事にした。



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