冒険者登録
僕は森の中で出会った妖精と共に町に到着した。
町の中は中世の町に似ていて日本から一歩も出たことのない僕は日本の町以外の町並みに感動していた。
「うおお。海外旅行をしたくなる気持ちが今なら分かるね」
「ここの町も随分変わったのね」
僕の隣を飛ぶ妖精の名前はナルタリカ。
彼女は長い間僕が引っこ抜いた剣を守るためにずっと引きこもっていたらしい。
年数にして100年位前らしく、途方もない時間を過ごしたみたいだ。
妖精の寿命は人間よりは遥かに長いらしく500年は生きられるらしい。
「そんな事より早く宿を探すわよ!私だって飛び続ければ疲れるんだから!!」
「分かったよ。とりあえず宿を探したいんだけど..。」
僕は目の前にあった看板を見る。
そこには文字らしき物が書かれていた。
「すまんナルタリカ。僕この字読めないわ。」
「は?アンタなに言ってんの?普通のカワモラ文字よ?」
「かっ...カワモラ文字!?」
「ええアンタも喋ってんじゃないカワモラ語。」
これは参った。
僕は日本語を喋っていると思ったがどうやらカワモラ語で喋っているらしいです。
「ごめん。僕カワモラ文字分かんないみたい...」
とりあえずカワモラ語は知っているという程で話を進めよう。
「はぁぁ!?アンタそんな事も分からず喋ってたの!?」
「う..うん。」
「なんでその言葉は喋れるのに文字が分かんないのよ!」
「そうそう。僕もそれは思った。」
「アンタが言うな!!」
とりあえずナルタリカに看板は読んでもらって宿屋に入ることが出来た。
手続きを終えてチェックインした。
「とりあえず情報を整理しよう。」
僕は日本で突然胸が苦しくなり倒れた。
目が覚めるとそこには見慣れない景色とナルタリカがいた。
そして剣を抜いて何とかナルタリカを連れて町にたどり着いたと。
ここまでが今までの流れだ。
言葉は通じたが文字が読めないとは思わなかった。
ナルタリカを助けて正解だと思った。
「そういえばあの枠は何だったんだろうか。」
僕は伝説の剣たる物を両手で持ち上げる。
抜いた時には軽々と片手で持ち上げれたのに今では普通に重くなっていた。
「これも枠に出てきた狂化モードになってたからなのか?」
その狂化モードと言う言葉を歩きながら町に向かう時に思い出していた。
「狂化モードってゲームの害獣討伐組で出てくる強化状態のモードチェンジじゃないのか?」
被ダメージが増加する変わりに身体能力の底上げをしてくれるゲーム内ではチートな技である。
これを使うとパーティーを組まないと倒せないような強敵も一人で瞬殺できてしまう為、普通にはまず手に入らないスキルだ。
だが金に物を言わせていた僕は数え切れないほどこれを購入して、運営側からもう購入しなくても使えるように特別に改良してもらったあのスキルがあのときに発動していた。
「スゴイそんな事まで出来るのか僕は」
「ちなみにこの武器のステータスとか見れるのか?」
伝説の剣に目を向ける。
暫くすると例の枠が出てきた。
「うおっ!なんか出た!?」
突然出てきて驚いたがとりあえず読んでみる。
〈伝説の剣【鈍器】〉
なんてこった。確かにそうなんだが伝説の剣で鈍器って言うのはどうかと思う。
カッコいいはずの言葉に1つ単語を入れるだけでこれほどまでに残念な武器になるとは。
すると枠がもう1つ出てきて〈バックにしまう〉と書かれた枠が出てきた。
とりあえずハイと念じると伝説の剣【鈍器】は僕の手元から消えた。
「うおっ!次から次へとなんだ!?どこにいった?」
ふとゲームの事を思いだしバックを想像した。
するとまた枠が出てきた。
するとバックと書かれており中を覗くと伝説の剣【鈍器】が入っていた。
それを取り出しと念じると目の前に伝説の剣【鈍器】が出てきた。
「うおっ!?スゴい!!本当にゲームみたいだ!!」
「僕は今ゲームの中にいるんだ!」
僕はあまりの嬉しさにガッツポーズを決める。
そこに一人不思議そうに訪ねてきた。
「アンタ一人でなにやってんの?」
「...。」
ナルタリカは疲れた体を癒す為に体を清めていたらしくそれが終わって部屋に戻ると僕が一人でブツブツと喋ってガッツポーズを決めてたそうだ。
「それよりナルタリカは伝説の剣【鈍器】からどれだけ離れられるんだっけ?」
自分の行為を改めて考えると恥ずかしくなってきた僕は話をそらす。
「【鈍器】ってなによ。て言うかまあ7、8メートル位かしら」
「なるほどそこまでの範囲ならどこまでも移動できる訳だ。」
「てかアンタ剣はどうしたの!?」
見当たらない伝説の剣【鈍器】を心配するナルタリカ。
「大丈夫。バックしまってあるから」
「バックってなによ...」
とりあえず伝説の剣【鈍器】は僕が持っている事をナルタリカに言い聞かせた。
納得してもらった所でナルタリカからこの世界について分かる範囲で教えて貰った。
彼女も100年までの事しか分からなかった様なので大まかにどんな感じの世界なのかを聞いた。
半分以上は難しかったので耳には入ってこなかったが、いくつか分かったのがある。
ここの世界の文明は魔法が盛んらしい。
そう本当にゲームみたいな世界のようだ。
ワクワクしてきた。
僕も遂に異世界デビューを果たしたのだ。
ギュルルルル。
しかしここてお腹が鳴った。
これは僕の体が空腹であるという事を現していた。
「ナルタリカ?とりあえずご飯食べに行かない?」
「いいけど何処に?」
「それは食事ができるお店に決まってるじゃないか」
僕はウキウキで部屋を出おうと扉を手をかける。
そんな能天気な僕にナルタリカが水を指す。
「そういえば宿借りてるけどアンタお金持ってんの?」
「...。」
「え?」
僕は立ち止まりナルタリカの方を見た。
「だってアンタここの世界に来たばかりなんでしょ?お金あといくら持ってるの?」
そんなの決まっている。
持ってる筈がない。
「あの~。ナルタリカさ~ん。お金持ってます?」
「このバカ!!アンタ何でお金もなしで宿なんかとってんのよ!」
「だってナルタリカが持ってるものかと..」
僕の顔が冷や汗で溢れる。
この世界で早々にやってしまった。
「ヤバイ!ナルタリカどうしよ!!」
「どうしようってアンタもうお金ないなら..」
「逃げるしかないじゃない。」
「犯罪は嫌だーーー。」
とりあえず僕はお金を稼ぐため働き口を探した。
そして見つけた。
「ナルタリカここだね?」
「ええ。そうよでも気を付けてね?最初が肝心よ!」
僕はその家の中に入る。
するとそこには屈強な男達がそこら中のテーブルを囲み紙を見ながら話し合っていた。
そして僕はそのまま歩き、受付までたどり着く。
「こんにちは!こちら第216号冒険者支援ギルドです。任務の依頼でしょうか?それとも任務の契約でしょうか?」
受付の前で立っていた女性が元気な声で僕に尋ねた。
とりあえずナルタリカに言われた通り冒険者登録をすることにした。
「すいません。冒険者になりたいんですけど..
」
「分かりました。冒険者登録ですね?少々お待ちください。」
受付の女性は奥に行くと男の人が一人出てきた。
「おお。君が新しく冒険者登録する者か。とりあえず入ってくれ。」
別の部屋に招かれた僕は服に隠れているナルタリカと共にその部屋へと入っていった。
その部屋はまるで面談室のような感じになっており椅子が向かい合わせに二つあり、その間に長方形の机が1つありペンと紙が置いてあった。
「まあそこにかけたまえ」
「あっハイ。」
僕はその人に言われるままに席に座った。
「まず質問だが冒険者になりたい理由は?」
「はい。お金が欲しくて...」
下手なことは言わずに申請理由は真実だけを言えと言われたので包み隠さず伝える。
「なるほど..分かりました。ですがなら働く場所は冒険者ではなく何処かの従業員になって働けばよろしいのでは?」
おっと少々面接官が圧迫してきた。
簡単には入れない算段なのだろうか。
すぐに大金を入手するには冒険者しかないらしいので、ここで負けるわけには行かない。
ここからは真実だけでは駄目そうだ。
多少の嘘は必要になってくるだろう。
「ハイそう思ったのですか僕にはすぐにお金が必要なんです。僕は家が遠く田舎にあるんですがそこに両親が病気で倒れてしまい今にも死んでしまいそうなのです。」
「それは大変ですね。」
「ハイ。なのでお薬と食事を仕送りしなければならずそれにはある程度の安定したお金が必要なんです。」
「なるほど動機は分かりました。しかしそんな両親をほったらかしにして君はここに来ていいのかい?」
おっと。
これは痛い質問が来た。
とりあえずここは嘘で切り抜けよう。
「妹が世話をしてくれています。」
遠くで田舎。
これのお陰で確かめに行くのが困難になるため相手は承諾するしかないはずだ。
「そういうことですか..分かりました。それではここにサインをお願いします。」
「ハイ!」
僕は出された紙にサインをする。
正直契約書に書かれた内容が何と書いてあったのかは分からなかった。
だがとりあえず紙にサインした。
「ありがとうございます。それではライセンスを発行しますのでお待ちください。」
面接官が部屋を出ていくと部屋には僕とナルタリカしか居なくなった。
「ねえ。どうだった今の?」
「まあ完璧とは言えないけど上々ってとこね。」
何とかライセンスを手に入れた僕は晴れて冒険者になった。
青く輝くライセンスに書かれていた僕の名前はカロシマコーキと書かれていた。
「コーキじゃ無いんだけど。」
多少気に入らない事もあったがそこは気にするのは止めよう。
とにかく今は金だ。
昔は宝くじが当たる前はこんな感じでお金に困っていたな。
なるべく簡単そうで高収入な奴をナルタリカに頼み、クエストボードに貼られた依頼を決めて契約した。
「さあ行こうナルタリカ。宿代と今日のご飯代稼ぐよ!」
「全く人騒がせなんだからとにかく目的の森まで行くわよ。」
覚悟を決めて外に出ようとした時、突然声をかけられた。
「すいませんよろしいですか?」
後ろから聞こえてきたのは女性の声だった。
どこかで聞いたことがあるその声に僕は思わず振り向く。
するとそこにはこの中世の町並みには似合わない黒の軍服を着ていた女性がいた。
彼女は僕と目が合うなり敬礼をする。
「きっ君は!?」
「ハイ!私ですよコウノキ少尉。」
それはどこかで見たことのある。
ゲームの中にいたキャラの女の子だった。
〈狂化モード〉
害獣討伐組にてアシストスキルとして購入可能なスキル。
1度使うと1分ほど持続できるスキルで被ダメージは2倍に上がるものの攻撃力、素早さ共に3倍まで能力を底上げしてくれるチートスキル。
チート故に価格は1個1000円という、ぼったくりな値段で販売している。
運営曰くゲームバランスをなるべく崩したくないが、すぐに強くなりたい人やイベントに遅れて参加した人が期限までに終わるようにするためだとか。