魔法能力
遠い日の記憶。
1人の男と1人の子供がある場所で向かいって立っていた。
幼き頃のバーミンと若かれし頃のフクニーグだった。
「おい..それがどういう意味か知ってんのか?」
「知るか!受け入れろ!!」
初めての出会いは一言で言うと、かなりムカつくガキだった。
今から15年程前。
まだフクニーグが歳にして20代前半の頃に一人の少年が弟子入りを志願してきた。
後の俺の弟子になる男。バーミンである。
この時からフクニーグは冒険者カラーはシルバークラスになっており、そんなフクニーグに弟子入りを志願する者は子バエのようにいた。
しかしその全てを断っていた。
お金はいくらでも積むと言っていた者もいたが全て断った。
何故ならメンドクサイからだ。
フクニーグは人生を楽しく自由に生きていく為に冒険者になったのに、縛られたら意味がない。
良いものによって集るハエ共にしかみえなかった。
そんなハエの一部であろうこの少年にも、当然初めはノーと答える。
しかし俺が思っていた以上に少年は他のハエとは違っていた。
「今日も来たのか?」
「当然だ!アンタが俺を弟子としてスゲェ冒険者にするまで何度でも来るつもりだ!!」
相変わらずの上からの物言い。
これをムカつかずには居られないだろう。
しかし幾度断っても志願しにくる少年に俺も疲れ果てていた。
「だぁぁぁぁ!!分かった!なら一つだけ条件を出す!!」
「ん?なんだ?」
「この山にキメラ鉱石っていう七色に輝く岩がある。そこにあるキメラ鉱石をお前の拳位の大きさのやつ持ってきたら考えてやる!」
「本当だな?」
憎たらしいったら、ありゃしない。
一言一言が頭にピリッとくるがガキ相手にキレるのも大人気ないのでグッと我慢する。
「当然だ。そこんとこは俺も筋は通すぜ。」
そういうと少年は急いで山の中をかけていく。
その後ろ姿を見ながらフクニーグは流石に少年に対して山に一人で行かせるのは危険だと思い、そこの山を管理する西雷の巫女に様子を見て欲しいと頼み込んだ。
その山にいた彼女とはその時からの縁だ。
その日からというもの俺の前に少年が来ることがバッタリ無くなった。
一生懸命探しているのか、それとも素直に諦めたのか。
どちらにせよ少年が来なくなって自由を満喫していた。
しかしその2週間後に再び少年が現れる。
見た通りの感じを伝えるなら泥だらけで汚かった。
しかもよくよく見てみると最後に会った日と服装が変わっていなかった。
そんな少年の右手には彼の拳よりも明らかに大きい七色に輝くキメラ鉱石を持っていた。
これにはフクニーグも流石に驚いた。
実はこのキメラ鉱石を見つけるのはかなりの至難だ。
この鉱石の近くには決して弱くはないモンスターなどが沢山潜んでいる。
森の番人のトロールに会う確率だって無かった訳ではない。
しかしそれをしっかりと成し遂げた少年はフラフラと足をフラつかせながらフクニーグにキメラ鉱石を手渡す。
手渡した瞬間、少年は眠るように倒れ込んだ。
それをサッと支える西雷の巫女フユ。
どうやら彼女曰く本当に一人で1週間誰の力も借りずキメラ鉱石を見つけ出したようだ。
見つけた後もフクニーグに石を渡す為に途中で何度か転びながらも立ち上がり助けの手も借りず一人で此処まで来たようだ。
俺はこの時の感動をいつまでも忘れていない。
そうバーミンはそういう男。
バーミンは誰にも頼らずこの残りの15年を生きてきた事が分かる。
俺が奴を教育はしてやったが、どんな無茶振りも一人で本気でやりやがった。
だがそのバーミンが今になって死に際に頼った。
俺を頼ったのだ。
「そりゃぁ!負けるわけにはいかねーだろうが!!」
魔力の籠った拳をノージ目掛けて振り抜く。
ノージもこれには布を使用し攻撃を反らす。
ノージも流石のゴールド冒険者のフクニーグの魔力には焦りを見せていた。
バーミンの魔力とてそれほど弱いものではない。
だがフクニーグの拳の魔力に比べると明らかに差があった。
「一発当たれば即KO...。ナイィィィィスセェェェェンスゥ!!」
フクニーグの攻撃を全て布へと反らせて何とかしのぐ。
フクニーグも布から布への自分の拳のダメージも受け続けていた。
暫くそんな攻防が続き、両者展開の動かないままだった。
フクニーグが自分の攻撃を受け続け体が疲弊し始める。
ノージの能力は比較的厄介である。なのでその対策として彼の能力を理解して至ったのは布を部屋の隅に戦いながら遠ざける事であった。
(あの布は他の布に通じている。ならこの布さえ離してやれば...)
ノージの能力を理解したフクニーグは彼によってばらまかれていた布を別の場所へ追いやる。
そしてフクニーグ近くの足下に布が無くなった時、フクニーグは攻撃の手を止めてフーと息を吐く。
「お前さっきから自分から攻撃してこねーな?さては布を通すことしか能がねーんじゃねーか?」
そもそもフクニーグが受けたダメージは全てフクニーグが自身が放った拳の魔力のみだった。
ノージ自体も布をかざすだけで何もしていない。
何も自分はしなくてもお前に勝てる。
そう言っているようなものだ。ならば攻めるのを止めてみればいい。
攻撃の手を止めるフクニーグ。
すると案の定ノージは本当に何もしてこない。
「フフフ。やはりそう来ましたか...最ももっと早くそうするのかと思っておりましたが。」
ゆっくりとノージに近寄るフクニーグ。
そしてノージの握っていた布を取る。
片腕を失っているノージにとっては絶望的状況であるのだが、彼は未だに笑っている。
「お前の魔法能力は分かってる。布と布をつなぐ能力だろ?使い方によっては、かなり厄介だったが、その分弱点は、とことん弱い。」
「そうなのですかね?」
フクニーグは拳を握り魔力をためる。
これでノージは無防備。
俺の勝ちだ。フクニーグはノージに拳を下から振り抜く。
「ぐぅわぁ!」
声をあげフクニーグが振り抜いた拳をノージの腹部へ放った。
しかしその後、フクニーグも腹部に痛みを感じる。
「ぐぉぉぉぉぉ!!」
何故だ?
何が起こった?
「何が起きたのか分からないっという顔をされておりますね?まあ無理もありませんよ。魔法能力の能力なんて簡単に分かる筈無いのですから。」
ノージの能力は布と布を繋げる能力ではない。
ならなんだ?
自分自身の拳を本気で自分の腹部に放った事が君にはあるだろうか?
まさにその不思議な感覚なんだろう。
とりあえず状況を整理してみる。
布を通すことで攻撃を別の布に反らすことの出来る能力。
ただそれだけだと思っていたが。
事実、この男は布を使用せずフクニーグの攻撃をフクニーグ自身にダメージを返していた。
だがノージの様子を見ていると彼もまた痛そうに腹を抑えている。
演技では無さそうだ。
「..一体何しやがった...」
腹を抑えながら低姿勢になる2人。
フクニーグは読んでいた能力とは違うノージの未知な魔法能力に先程までの勢いを無くしていた。
しかし思いの外、ノージの方も堪えていたようだ。
暫く動けない2人。
しかしそんな2人の天井に空いた穴の上から1人の女が降りてくる。
女はスタッと着地して、冷たい瞳で彼らを見下しながら口を開く。
「..アンタら..よくそんな泥喧嘩ができるわね?見てて呆れてくるわよ?」
フユだ。銀髪の長い髪がキラキラと光る西雷の巫女。
どうやら突然何かを見つけたように動き出したフクニーグをつけてきたようだ。
場は彼女によって凍りつくように寒気を感じていた。
「ナイッスゥゥセェェェェンスゥ!本物じゃないでぇすかぁぁぁ!西雷の巫女様をみられて私は感動しましたよ!!」
巫女の服に身を包む姿に銀髪。
さらにヒシヒシと伝わってくる尋常でない存在感は彼女が西雷の巫女であることを確認する必要も無かった。
「ついてきてたみたいだがアンタの出番はねぇーよ。」
「フーン。なんかてこずってたみたいだけどいいのね?」
「アンタの出番はねーって言ってるだろ?」
「あっそう。」と軽く話し血まみれで倒れるバーミンに歩み寄る。
フユは近づいてく内にバーミンが異常な状態であることを知る。
フユはもしやと思いバーミンの首に触れ、そして分かった。
「ちょっと..この子..死んでるわよ...」
なんでこうなったかは周りの状況をみれば分かる。
そしてフクニーグが紳士服の男と戦っている理由もなんとなくだが分かった。
フクニーグも分かっていた。
血の量が尋常じゃなかったし、そして何より誰にも助けを借りず自分の力で戦ってきた男が師匠である自分に勝つことを頼ったのだ。
だからコイツは俺が!
フクニーグは次の手として足下に落ちている瓦礫を手に取る。
それを見たノージが腹部を抑えていた右手を離す。
今までの余裕な表情は無くなっていた。
「オラァァァァァァ!!!」
渾身の魔力を込めて瓦礫の天井の破片をノージに向けて放り投げる。
するとノージは右手の裾から大きな布を取り出しフクニーグの放った瓦礫を布へ通す。
フクニーグが放ったであろう瓦礫は隅に寄せていた布から出てきて天井に突き刺さる。
彼の出した大きな布もどうやら魔法能力の物のようだ。
「大体見えてきたぜ?お前の魔法能力...」
「フフフ。確かに少しヒントを差し上げ過ぎてしまったかも知れませんね。ナイスセンスですよ..ですが...」
ニヤリと薄気味悪い顔を見せる。
その時、フユが動く。
「フクニーグ!ソイツから離れなさい!」
「もう時間のようです...」
突然だった。
目の前で突然ノージの姿が消えていた。
あまりにも突然の事にフクニーグは周りを見渡す。
ノージを見失った事にフクニーグは怒りが込み上げる。
「ふざけんるなぁぁ!!何処へ行きやがったァァァァァ!!」
確かにノージは目の前にいた。確実にそこにいて、此所で戦っていた。
「野郎ぉぉ!見つけてやらァァァァァ!!」
見失ったノージを追いかける為、フクニーグは走り出そうとした。
しかし足が動かなかった。
足下を見てみると足は両足共に氷付けになっていて動けなかった。
「おい...フユ。いや..西雷の巫女。コレは一体どう言う事だ?」
「フクニーグ。アンタは今、冷静さを失っている!そんな状態だと行かせられないわ!それに敵が悪すぎる...」
フクニーグはフユの言葉など聞き入れる気は無かった。
当然だ。生意気だったが小さい頃から育てていた弟子が殺されたんだ。
駄目と言われても耐えられる筈が無い。
「相手が悪いとか関係ねえ!俺はアイツを勝たせてやらなきゃいけねーんだ!!」
フクニーグは足を凍らせている氷を割るため魔力を拳に込めて放つ。
轟音をたてパキーンと音をだす。
しかしそれは氷が割れた音ではなく魔力に反応してさらにフクニーグの腕ごと凍らせた音だ。
「くそっ!これを解きやがれフユ!!」
「聞きなさいよ私の話を!アイツは暫く前からここには居なかったのよ!!」
その言葉にフクニーグはピクッと反応する。
「どう言う事だ?確かにさっきまでアイツは...」
「フクニーグ..アンタは誰とも戦ってなかったのよ...」
フクニーグは分からなかった。
じゃあ自分は何でいない筈の敵と戦っていたんだ?
「..じゃあなんだ?俺は幻覚にかかってたってのか?」
そう呟くフクニーグ。
その後フユが重い口を開く。
「ええ。そういう事よ..アンタだけじゃない..私もかかっていたわ。」
フクニーグは混乱していた。
どうして一体何が起こっていたのかが分からなかった。
「オイオイ..マジかよ?巫女のお前がそこらの人間に幻覚魔法をかけられるなんてあり得ねーだろ」
「ええそうね。普通の奴ならね?でもそれが可能な奴等は少しだけどいるわよ?」
フクニーグは体を凍りつく感覚がした。
決してフユが凍らせた氷の所為ではない。
察したのだフユが言う敵の正体を。
「..獣神...が..この近くに居たのか?....」
「ええ。目星もついてる。恐らくは4獣神の一人よ。」
フクニーグは言葉を失った。
自分を頼ってくれた弟子を殺され、託された敵の標的にも逃げられ、さらにその敵の後ろには絶望的な存在の敵がいることを知った。
「フクニーグ..今はこの子を弔ってあげなさい。」
フクニーグの体を拘束していた氷が溶けていく。
フユが解除したのだ。
開放されたフクニーグだったが、暫く動くことは無かった。
そんな彼の頬をキラキラと光る液体が一粒流れ落ちた。




