あの世
キラキラと光る川を見た。
キラキラと光る橋を見た。
一面黄金に輝く世界。
これ程までに美しいのにバーミンの心は心此処にあらずという状態だった。
只1つの疑問は浮かぶ。
此所はどこだと。
「何だここは...キラキラと眩しい所だ...」
ゆっくりと橋の方を歩いていくバーミン。
特に理由は無く、只橋を目指して歩いていた。
橋の前に立つとそこには深い霧がかかっていた。
その霧は一寸先も見れないであろうというほど濃いものだった。
色々と過去の事を振り返っていたが、一先ず足を1歩踏み出す事にした。
「おい。お前どこに行く気だ?」
また聞こえてきた声。
後ろを振り返るバーミン。
そこにはフクニーグがいた。
バーミンを一人前の冒険者にまで育ててくれた師匠のような存在。
「フクニーグ..散々生意気な口を聞いてきたけど言わせてくれよ...今までありがとう...」
何故唐突にそんな事を思ったのか分からないがお世話になっていたフクニーグに感謝を伝えたくて仕方がなかった。
今までの過去を振り返り、そう伝えたくなったのだ。
「そんな事はどーでもいい。俺はどこに行くんだと言ってるんだ。」
「しつけーな。そんなの分かんねーよ。俺はただ流れるままに歩くだけだ。」
再び前を向き直し、また1歩と踏み出す足。
「お前は後悔はしてないのか?」
後悔?何を言ってるんだ?
ピタッと足を止め立ち止まるバーミン。
「後悔なんてねーよ。俺は完全にあの男に負けたんだ。完敗だよ。死んでも仕方ない。」
止めた足をまた踏み出そうとする足。
しかしフクニーグの会話は終わってはなかった。
「へぇ~なら良いんだ?俺お前が隠し持ってる秘蔵のポルノ写真を世間に暴露しちゃって良いんだ?」
踏み出した足をすぐに止めて再び立ち止まり、フクニーグの方に振り返る。
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!?はあ?ハァァァ!?何で...はあぁぁぁぁぁぁぁ!?」
フクニーグの思わぬ発言にバーミンは声をあげる。
「はぁ!?はあ!?はあぁぁぁぁぁぁぁ!?」
恥ずかしさのあまり頭の中がショートし考えがまとまらなくなっている。
「どうしてそんな事を..しっ知ってんだぁぁぁ!!」
フクニーグは知らねと言わんばかりに他の場所をみて口笛を吹く。
実はバーミンには誰にもバレたくない秘密があった。
幼女だけで結成されたアイドルグループ[キャンディーズ]のファンであることを。
平均年齢8歳という驚愕の4人アイドルユニット。
幼い容姿で見るものを癒し、まだ幼い未熟な声帯で力一杯に歌う彼女達にバーミンは惹かれていった。
しかしバーミンも始めは興味なんてなかった。
このアイドルユニットのキャンディーズも世間のお茶の間では評価されてはいたが、年齢が年齢の為、社会的にはあまり良い意見は無く、若い子供やオバサン達ならファンとして社会的に許容されていたが、大人になった男に対しては許容されなかった。
実際オッサン達による彼女達を狙った事件は数多く発生していた。
そのオッサン達から彼女達の安全を守るために護衛の任務に着いていた時があった。
その際、彼女達から「お願いします」と元気一杯に笑顔で挨拶された時以来からバーミンもファンになっていた。
フクニーグのポルノ写真というのは恐らく彼女達の写真の事だろう。
しかしバーミンの性格上、この趣味は隠しておきたい事。
それがバーミンの死後に、こんな奴だったと言われたくない。
永遠にバカにされる運命。
忘れ去られる方がマシだ。
隠し通す!死ぬのはそれからだ。橋の上にのぼっていたバーミンは降りるためにフクニーグのいる場所まで戻る。
しかしバーミンが橋を降りきる前に誰かに肩を触れられる。
「ちょっと!ちょっと!困るッス!三途橋を歩いたのに戻られたら非常に困るッス!!」
なんだこの女。
黒いショート髪の巫女服を着た女が橋を降りようとするバーミンを引き止める。
頭に生えているアホ毛がやたらと印象的だ。
「はぁ?」
「いやいや。めっちゃ困るッスよ!三途橋は足を乗せた時点で閻魔さんに報告書出してるんで困るッスよ!!」
ボサボサの頭を少し掻き、バーミンに橋を渡りきるように言う。
この巫女の女曰く、「まあ橋を渡りきったら死が確定ッスけどね!」と余分な事を1つ付け足していた。
なら尚更橋を渡るわけにはいかない。
「悪いが帰らせてもらうぜ?やり残した事が何個かあったんでな?」
橋を降りきる1歩の前に再びグイッと引っ張られる。
なんて力なんだこの女は。
「いい加減言うこと聞くッス!報告書と違う内容の事をされるとウチが怒られるッス!!」
「そんなん知るかぁぁぁ!!」
バーミンの渾身の拳を女の顔面目掛けて振り抜く。
殴られた女は「うぎゃ!」と声をあげバーミンを掴んでいた手を離す。
掴まれていた手が離れ、自由になったバーミンは橋を降りる。
すると先程のキラキラと黄金色の世界がどんどん暗くなって体が薄くなっていく。
そんな中の声が聞こえた。
フクニーグの声だった。
「1人で解決しようとしなくてもいいんだぞ。」
体が重い。
目の前には礼装に身を包み黒のハットを被るあの男がいた。
「バーミン殿。もう辛いのでありましょう?あの世を見てくるといいですね。」
あの世?
何言ってるんだ?
あの世なら恐らくさっきまでいた場所だろ?
なら別にすぐに戻る必要はねぇだろ。
それにまだ俺は。
終わってねぇ!!
男は左腕が無い為、バーミンを殺すために右手を近づける。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
大きな掛け声と共にバーミンは自分の腹部に刺さって貫通していた槍を両手で掴む。
そしてその槍をバーミンの腹部から引っこ抜くついでに近づいていた男の腹部に突き刺した。
「ぐぉォァォォォ!!」
男はすぐさまバーミンから距離を置き、槍で刺された腹部を抑える。
「..あぁ?どーした...おもしれぇ声出しやがって...お前ホモかなんかかよ...」
「..なっ!?..フフフ。私としたことが...貴方にそれほどの気力が残っているとは思いもよりませんでした。」
言葉が1つも発せられず両者向かい合う。
少しばかり無言で空白の探り合いが繰り広げられる。
しかしここで男から沈黙は破られる。
「バーミン殿。貴方はもうその傷で生きていくのは難しいでしょう。なら貴方があの世で恥にならぬよう私の名前をお教えしましょう。」
「私の名前はノージ・マンゴートです。この名はあの世でも知れ渡っているでしょうから誇って下さいね?」
ノージは下に落ちている布を右手で拾い上げる。
そして布に手を突っ込む。
すると僕の背中が何かに触れられる感覚があった。
そう。バーミンの背中にある壁には布が杭でぶら下がっていた。
全て礼装に身を包むノージの策略だった。
切り落とされたノージの左腕は遠隔で魔法により自律して動いていた。
そして気づかれず予め予想していた壁に布を杭で打ち込んでいた。
そうやってバーミンの槍は彼の背中から出てきた。
そんな布から出てきたノージの右手がバーミン体を貫き、心臓を掴む。
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
激痛。消えかけていた意識が一瞬にして痛みにより叩き起こされる。
無痛なのはバーミンが繰り出す魔法能力のみ。
他人からの攻撃は当たり前のように痛みを感じる。
「これは驚きました。まさか貴方も痛みを感じるようですね?...しかし能力を読み間違えましたか...どうやらバーミン殿の魔力が無痛の効果を持っているようですね?」
どうやらノージはバーミンの能力を自身に痛みを無くす能力だと思っていたが、自分の攻撃に対してバーミンが異常な反応をしたのでそう考え着く。
実際その通りであってバーミンの攻撃しか無痛効果を持っておらず、その他のノージからの攻撃は確かに痛みを感じていた。
しかしこれによりバーミンにも分かったことがある。
(俺の致命傷は殆どが俺自身の攻撃のみ。)
確かに無痛の魔力を込めなかった最初の槍での攻撃以外は能力を使用していた。
ノージがダメージを受けてなさそうな様子を見ると、バーミンの無痛の攻撃は全て自分に返ってきたという事が予想できる。
(最初の小手調べの能力抜きの槍をやった時みたいに無痛の攻撃が俺に当たっていたとしたら...)
しかしそれは布によって起きたわけでは無さそうだ。
「...チッ!それが芸ってやつかよ!!」
「...質問の答えになってませんが..よいでしょう...そうです!この多彩さが芸デェェェェスゥゥ!!」
相変わらず気に食わないムカつく野郎だ。
だがやることは決まっている。
バーミンは槍を右手でしっかりと握る。
そこに魔力が込められる。
「ナァァァァンセぇぇぇぇぇンスゥゥゥ!!バーミン殿!!貴方は私に心臓を握られている状態なのですよ!?潰されても....」
「やってみろォォォォォォォ!!」
バーミンは槍を放つ。
最後の力を込めた槍が放たれる。
ノージもこの程の魔力の槍を受けたら死ぬのを避けることは出来ない。
すぐさまバーミンの心臓を離し、片方しかない右手で布をかざす。
しかし槍の軌道はノージの予想した方向には来なかった。
バーミンの槍は天井へ向かっていた。
そのまま勢いを失わず槍は地下にある天井と土を突き抜け、緑の生い茂る森の空に打ち上げられる。
凄まじい轟音をたて放たれた槍。
ノージは天井を見るとそこには大きな穴を開け、ここからでも青い空がハッキリと見えてしまう程だった。
「...よもや此れほどとは...シルバー冒険者であるだけの事はありますね...」
この一撃によりバーミンは力尽きるように倒れる。
倒れた体からは大量の血が流れ続ける。
「これ程の傷でよく此処までやれますね...やはり失うには惜しい人材でありました...ナイスセンスでしたよバーミン殿。」
ノージから称賛の声が聞こえてくる。
しかし今はもう疲れた。
もうバーミンは自分の能力は発動していないのに体から痛みが無くなっていた。
再び目の前が白くなってくる。
もうこれが本当に最後になると思う。
バーミンは薄れゆく意識の中、後悔している。
(あぁ。出来ればキャンディーズの写真..別の場所に隠したかったな...あと..賀露島ともう一度闘いたかったな...そして..何より...)
薄れゆく意識の中、涙一粒落ちる。
(フクニーグ...アンタに最後に直接言いたかったよ..)
「...コイツはアンタに...任せた...」
あの世から帰ってきた際にバーミンのイメージの中のフクニーグに言われた言葉がある。
『1人で解決しようとしなくてもいいんだぞ。』
そう言われた。
俺ではこのノージには勝てない。
だから託す。この槍を見てくれているフクニーグに。
「あぁバーミン...後は任せな...」
男の声が聞こえた。
それは昔、自分を冒険者として育ててくれた人の声。
これほどの安心感があるだろうか。
「ほほぅ。これは厄介でありますな..シルバーだけでなく次はゴールドの男も来るとは!!」
そこには巨大な体に今にもはち切れんばかりの筋肉が浮き出る黒肌の男。
フクニーグが立っていた。
「そういうことだ..生かして帰す気はねぇぞ?」
「これはこれは怖いですね?」
ノージは深々とお辞儀し、自己紹介をする。
しかしその瞬間。
フクニーグの拳がノージの顔面に叩き込まれる。
飛ばされたノージは壁を突き抜け隣の部屋で砂煙をあげ、倒れこむ。
「おい!ノージかなんか知らんが自己紹介なんて要らねーんだよ。死にゆくお前をいちいち覚える気はねーぞ!」
フクニーグから伝わる魔力にノージは一瞬震える。
「ナイス!ナイス!ナイスセぇぇぇぇぇンスゥゥゥ!!」
ハットを取り、額から漏れでた血を布で拭き取る。
その顔は狂気に溢れている。




