伝説の剣
バージョン2023
ツンツン。ツンツン。
暗い闇の中で何かが僕の頬をツンツンとつつく感覚がした。
どうやら僕は眠ってしまっていたようだ。ツンツンと僕をつつく何かのお陰で我に返ることが出来た。
いつの間にか消えていた胸の痛みに安堵し、僕は目を少しだけ開けて半目の状態で僕をつつく者の正体を確認する事にした。
しかし、すぐに僕は目を閉じる結果となっていた。
(なんだあれ!?)
僕の暗闇の世界から光が射し込み、目に映ったのは得体の知れない何かだった。
大切な事なのでもう一度言う。得体の知れない何かだった。それは人の形をした羽のある小さい物体だった。
僕は死んだフリを続け、何かがこちらに危害を加える気は無い事を確認出来たのでそのまま死んだフリで乗り切ろうとした。
僕は呼吸を極力止める。何かに生きてる事を悟られてはならない。
恐らくこれほどまで頑張って呼吸を止めているのは3年位前に職場の後輩から息が臭いと言われて呼吸を窒息ギリギリまで耐えたとき以来だろう。
呼吸を止め始めると、先程までツンツンと頬をつつく行為が止まった様に思えた。
(よしっ!何とかいけたぞ!!)
心の中でガッツポーズを決める僕。しかし突然寝息を抑えるのはまずかったようだ。
「アンタが起きてる事はもう分かっとるんじゃぁぁぁい!!」
得体の知れない何かからのつつく攻撃は先程の5倍の速さで何度も僕の頬をつつく。
痛くないけど流石の僕もイラつきを覚え、向こうも気づいてるようなので起きてみる事にした。
少し怖かったが何とか声に出す事にした。
「………はいはい。…何ですか?」
怖かったので下手に恐る恐る聞こうとしたが、怖がっていた事が知られてしまうのが癪だからと強気で何かに口を開いた。
突然起き上がり話しかける僕に得体の知れない何かはビクッと驚きを見せる。驚かせてしまっただろうか。一先ずこの勝負かったと心の中でガッツポーズを取ることで完全に落ち着きを取り戻した。
しかしその後すぐに毅然とした態度になる何かは大きく息を吸って口を開く。
「……ちょ…ちょっと…アンタねぇ!ここで何してるのよ!……ここは…アンタみたいなショボい人間が寝ていい場所じゃないわよ!!」
強い口調で話す小さな何か。少し震えている事が声色で分かる。やはり何十倍の大きさがある人間は威圧的に見えるのだろう。
勉強嫌いな僕が浅い知識なりに何かについて考え、恐らくゲームでも見たことあるが妖精かそれに近い何かだと僕の浅い知識で導きだした答えだ。
性別は声や風貌を考えるに女の子のようだ。
「……なっ…。なによ……なんなのよ……」
何かこと妖精をじっくり見つめると更に彼女を怖がらせてしまったのだろう。声色が更に震えていた。
現物を生で見ると虫のような羽に小さい体は僕には少し不気味に思えた。
だが小さいながらも目に映る彼女の姿は、今まで生きてきて出会った事がない言葉に出来ない美しい容姿に僕はつい言葉が漏れた。
「可愛い...」
「!?」
僕の漏らした言葉に先程の驚きよりもさらに激しく驚きをあらわにする妖精。
その顔が少しばかりか赤くなっていた。
「…ばっ...バッカじゃないの!?…アンタ……そんな事言って……わっ……私みたいな妖精族を誑かして……あっ……あんな事や………こっこ……こんな事とかするん気でしょ!!」
「..あんな事やこんな事って何だよ...?……っと言うか小さいけど君を見たら普通に可愛いって思うでしょ?」
「...あう!?」
さらに真っ赤になる妖精。あまりにもスラスラと思った事を口にする僕に彼女は動揺を隠せていないようだった。
だが僕はロリコンではないので小さな妖精は残念ながら僕の恋愛対象にはならんのだ。妖精がロリに入るかは別だが。
一見女の子の扱いが分かっている様に思えるが、ここまで女の子と会話を続けているのは生まれて初めての事だ。
それが出来たのは彼女が人では無いからかは分からなかった。
「そういえばここは何処なんです?」
思いの外、気楽に喋られる彼女につい軽く質問をする。
改めて落ち着きを取り戻し周りを見渡せば木々に覆われており、約10mもの円状の石で出来てるであろう祭壇の中央に豪華な彩色のある剣が一本だけ中途半端に刺さった状態であるだけだ。
見慣れたような見慣れない景色に疑問を抱くのは間違えでは無い筈だ。自身の安否確認もあり聞かざるをえない。
「何よアンタそんな事も知らないでこんなとこに来て寝てたの!?」
僕の言葉に少し怒りを見せる妖精。
どうやら僕は軽はずみな事を言ってしまったようだ。
「ここは伝説の剣がある神聖な場所なのよ!ショボい人間が来てもいい場所じゃないのよ!!」
小さな体とは思えない程の力のある声に僕は圧倒された。
こんなに怒鳴られたのはアルバイトをしていた頃に大きなミスを犯したとき以来だと思う。2年以上前のお叱りのお言葉に呆気をとられていた。
どうやらここは大人しく彼女に謝った方が良さそうだ。
「知らなくて申し訳ないね。直ぐに帰えるよ……」
キレられた事に少し不貞腐された感じになったのは性格もあるが、過去のアルバイト経験を思い出してしまったからなのか感じの悪い子供のようになってしまい少し怒りを感じた。
こういう態度の後は大体良い事は怒らないのが相場だ。言ってから気づくがもう遅い。火に油を注ぐ行為でしかない事に気付くのは、いつも相手の沸点を上げきった時である。
面倒になる前に去ろう。重い体を持ち上げこの場所に来る前、自分の家に居た時に襲ってきた胸の痛みを思い出し胸を擦りながら妖精の言う神聖な場所から出おうと立ち上がる。
特に今も胸の痛みもないので問題なく動ける。
さっさと立ち去ろうと妖精に背を向けて反対方向へ歩き出す。その際、後ろからある程度怒りの言葉が耳に入ってくると思っていたが、予想とは違う声が聞こえてきた。
「...あっ...」
突然先程と違う妖精の弱々しい声が聞こえてきた。怒りとは違う弱い声に去ろうとする足が止まる。
「どうしました?」
先程までの強気な態度から一変し、助けを求める女の子のような声の違いに目を丸くした僕は彼女へ言葉を返して振り返る。
「……なっ……何でもない……わよ…」
僕の顔を見たからか彼女は再びふてぶてしい態度に変化する。その様子を見て察した僕は溜め息を吐いて周りを再度見渡してみる。
別の妖精がいないのか確認をする必要があると思ったからだ。しかし何度か見渡してみたものの、それらしき存在は見当たらなかった。
「他に仲間は?」
「いるわけないじゃない私はずっと一人で伝説の剣を守って来たんだから、そんなの要らないわ一人で十分よ」
強がりを言っているのが分かる。彼女はとても分かり易い。
ここまで分かり易いと助けてやる他ないだろうと考えてしまう程に可哀想な奴だと呆れてしまった。
「どうしてその剣とやらを守ってるの?仕事かなにか?」
「仕事じゃないわよ…これは私だけに架せられた使命なの……伝説の剣が持つべき者の手に渡るを見届ける使命……だから……」
俯く彼女に僕はいくつか考えを巡らせる。馬鹿なりにも目の前の状況を見て見ぬふりを決めたくは無かった。
彼女の言葉から察するに使命であるこの状況は覗いんでいたものでは無いように思えた。封印されし伝説の剣を抜くのは勇者が相場であるが果たして彼女はどれだけの時間を待っていたのだろうか。
聞く気にはならない。下手な同情は相手への失礼にあたる。同情されて何かが変わっていたのならば僕は高校を中退なんてしていなかった筈だ。
「その使命は君じゃなきゃ駄目なのだとして、放棄する事は出来ないのか?逃げたらいいじゃないか」
心にもない言葉が出た。辛いと吐き出した昔の僕にこの言葉は僕の耳にどれだけ届けられていたのだろうか。
別の何かに変えろとか辞めればいい等と色々言われてきた。その都度ここで「分かってる」と何度叫んで来たことか。
言わる立場から言う立場になった時の言葉が、自分を惨めにしてきた人間達と同じ言葉であった事に少し悲しさを覚える。しかし、これが今は最も僕が正しい事であると思える言葉でもあった。
「逃げたらって……!………私はね…呪いを受けてるの……」
「…呪い?」
予想外の言葉に僕の頭は彼女の物語の構築を始める。
それは最初には思いつかなかった非人道的結果だ。恐らく呪いとやらで一人この場所に縛り付けられているということだ。
「この場所から絶対に離れられないの?」
それにゆっくり頷く小さな妖精。
何かを悟ったかのような目。その表情に少し前にあった心臓発作の痛みとは違う胸の痛みがあった。
僕は伝説の剣へ向かいそれに手を掛けた。この剣が彼女がここから出られない元凶。細かく言われなくとも分かる。
悲しげにコチラを見つめる小さな妖精の思いに応えようと力一杯引き抜こうとする。
抜けない。どれだけ祭壇から抜くために力を込めても抜けない伝説の剣に対してあげられた男の声だけが無情にも響いていた。
僕は選ばれし者ではない。この妖精がいるファンタジーの世界で僕は勇者にはなれなかった。
------
「体がいてぇ……よ……」
先程は頭上にまであった太陽もすっかり下がり赤い景色が広がる。
場所は伝説の剣がある所から離れた草むらにいた。暫く歩いていたからか疲れで適当な岩に座り込む。木々が少なくなってきて遠くに大きな村らしきものが見えた。
久々の運動にガタがきたのか全身が痛い。体を少し伸ばしてリラックスする姿勢になる。頭の中を真っ白にして気持ちよく声を出す。
大きく息を吸い込み、大きくため息を吐くと消えゆく太陽を見つめる。
夜までには村に付きたいと重い体を起こして立ち上がる。村に向けて一歩踏み出すも反対の足が前に踏み出すことはなく、突っ立ったの姿勢になる。
何をしているんだ。そう考える僕もいたが同時に胸を抑えて頭がグチャグチャになって何も考えられない。
「今…何時なんだろうな……」
腕時計や携帯電話などの装飾品はない。手ぶらでこの世界にやってきた僕に確認する術などないのだ。
「ゲームの世界なら何かタッチ操作が出来そうな気も……」
そう呟く僕の眼前に四角形の何かが現れた。
ピコン!
------
暗い森が広がる中、太陽が頭上で照らすと一際輝かしく場所がある。
伝説の剣が封印されし場所。
魔王を倒し得ると噂される伝説の剣が眠るこの場所で共に眠る小さな少女の話。
彼女は生まれながらに伝説の剣が封印された彼の地の護り手としその身に呪いを受け、その剣と共に選ばれし者を待つこと500年。
その時の中で何度もその剣に選ばれる為に挑戦を受けた者はいたが、とうとう選ばれる者は現れる事はなかった。
少女は暗い森の中で剣と共に1人眠る。誰も寄り付く事がなくなった彼の地で今日も彼女は1人で眠ろうと横になる。
久々の見知らぬ不届きな男の事を思い出し涙を流す彼女。そのすぐそこに人の気配を感じた。
飛び起きた彼女は剣を奪いに来た者から守るため警戒して、その気配の方を向く。そこにいた男に彼女は呆然と立ち尽くし、警戒を解いた。
500年を超えたこの日に同じ男が再び現れる。その目に映るものは剣ではなく彼女であった。
「……なっ……何で帰ってきたのよ……」
少し鬱陶しそうに不貞腐れる彼女の言葉に少しばかり怒りを感じたが目を逸して少しばかり見えた彼女の恥ずかしそうな顔に、笑みがこぼれてしまう。
「君が寂しそうだったからね。もう少しばかり僕が付き合ってやろうと思ってね」
「嫌味?…そんな事言ってアンタの事だから道に迷ったんじゃないのかしら?」
皮肉には皮肉で返す妖精は先程まで隠していた笑顔を見せて、僕もそれに釣られて声に出して笑った。
実際迷っていたりもしたので間違っていない。
「本当にアンタ何しに来たのよ。別にここには伝説の剣以外には何も無いわよ」
一応僕が戻ってきた理由を知りたそうな顔をしている。
そんな彼女の顔を真剣な表情で見つめ改めて話す事にした。
「また挑戦しようと思ったんだ。そうすれば君はこんなくだらない場所にいる必要はない訳だろ?」
「…は…?……うん……そうね……剣さえ抜ければ特にここに残る必要は無いわね……」
「そうか…なら……」
僕は伝説の剣らしきものに再び近づく。
そしてその前に立ち止まり地面に突き刺さる剣を思いっきり両手でかける。
引っ張るが抜けない。
まるでコンクリートに刺さる電柱を抜くような感じがした。
びくともしなかった。
「…だから言ってるじゃない..今まででそれを抜くために色んな人がここに来て試していった。」
彼女は再び悲しそうな顔に戻る。その声は悲痛の叫びを訴えるかのように酷く弱っていた。
「けど皆…駄目だった。そうしているうちに誰も挑戦にすら来なくなった。…だけど…私はずっと抜かれるまでココで待ってなきゃいけないのよ。その剣が抜かれるまで…。だからアンタが来て話しかけてくれるだけでも嬉しかったからもういいの。もう無理だから辞めてよ」
小さな妖精の心の叫びが彼女の知らないうちに漏れ出ていた。抜けなかったが故に失望し彼女の前から僕がいなくなってしまう事が怖いのだろう。
ならば初めから僕には挑戦すらして欲しくない。そう思ってて叫ぶ彼女を僕は無視した。聞くわけにはいかない「もうむりだから」を「わかりました」で終わらせたくない。
『なりたい職業とかないのか?』
「宇宙飛行士!」
『無理だから辞めとけ』
「……うん…わかった……」
『行きたい学校とかあるの?』
「とりま公務員目指せるところかな〜」
『今更無理だから辞めとけって』
「……そうだよなぁ……」
そうやって何でもリスクばかり発言する者達に何も言い返せないまま流され辞めてきた。
彼らの言葉を理解している僕の心が過半数存在していて、「だけど」と反発していた少数の僕を殺し続けてきた先にあったのは無だけだった。
道は逸れても進む事を辞めていなければ違う道にも行けた筈だが、いじけてしまった僕は進む事を完全に辞めてしまった。故に無しかなかった。
「うるせぇ!ムカつくんだよ…諦めやがって!」
彼女に聞こえる言い放つ。
きっと宝くじが当たらなければ幸せなんて感じなかったかもしれない。それは多分たまたまだったし、この先またお金が無くなれば元通りになる筈だ。
きっと彼女を救うことを辞めたらまた同じ結末を迎える。……だけど……あの時もコレで始まっていたから。
『おいおい…宝くじなんて当たらないぞ。辞めとけって』
「分かってるよ……だけどさぁ………」
ピコン!
突然現れた四角形の枠。そこには文字が書かれていて内容は〈狂化モードに移行しますか?〉だった。
僕はハイと心の中で唱えた。
再びピコンと音がした時、体が軽くなったのを感じた。
(なんだこれ!?力が沸いてくる!!今なら!!)
「うおおおおおおおお」
思いっきり剣を再び握り直して上に引っ張る。
やはり硬い。
なかなか抜けない。
それでも抜きたい。
変な意味ではない。
ただこの剣を抜きたい!
僕の声が増すに連れてここら一帯の地面が揺れ始める。
「ちょ...ちょっとアンタ!?もしかして...」
「ぐわぁぁぁぁぁ!!!」
ボコーーン!!
大きな音がした。
砂ぼこり舞う中で妖精はコホコホと咳をする。
一体どうなったのか。
知りたい。
妖精は男が居たところに飛び寄る。
砂ぼこりが晴れてくる。
剣は!?
剣は石の祭壇に刺さったままの状態だった。
「……なんよ……期待しちゃったじゃない…やっぱり剣を抜くことが出来るのは要るのかも分からない選ばれし者だけなのよ……きっとまたアンタも………」
妖精は地面に座り込み両手をついた。かつて大昔にここへ来ていた者達との楽しかった会話を思い出して。
「なぁ…君の呪いはこの祭壇じゃなくて剣に付けられてるんじゃないか?」
「……そうよ……だからなによ……」
男は伝説の剣をスッと持ち上げた。
しかしそれは石の祭壇にあった石の部分が付いたままで。
「え?なにが起こって..って。あっ!?」
妖精はその剣を見ると剣は刺さっていた部分は石から抜けていない状態であった。
だが地面にある祭壇からは離れていた。
そう、実はあまりの怪力で抜けたのは剣ではなく地面に刺さっていた剣の回りに付く石の部分だけだった。
祭壇の石ごと引っこ抜いたので剣と呼ぶにはあまりにも歪な形をしていた。
抜かれた伝説の剣は、言い換えるならもはや剣ではなく半径1メートルの石が付いたままの鈍器になっていた。
「スゴイ..この石…固った...」
妖精からしてみれば当たり前だ。剣を簡単に掘り起こせないように伝説の剣でしか刺さることがない程の硬度を誇り、今までもあらゆる武器職人の鍛冶屋が最新技術を用いても祭壇には傷1付けられ無かった超鋼鉄の石なのだ。
そんな選ばれし者でしか祭壇から抜きだす事を考えていない造りの伝説の剣についた石部分はとてつもない凶器となっていた。
「さて。それでこれからどうする?僕はこれを持っていくけどさ」
妖精に質問する。
妖精は質問に少し戸惑をみせる。
「でもやっぱり本当の選ばれし者が現れないと...」
戸惑う彼女は嬉しさ反面、怖さがその半分といったかんじだろうか。無理もない使命は果たされていない。前提が違うのだから。
ならば僕は……。
「その選ばれし人をこっちから探しに行けばいいと思うんだ。」
「それにさ僕はこの世界の人間じゃないから、この世界の事知っている人がいて側に欲しいんだよねぇ」
僕は妖精に手を差し出す。
手を差し出された妖精は見つめる。
妖精は手を見て僕の方を見てニコッと笑顔を見せる。
「…そうね。ここの人間じゃ無いならしょうがないわね!私に任せなさい!!」
また生意気な態度に変わる妖精だったが、こんなに可愛い笑顔が見れたらそれでいいとするか。
妖精は今までで出ることの出来なかた部屋の出口の前に立つ。
妖精は昔は外に出ていたらしく久しぶりの外の世界に足を止まらせた。色々な思いが彼女の頭に駆け巡る。呪いはまだ解けてはいない。だけど……。
「さあ行こうか」
優しく僕は彼女に声をかける。頷き部屋から一歩祭壇の外に踏み出した。その勇気は500年の重みがある。
それでも彼女は伝説の剣を抱える僕と一緒にそのまま外を歩き続けた。彼女はそのまま何も言わずに僕の前に回り込み決して振り向く事なく飛んでいた。
「アンタはここの事、全然知らないらしいからアンタが私について来なさい。」
「…なんか頭にきた。これ投げてやろうかな」
冗談を言いながら僕は彼女の一歩後ろを歩く。
彼女の威厳を保ってやろうじゃないか。
彼女が今どんな顔をしているか僕には見ずとも分かった。
僕はこれからこの世界で頑張って生きていこう。
なるべく新しい人生をまた最高の物にしよう。
しかし何故だろうか?
先程までずっと誰かに見られていたような...
何年か越しの修正