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理楊参戦

「ちょっとアンタしっかりしなさい!今すぐ回復の魔法かけてあげるから!!」



ナルタリカはバーミンに槍を放った後、すぐに賀露島の元へ行き彼の血だらけの体に触れる。


すると賀露島の体が白い光のベールに包まれ傷が癒えていく。



「これだけの傷...治すのにどんだけ時間かかると思ってるのよ...」



少しずつではあるが溢れ出ていた血が止まり始める。

ここまでやればとりあえずは命は取り止められると思う。


ボロボロ体で気絶する賀露島から呼吸音を聞いてナルタリカはハーと安堵する。


ギリギリの所で繋ぎ止められた命。ナルタリカは命の尊さに改めて思い知らされた。



しかし同時にナルタリカは疑問に思う。

先ほどの(バーミン)は妖精のナルタリカしてみれば大したことの無いレベルの人間だ。


彼レベルの冒険者なんて沢山見てきたし、それ以上の強者だって見た事だってある。


しかしそんな彼らに出来ずに賀露島だけが出来た事がある。


伝説の剣を引っこ抜いた事。

選ばれし者でないにも関わらず、それを土ごと抜き取り伝説の剣【鈍器】にさせた男。


そんな怪力の男があの程度(バーミン)に遅れをとる筈がない。

そして1つの考えに至る。



(コイツは力を使いきれていないんじゃない?)



まず彼らの大きな違いは魔力にある。

賀露島は魔力を一切使えず、己の身体能力のみで戦っていた。


そこから考えるに初めは剣が魔力を弾いているのでは?と考えた。

しかしそれは違うと確信できている。何故ならナルタリカ自身も剣を魔力を用いて抜こうとした時があったし、現れた人々達も皆が魔力で抜こうとしていた。


その時も確かに剣は魔力に干渉していたと思う。


なので剣は魔力を弾いておらず、ナルタリカ自身も単純に力が足らなかったのだ。


他にも色々と考えられると思うが、どうしても賀露島のあの力で無いと抜けないと思った。


それにあのとき賀露島に何かしらの力が加わったのだと思う。



あの時と何の違いがあったのか分からない。だが1つ言えるのは確実に賀露島はこんなものでは無い筈なのだ。



少し考え込むナルタリカ。


大雨の後でまだ蒸し暑く多くの人が汗を流すような気温の時、ナルタリカは背筋が凍りつくような冷たさを感じる事となる。 


死。

これ程鮮明に感じた事があったであろうか。

ナルタリカが死を連想させる元凶は目の前にいた。



「...はぁ~~ん。うん!やっぱりお兄ヤンの血はとっても美味しい~。」



ボロボロ体で立っている賀露島の体から流れていた血を首から耳の辺りの頬までをベローンと理楊は舐める。


一度では終わらず何度も何度も舐める。

ハアハアと荒れる息と紅く染まる顔。開けた口から見える鋭い犬歯と長い舌が獲物を喰らう猛獣のように見えた。



その様子ををただ見ているだけの時間が何分たっただろうか。ナルタリカはまだ恐怖を払拭出来ずにいた。

ナルタリカはずっと賀露島の側にいたし周りも周りの人間から襲われないように警戒もしていた。


それなのに何の前触れもなく現れた理楊に恐怖以外の何も残らなかった。




「ちょっとアンタ何してるのよ。」



何とか勇気を振り絞り、この異様な光景を見かねたナルタリカが理楊を止めに入る。

だがそれでも理楊は止める事なく賀露島を何度も舐め続け足下に落ちている血すらすすり出した。


聞いている様子が無いようなので行動に移ることにしよう。

バーミンの槍を操ったように彼女の魔力を理楊を拘束するために使う。



「...あれ?動きが鈍くなってる...?」


理楊は自身の体が鈍くなっている事に気づく。

当然だ。ナルタリカが彼女の行動を止めさせるために魔力で行っていることだ。



しかしナルタリカは驚くしか無かった。

彼女自身あまり自分の事を強いとは思っていないが、少なからずも人間や獣属に負けることはないと思っていた。

実際血統がそれに表れていたからだ。妖精は生物の中で最も魔力に優れた種族。世界の理である。



そんな彼女の魔力が理楊相手にダメージどころか止めることすら出来ずにいた。



「ちょっとアンタ!!いい加減ソイツから離れなさい!!」


渾身の声で理楊に向けた言葉。その声は野次馬達からも分かる程の勇気のある言葉だ。


そしてそれをナルタリカは少し後悔することになる。




「ァァァァァああああァァァァァァァァァァああああァァ!?」



理楊が放つ咆哮にその町一帯の窓ガラス割れる。

それほどの耳に響く声。

それを聞いた野次馬達は白目をむき泡を吹きながらバタバタと倒れる。



マンドラゴラと言う草がある。その根を引っこ抜くと中から不気味な人の形をした根っこが出てくるのだが、これがまた煩い。


抜いた人間は鼓膜が破れて死んでしまう程の煩さなのだが理楊の叫びはそれに匹敵するものだった。



「う...なんて耳にくる声なのよ...」


キーンと鳴りやまない耳鳴りを両の手で抑える目の前には初めて感じる異様なオーラが理楊の周りでモヤモヤと空間を歪めているのを確認出来た。

そしてここで1つのナルタリカは瞬きをする。



「!?」


「おい...お前ずっとお兄ヤンに付いてた奴だろ..?」



ナルタリカは恐怖で体がガタガタと震えだす。たった一回である。


瞬きは目の乾燥を防ぐ為、一度開いている(まぶた)を閉じる生理現象。

瞬きは幾時生きる生物で目の乾燥を防ぐ為に、この現象をしなければいけない生物は皆が人知れず行う。


例外はあるがナルタリカのような妖精族も瞬きは欠かさずに行う。

どんなに危険な状態になろうと必ずしてしまう現象。


瞬きは1分間に通常平均にして15回程行う。個人差は個人の体調や意識で変わるものの、一回の時間にして0.5秒から0.1秒とされている。


そんな僅かな時間なら普通何の支障も無いため危険な時だって関係なく行為が行われても問題はない。



しかしナルタリカの目の前の景色が変わったのは、その瞬き一回分だけだった。


つまるところ理楊はナルタリカが瞳を閉じてから開くまでの間にナルタリカの目の前まで移動していた。今目の前にいる理楊との距離は10センチもない。



「匂いで分かるんだよ..お前だろ?ハエ野郎。」



震える唇がガクガクと音をたて始める。

こうなると人に限らず生き物は逃げることさえも出来ずに止まってしまう。


ナルタリカとはいえこれ程の化け物に睨み付けられたら妖精などと種族は関係ない。



あるのは生かされるか殺されるかだけである。



「アタシの夫に手を出そうとするなんてバカね~。お兄ヤンに近づいてもいい奴はアタシが許した奴だけ...。お前を許した覚えはないぞ?」



真顔から普通では考えられないほど頬をあげて笑う満面の笑顔にナルタリカは理解する。

これは死だと。



「アタシに許可なしで、お兄ヤンに近づいた罰として、とりあえず死んで?後でこの槍を持ってた奴も葬ってあげるから安心してね?」


そう言い持っていたバーミンの槍をその辺に捨てる。

ニコニコと可愛い笑顔を見せているが言葉はそれと逆を思わせる。



「お前を切り裂くのはお前が次に瞬きをする時だ。」



ナルタリカは必死に目を堪える。次に瞬きをするときがナルタリカの人生の最後。



目が徐々に乾燥していく感覚が伝わってくる。

あまり意識して目を開けようとした事がなく、目を開け続ける事がこれ程辛いことであることを初めて知る。



目がショボショボし始め、涙が出てくるが流れ落ちるだけで瞬きが出来ないので瞳を潤すことが出来ない。


ナルタリカの目が霞み始め、限界を迎えていた。

そして瞼は彼女の意思とは反して自動的に瞳を閉じさせた。


瞬きを行った。



瞳が閉じきる寸前で理楊はナルタリカに向けて尖らせた爪をたてて切りかかる。


その一瞬。理楊も1つここで瞬きを行った。



理楊は再び瞳を開ける。

瞳を開けた先に写っていたのは切りかかったナルタリカの無惨な死体では無く、雨上がりの雲1つ無い綺麗な青空が広がっていた。



事の異常さに自分の置かれた状況を確認する理楊。

そして把握する。

自身の体が後ろに倒れつつあることに。



そして背中から地面に転がり落ちる。その時青い空と共に瞳に映る男の顔を見てニヤリと笑う。



「はぁぁァァ~ん。やっぱりお兄ヤンはカッコいいな~。」



倒れる理楊を賀露島が除き込んでいる。

先程とは違う眼光の変わりようは賀露島ではない別人のようだった。



一方のナルタリカはあまりにも一瞬の出来事で瞬きの瞬間に起こった。

当然何が起こったのか全く分からなかった。だが賀露島のお陰で助かった事は状況を見て分かる。


助かったことに安堵しナルタリカは疲れた顔をしてフラフラと地面にパタリと膝から落ちる。


ナルタリカの長い寿命の中でかなりの時間が削られてしまったと思う。


そしてこれから生きられるかは賀露島次第である。



そんなナルタリカを他に理楊と賀露島はお互いを見ていた。

理楊は蕩けた顔で、賀露島は冷たい目で睨み合う。



暫くこの時間が続く。特にお互いは動くことも無く、ただ睨み合う。



しかしここにきて約11秒。

賀露島が瞬きをする。



そしてその一瞬。理楊が動き出した。


冷たい物を飲んだ時に右下の歯が染みる!

ふざけるな!!虫歯は4本って言ったろ!!


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