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僕の最期の願い

作者: 蓮井 錬

 白い天井、白い部屋、周りには点滴やモニター類などの医療器具、そして、先生や看護師さんもいる。僕にとっては見慣れた病室やモニター類の音、そうここが僕にとっての普通であり、日常だ。病気が寛解して悪化しての繰り返しで、今回の入院が何度目になるのかは、もう僕にはわからない。


 病院は退屈だ。それに、僕は病院にいることが好きじゃない。病院にいる時間の方が長いけど、やっぱり僕は、自宅の方が好きだ。


 「あー、はやく家に帰りたい、学校にも行きたい。」


 はやく治って、この日常を変えたい。皆のように普通に学校に行ったり、普通に遊んだりしてみたいっていつも思ってる。


 けれど、最近は、症状が重くて体調があまりよくない。もうだめなのかもしれない。そう思うことが増えていった。


 「ねえ、お母さん、死ぬのって怖いね。死にたくないな」


 「大丈夫、大丈夫だから」


 母さんは泣きそうな笑顔でその言葉を繰り返し僕を抱きしめてくれた。そのおかげで少し僕の心は正常を維持することができた。


 母さんが帰った後、僕はまた一人こう思うんだ。


 明日はもっと楽しいことがありますように、そして、無事に明日がいつものように来ますようにと願いながら今日も眠りにつく。



 朝日が病室を照らす、この光が、僕の意識を起こす。


 あ、よかった、今日も生きているんだ。


 気づけば母さんと父さんがいる。ううん、それだけじゃない。お爺ちゃんやお婆ちゃんもいる。めずらしいな、いつも入院してるときはお母さんは面会に来てくれているけど、お父さんは仕事が忙しくてこれないはずなのに。それにおじいちゃん、おばあちゃんも自宅が遠くてなかなか来れないはずなのにな。


 だから、今日は嬉しいな。え?なんでうれしいのかって?うん、確かに、病気は辛い、苦しいよ、だけど、僕の大好きな人たちに会えて嬉しいんだ。


 でも、皆どうしたんだろう。なんで、そんなに泣いてるの?お母さん、お父さん、お爺ちゃん、お婆ちゃん、なんで泣いてるの?それに、先生も看護師さんもなんで泣いてるの?ねえ、皆どうしたの?なにか、悲しいことがあったの?なんで、皆無視するの?ねえ、なんで


 しばらくすると、僕の担当医である医師と看護師は病室を後にした。時間と残念ですという言葉を僕たちに告げて。



 病室には、僕の大事な家族の悲嘆な表情と感情が病室を包んでいた。


 僕の家族が、僕の名前を繰り返し呼びながら泣いている。


 そっか

 

 僕は、死んだんだ。

 

 ううん、本当はもう最初から気付いてた。だけど、認めたくはなかったんだ。認めなければ認めさえしなければ、まだ生きることができると思った。わかってるよ。そんなことは非現実的であることも。


 うん、ほんとはもっと生きたかったな、でも、家族や支えてくれた人達がいたから僕は一人じゃなかった。さみしくはなかった。だから、ほんとに


 「ありがとう」


 ねえ、もう僕の言葉は届かないかもしれない。だけど、これだけは届くといいな。


 「ありがとう。そして、僕の分まで、いつまでも、笑って、ほんとにたくさん笑って生きてほしい」


 それが、僕の最期の願い。











 皆さんは、人生の最期の時、どのように思い、死を受容しますか?死というものは、誰にでもいつかは必ず訪れるものです。それが、はやいかおそいかはわかりませんが。


 本当に死が直前に迫ったものにしか、その苦しみを理解することは本当の意味ではできないのかもしれません。しかし、人一人の人生、そして、その命はそれだけ重いのです。重いからこそ苦しい、悲しい、恐怖という多くの感情が表出されるのではないかと思います。


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