後悔先に立たず
あらら、ちょっと気になる展開です。
*ヒデ*
巡りあいの不思議と言う言葉を噛み締めている。
ノッコの退院に伴って忙しさを増しているアレックスに変わって、秀次は亜美の送迎をかって出たのだが、タイミングが悪いというのはこういう状況をいうのだろう。
亜美を店に送り届けた後でしつこく店の中に居座って、亜美がきびきびと働く様を微笑ましく見ていると、お客さんに声をかけられた。
「すみません。この模様で他の色はありませんか?」
その女の人は綺麗な模様の付いたお皿を手にしていた。
「申し訳ありません。私はこちらの者ではありませんので、今、店員を呼びます。」
そう言ってお皿から顔を上げると…そこにはよく見知った顔があった。
「まぁ! ヒデッ!! なんて懐かしいのっ。お元気だったぁ~? 」
「ロザンナ…。」
亜美がこちらを振り返ったのが目の端に映ったが、秀次は声をかけなかった。
いや声はかけられないだろう。
秀次は小説の中で読んだことのある、浮気の現場を見つかった亭主のような、居心地の悪さを感じていた。
きちんと別れている元の彼女。
きちんと振られている今、好きな人。
やましいことは全然ないはずなのにやましく感じる。亜美にどう思われるだろうと心配になる。
おかしなものだ。
ロザンナが「時間があったらお茶でも飲まない?」と誘ってきたので、喜んでその誘いに乗ることにした。
これ以上この店の中で昔のあれこれを言われたら、穴を掘って日本まで逃げ帰りたくなってしまう。
秀次はロザンナを伴って、そそくさと店を後にした。
◇◇◇
*アミ*
仕事が終わり、ケネスの運転で家に帰ったら、ノッコが帰ってきていた。
「ノッコ、お疲れ様。具合はどう?」
「だいぶ歩けるようになった。でもまだアヒルみたいな歩き方だけどね。」
「クレアは?」
「やっと寝てくれたの。ジャスティンと違ってなかなか寝ないのよ、あの子。」
夕食の時…滝宮様は帰ってこなかった。
まだあの女の人と一緒にいるのかしら?
亜美がノッコとアルさんに今日あったことを話していると、宮様の話になった。
今朝、ロザンナという名前の女の人と店を出て行った話をすると、アルさんは納得した顔をした。
「それでか…。奥歯にものが挟まったような言い方をして、夕食はいらないと言われたが、どうりでね。ロザンナか。」
「ロザンナって誰なの?」
ノッコが亜美の心の声を代弁してくれたかのように、アルさんに尋ねてくれる。
「うーん、もう時効だと思うけどここだけの話にしといてくれよ。大学時代の宮様の恋人だよ。皇室の関係の、ええっと宮内庁っていうんだっけ、そこの人たちに反対されてすぐに別れたんだけどさ、宮様は初恋だったみたいで当時はだいぶ落ち込んでたな。」
「へぇー、あんなにハンサムな人でも恋が実らないのねぇ。」
「そこに行くと私達は幸運だったな、ラブ。」
アレックスとノッコが見つめ合っていたので、亜美は空気になって夕食を食べ続けた。
なんか両方の意味でいたたまれない。
滝宮様は本当に好きだった人と結ばれなかった。
たぶん日本人と結婚しろとでも言われたんだろうなぁ。
だから少し気になる人が見つかったら、ああやって私にしたように就職斡旋のようなアプローチをしているんだろう。
恋心が感じられないのも無理はない。
心はロザンナさんのもとへ置いてきたんだものねぇ。
お気の毒に…。
なにかちょっと勘違いが入っている亜美だった。
これが凶と出るか・・・。なかなか手強いな亜美。